コンサートの記(780) シャルル・デュトワ指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団第558回定期演奏会
2022年5月31日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて
午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団の第558回定期演奏会を聴く。指揮はお馴染みのシャルル・デュトワ。
デュトワと大フィルが初共演したのが、2019年の5月定期。大好評で、早速、翌2020年5月の定期演奏会にもデュトワが招かれることになったのだが、コロナ禍により中止に。この頃は大阪だけでなく、日本中そして世界中の演奏会で中止が相次いだ。2021年5月の定期演奏会の指揮台にもデュトワが立つ予定だったのだが、緊急事態宣言によりまたも中止。今回、三度目の正直で、デュトワが大フィルの5月定期を指揮することになった。
昨年はセイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)にも参加したデュトワ。有観客公演は果たせなかったが、演奏会はネットで生配信され、大好評であった。その後、新型コロナウイルスに罹患したことが報じられたりもしたが、無事復帰している。OMFには今年も参加する予定である。
プログラムも2020年5月に予定されていた曲目から変更はなし。ハイドンの交響曲第104番「ロンドン」、ラヴェルの組曲「クープランの墓」、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「ペトルーシュカ」(1911年版)。
今日のコンサートマスターは須山暢大。ドイツ式の現代配置での演奏である。ハイドンとラヴェルは小さめの編成での演奏。「ペトルーシュカ」は客演奏者を多く招いての大編成での演奏である。「ペトルーシュカ」のピアノは、ソリストとしても人気の北村朋幹(ともき)が務める。
ハイドンの交響曲第104番「ロンドン」。フランスもののスペシャリストというイメージのあるデュトワだが、ハイドンの交響曲のレコーディングも行っていたはずである。
20世紀末にはかなり人気を落としたハイドンだが、21世紀に入ると交響曲全集がいくつも登場したり、全集まではいかなくても選集や人気指揮者による話題盤が作成されたりと持ち直している。大阪でも飯森範親が手兵の日本センチュリー交響楽団を指揮した「ハイドン・マラソン」の演奏会と録音を継続中である。。
デュトワの指揮するハイドンは、流石というべきか響きがお洒落である。小粋さや大見得を切るいたずら心などが伝わってくる。ゲネラルパウゼでの仄かな寂寥感の漂わせ方も上手い。HIPを援用した演奏で、ビブラートを抑えた弦楽の透明な響きも印象的である。
デュトワの十八番であるラヴェル。デュトワはモントリオール交響楽団を指揮してDECCAレーベルに「ラヴェル管弦楽曲全集」を録音しており、デュトワとモントリオール響の出世盤となった。同コンビは、その後、ドビュッシーの主要管弦楽曲や歌劇「ペレアスとメリザンド」などもレコーディングも行っているが、こちらは全集にまでは至らなかった。
「クープランの墓」では、音の洗練が際立つ。まるで生き物のように自在な変化を見せる音。NHK交響楽団の学生定期会員をやっていた時代、正確にはその少し前から何度も接してきたデュトワの音楽作りであるが、本当に独特であり、少なくともフランスものでこうした演奏を行う指揮者の実演に接したことは他にない。「クープランの墓」は人気曲というほどではないが、演奏曲目に組み入れられる機会は比較的多めではある。ただ今日のデュトワと大フィルの演奏は、別格級の一つとみて間違いないだろう。スコアに書かれている以上の音楽を無理なく引き出す術は「驚嘆」の域に達している。
ドイツ的な重厚な響きを特徴とし、時には野暮ったい演奏をすることもある大阪フィルだが、今日の響きは匂うような上品さである。まだマスクで鼻を覆う必要があるが、耳を通して芳香は伝わってくる。
ストラヴィンスキーのバレエ音楽「ペトルーシュカ」(1911年版)は、音のエッジが立ち、描写力が高く、大フィルの弦の輝きも「光」そのものに限りなく近くなる。「極彩色」「光彩陸離」「光輝みつ」といった表現が全て陳腐に思えるほどの眩しさを放っていた。日本のオーケストラがこうした響きを奏でることはかなり珍しい。そうした中で音のグラデーションも見事であり、輝き一辺倒の演奏ではない。登場人物の心理状況なども含めて細部に至るまで神経が行き届いており、「ペトルーシュカ」単体でも、今日のプログラム全体を通しても、まるで「音による映画」を観ているような気分にさせられる。音楽が単なる音楽にとどまらない。そうした特別な時間が過ぎていった。
ピアノの北村朋幹の技術も高く、客演3人を招いた打楽器陣の上手さも光っていた。
客席に向かって「バイバイ」ポーズを送ることで知られるデュトワであるが、今日は大フィルのメンバーに向かって「バイバイ」のポーズをしていたのが印象的であった。
これまではエルボータッチやグータッチ、リストタッチやエアによるタッチを行う指揮者が多かったが、デュトワはコンサートマスターの須山暢大と何度も握手。組曲「クープランの墓」演奏終了後に、冒頭のソロを吹くオーボエソロにわざわざ握手しに向かった。そして最後は弦楽最前列の奏者全員と握手を交わした。
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