コンサートの記(773) 藤岡幸夫指揮関西フィルハーモニー管弦楽団枚方特別演奏会「エンター・ザ・ミュージック スペシャルコンサート」
2022年3月31日 枚方市総合文化芸術センター関西医大大ホールにて
午後7時から、枚方市総合文化芸術センター関西医大大ホールで、関西フィルハーモニー管弦楽団枚方特別演奏会「エンター・ザ・ミュージック スペシャルコンサート」を聴く。指揮は関西フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者の藤岡幸夫。
能と狂言による杮落とし公演以来となる枚方市総合文化芸術センター関西医大大ホール。関西医大こと関西医科大学のキャンパスの隣にあるが、ホール名はネーミングライツによるもので、関西医科大学のホールではない。
藤岡幸夫が司会を務めている音楽番組「エンター・ザ・ミュージック」(BSテレ東)の収録を兼ねての演奏会である。
曲目は、ヴィヴァルディの「四季」(ヴァイオリン独奏:神尾真由子)、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」(ヴァイオリン独奏:神尾真由子)、ストラヴィンスキーの「火の鳥」組曲(1919年版)。
「エンター・ザ・ミュージック」の収録を兼ねているため、テレビ東京アナウンサーの狩野恵里が司会を務める。「エンター・ザ・ミュージック」の現在のメインのアシスタントは、テレビ東京アナウンサーの繁田美貴(はんだ・みき)であるが、狩野恵里は繁田の代役として何度か出演したことがある。
「四季」と「火の鳥」では、本番の前に藤岡が作品解説を行い、実際に関西フィルを鳴らして音が何を示しているのかを分かりやすく示す。
更にコンサートの協賛が森下仁丹であることを紹介し、藤岡が森下仁丹のサプリメントを愛用していることを明かしていた。
また今日の演奏会には、枚方市長、東大阪市長、門真市長の3人の市長が駆けつけているという。枚方市長は説明するまでもないが、このコンサートは本来は東大阪市で行われるはずだったのがコロナで延期になり、東大阪の新しいホール(東大阪市文化創造館Dream House大ホール)は予約で埋まっているということで、東大阪市長が直々に枚方市のホールを推薦してくれたそうである。また、関西フィルは以前は大阪市港区にある弁天町に事務所を構えていたが、パナソニックの街として知られる門真市に事務所や練習場を移転したため、門真市長も駆けつけてくれているようである。
本編に入る前に、藤岡と狩野は当然ながら「『エンター・ザ・ミュージック』を見て欲しい」とアピールする。狩野が、「BSなので日本全国どこでも見れます」と語っていたが、実は京都市内ではテレビ東京系(テレビ大阪)の地上デジタル放送は複雑な事情により、基本、見ることは出来ない。BSは勿論例外で、京都でもBSアンテナを付けたり、ケーブルテレビや配信サービスを使えばBSテレ東を見ることが出来る。
ヴィヴァルディの「四季」。事前に行った藤岡の解説により、「春」の第2楽章の犬の鳴き声の描写について、神尾から「なるべく汚い音でやって欲しい」と注文があったことが明かされるが、確かに汚い音でやると犬の鳴き声のように聞こえる。これまで聴いてきた「四季」のCDや実演では、犬の鳴き声も綺麗に演奏されていたが、解釈によってかなり違うことが分かる。
「四季」の弦楽アンサンブルはドイツ式の現代配置での演奏である。コンサートマスターは岩谷祐之。
歴史的演奏法(HIP)を駆使した演奏であり、新鮮な印象を受ける。神尾の独奏も音を足し(ているのかこれまでとは違う譜面が存在するのか)て自在な描写を繰り広げる。即興的な印象も受けるため、ジャズのように聞こえる場面もあったりする。当時は作曲家が演奏も兼ねる、もしくは演奏家が作曲の技術も備えていることが当たり前であったため、即興の要素もかなり盛り込まれていたはずである。
関西フィルのビブラートを抑えた透明感のある弦も印象的であった。「四季」を世界的にヒットさせたイ・ムジチ合奏団も、近年はピリオドスタイルで「四季」を演奏しているが、やはり作曲された当時のスタイルで演奏した方が鋭くて格好いいように感じられる。
先日の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、ヴィヴァルディの「四季」より「冬」第1楽章を模した音楽が流れたので、それを思い出しつつ聴くのも良い。
枚方市総合文化芸術センター関西医大大ホールは多目的ホールであり、残響などは余り感じられないが、客席の奥行きが余りないということもあって音の通りが良く、細部までよく聞こえる。
後半の「ツィゴイネルワイゼン」と「火の鳥」は、アメリカ式の現代配置(ストコフスキーシフト)で演奏される。
サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」は、誰もが一度は耳にしたことのある名曲であるが、神尾真由子が「ツィゴイネルワイゼン」をオーケストラと演奏することは珍しいらしい。どのオーケストラでも「神尾さんを呼ぶなら大曲だよね」ということで、演奏時間8分ほどの「ツィゴイネルワイゼン」は選ばれないようである。
演奏前に神尾は、「速い部分が難しいです」と語っていたが、緩やかな部分の難度も相当なものである。また彼女特有の影のある輝きを持つ音はこの曲に合っている。
ストラヴィンスキーの「火の鳥」(1919年版)。
大阪に4つあるプロコンサートオーケストラのうち、大阪フィルハーモニー交響楽団と日本センチュリー交響楽団は、ドイツ指向のガッシリとしたアンサンブルを特徴とするが、関西フィルハーモニー管弦楽団は、特定の国のオーケストラを規範とするスタイルではなく、フラットな音楽性を持つ。ということで国籍不明の音楽になってしまうこともあるのだが、「火の鳥」では、ストラヴィンスキーの鮮やかなオーケストレーションや迫力、神秘的な雰囲気などを十全に表しており、桜の時期に相応しいフレッシュな快演となっていた。
藤岡によると、枚方での演奏会は、「エンター・ザ・ミュージック」では小出しにして複数回に渡って放送されるそうで、楽しみである。
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