これまでに観た映画より(296) 「勝手にしやがれ」4Kレストア版(2K上映)
2022年5月23日 京都シネマにて
京都シネマで、ジャン=リュック・ゴダール監督の「勝手にしやがれ」を観る。日本では特に沢田研二がこの映画にインスパイアされた曲をヒットさせたということもあるが、ゴダール監督作品の中でも最も有名な映画と見て間違いないだろう。長編第1作が著名にして今なお世界的評価を得ているというのも稀なことである。
出演:ジャン=ポール・ベルモンド、ジーン・セバーグほか。原案をフランソワ・トリュフォー、監修をクロード・シャブロルが務めている。
2007年にDVDで観ているが、映像特典では、ジョン=ポール・ベルモンドが、自身が行った即興の演技の解説を行っていた。
有名なラストシーンで、どこまで走るかはベルモンドに一任されており、ゲリラ撮影であったため、ベルモンドは、「これ以上走ると車に轢かれる」という寸前で倒れたことを明かしている。死ぬ前に自分の手でまぶたを閉じるという有名な仕草もベルモンドによる即興である。
ろくでなしのミシェル(ジャン=ポール・ベルモンド)の話。実話が基になっている。マルセイユで車を盗み、南仏で乗り回していたミシェル。警察のバイクに追いかけられ、逃げるが、エンストして追い込まれた時に警官を射殺してしまう。かくてミシェルはお尋ね者となった。
パリに戻ったミシェルは、知り合いの女性から金をくすねたり、トイレで手を洗っていた男性を襲って金を奪ったりと、相変わらずのろくでなし生活。最終的にはアメリカ人の恋人であるパトリシア(ジーン・セバーグ)の下に転がり込むことになる。パトリシアはジャーナリストを志している。そうしている間にも捜査は進み、ミシェルは指名手配され、新聞にも顔写真と名前が載るようになっていた。
多くの映画監督が言葉を武器とする批評家からスタートしたというヌーヴェルヴァーグの映画らしく、過度にエスプリをちりばめたセリフが特徴。いくらフランス人とはいえ(ジーン・セバーグはアメリカ人だが)、ここまで凝った言葉を喋る人はいないと思われ、リアリティを欠くのだが、いわゆるリアリティとは別のところで勝負しているところがヌーヴェルヴァーグ(新しい波)の特徴である。おそらくヌーヴェルヴァーグの作家達にとって、リアリティの重要度はそれほど高くはなかっただろう。
ジャン=リュック・ゴダールの作品は、私はそれほど好きではないが、「勝手にしやがれ」の完成度にはやはり感心させられる。
ちなみに、「勝手にしやがれ」制作時に、ジャン=リュック・ゴダールは28歳、ジャン=ポール・ベルモンドは26歳、ジーン・セバーグは二十歳である。みんな若い。
フランソワーズ・サガン原作の映画「悲しみよこんにちは」のセシル役で鮮烈なデビューを飾ったジーン・セバーグ。続けて出た「勝手にしやがれ」も好評だったが、実は彼女の出演作の中でヒットしたのは、この2作だけである。興行成績的にいうなら「悲しみよこんにちは」も成功とはいえないとされる。以降は女優としては低迷し、政治活動に力を入れるが、精神を病み、40歳の若さで自殺している。
ただ、「悲しみよこんにちは」で売れたということで、「勝手にしやがれ」のセリフの中に、サガンの『一年ののち』や『ブラームスはお好き』といった小説のタイトルがちりばめられている。だが、今日は残念ながら客席から笑いや反応は起こらなかった。天才少女作家の代名詞でもあったフランソワーズ・サガンも他界して久しく、小説も絶版が多く、今後は読まれない過去の作家となっていくのかも知れない。
とはいえジーン・セバーグもジャン=ポール・ベルモンドもとにかく魅力的である。セリフも映画のスタイルも自己中心的もしくは自己完結的であり、登場人物の間、そしてスクリーンと観客の間でもすれ違いが起こっていることは実感出来る。まさしく「勝手にしやがれ」状態だが、それが魅力になるというのが、この映画の強さである。車を盗んでは逃げ回っている男、そんな男についていく女、ろくでもない二人だが、そのろくでもなさの哀感が観る者を魅了する。「勝手にしやがれ」という邦題はベルモンドのセリフに由来するが、かなり上手い邦題だと思える。
3年前(2019年)に火災に遭ったノートルダム大聖堂、凱旋門、エッフェル塔、コンコルド広場など、舞台となっているパリの名所も多く登場し、パリの美しい街並みや風景も目にすることが出来るが、同時に例えばユゴーの『ノートルダム・ド・パリ』に描かれたような、もう一つのパリとその魅力が語られているような独特の妙味を持った映画と賞賛したい。
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