観劇感想精選(434) 加藤健一事務所 「サンシャイン・ボーイズ」
2022年5月3日 京都府立府民ホールアルティにて観劇
午後2時から、京都府立府民ホールアルティ(ALTI)で、加藤健一事務所創立40周年・加藤健一役者人生50周年記念公演第1弾「サンシャイン・ボーイズ」を観る。
本来は一昨年に予定されていた公演であるが、コロナ禍により延期となり、本年に改めて上演されることとなった。
出演:加藤健一、佐藤B作、佐川和正(文学座)、田中利花、照屋実、加藤義宗、韓佑華。声の出演:清水明彦(文学座)、加藤忍。テキスト日本語訳:小田島恒志、小田島則子。
演出は、堤泰之が手掛ける。
「サンシャイン・ボーイズ」は、ニール・サイモンの代表作であり、ニール・サイモンに憧れて演劇を志した三谷幸喜(彼は本来は映画監督志望であったため、最初から演劇を目指していたという訳ではないのだが)が、自身が日大藝術学部時代に旗揚げした劇団に、東京サンシャインボーイズという名を与えたことでも知られる。
私が東京サンシャインボーイズの公演に接した経験は一度だけで、東京・新宿の紀伊國屋ホールで行われた「ショウ・マスト・ゴー・オン ~幕をおろすな!」の1994年再演版がそれなのだが、実はその時、座長である宇沢萬役で出演していたのが佐藤B作であった。当時の東京サンシャインボーイズは、看板俳優であった西村雅彦(現・西村まさ彦)が、三谷の脚本である「振り返れば奴がいる」への出演や、フジテレビの深夜音楽特集の一つである「マエストロ」に主演するなどして知名度を急速に高めていたが、知名度自体では客演の佐藤B作が最も高かった。
サンシャイン・ボーイズと佐藤B作が繋がったということで、個人的な原点回帰のようで嬉しくなる。
出演者は比較的多めだが、実質的には、かつて「サンシャイン・ボーイズ」の名でヴォードヴィル界を沸かせた、ウィリー・クラーク(今回演じるのは加藤健一)とアル・ルイス(同じく佐藤B作)の二人が軸であり、本道ではないが一種のバディものとなっているのが特徴である。時折、バディもの映画の代表的存在である「明日に向かって撃て!」のオープニング&エンディングテーマ(“Not Goin' Home Anymore” バート・バカラック作曲)が流れ、以前の二人の関係がノスタルジックに浮かび上がる。この音楽による演出はとても良い。
かつてアル・ルイスとコンビを組み、サンシャイン・ボーイズの名で一世を風靡したウィリー・クラーク。サンシャイン・ボーイズとして43年活躍したが、12年前にウィリーとアルの間で諍いが生じ、11年前にサンシャイン・ボーイズは解散。アルはヴォードヴィルでやっていける自信がないとして株式仲買人へと転身したが、ウィリーは、芸能の仕事を続けている。だが、すでに老境に達しつつあるウィリーの下に舞い込む仕事はほとんどない。
甥であるベン・シルバーマン(佐川和正)がマネージャーを務めているが、仕事を取ってくることは少なく、ウィリーは、経年劣化の進むホテルの一室に暮らし、通俗的な昼メロをぼんやりと見続けるような無為な日々を送っている(一応、仕事の依頼がいつ来てもいいよう、電話のそばにいる必要があるとの理由があるらしい)。本当にやる気があるのなら、映画館に出掛けて前衛的な作品を鑑賞したりもするのだろうし、テレビ映画は当時でもそれなりのものが放送されていたと思うが、そうしたものを観る気力ももう失せているようである。「サンシャイン・ボーイズ」というタイトルを付けながら、こうした黄昏の日々を舞台としているところがいかにもニール・サイモンらしい甘悲しさである。
そんな時、ベンがCBSからの仕事の依頼を持ってくる。往年のアメリカコメディーを特集する番組にウィリーにも出て欲しいというのだ。だが、11年前に解散したサンシャイン・ボーイズ再結成という形で、というのが条件であった。
喧嘩別れをしたということもあってウィリーは乗り気ではなかったが、ベンがようやく取ってきた「金メダル」級の仕事、またアルの方も、「孫にヴォードヴィルスターとしての自分の姿を見せたい」ということで、ニュージャージーからニューヨークへと出てきていた。
久しぶりに再会するウィリーとアル。過去のしこりは残っているものの、得意芸だったコント「診察室へどうぞ」のリハーサルを始めることにするのだが・・・・・・。
ビターな味わいのある大人のためのコメディであり、若き日の栄光と、そうではなくなった今の対比が、滑稽と悲哀を生む。
華々しさを取り戻すことはないという、リアルでシビアな展開なのだが、「近い将来実は」という救いになりそうな話を持ってくるところが憎い。あるいはサンシャイン・ボーイズはとある場所で、大成功こそしないかも知れないが……という希望が見える。日没前後のマジックアワーは人生にもあるのかも知れないと、強くではないが背中を押されたような気分になる素敵な作品であった。
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