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2022年6月19日 (日)

コンサートの記(783) 河村尚子ピアノリサイタル2015京都

2015年3月15日 京都コンサートホール 小ホール「アンサンブルホール ムラタ」にて

午後2時から、京都コンサートホール小ホール「アンサンブルホール ムラタ」で、河村尚子のピアノリサイタルを聴く。

河村尚子は、1981年、兵庫県西宮市生まれのピアニスト。生粋の日本人であるが、5歳の時に一家で渡独し、教育も音楽教育も全てドイツで受けており、日本人であるが日本人離れしたピアノを弾く演奏家である。
ハノーファー国立音楽演劇大学(ハノーファー国立音楽芸術大学)在学中にミュンヘン国際コンクール・ピアノ部門で2位に入って頭角を現し、ハノーファー国立音楽演劇大学大学院ピアノソリスト課程在学中にクララ・ハスキル国際コンクールで優勝して注目を浴びている。
現在はソリストとしての活動の他に、エッセンにあるフォルクヴァング芸術大学の非常勤講師、また2013年から東京音楽大学の特任講師として日本にも拠点を持って教育活動にも励んでいる。

昨年、出産を経験した河村尚子。「モーストリークラシック」が行ったインタビューなどでは最近は子育てに夢中だという。

無料プログラムには河村尚子からのメッセージが載っているが、河村が京都コンサートホール小ホールでリサイタルを行うのは4年ぶりだそうで、ちょっと意外な気がする。前回の京都コンサートホール小ホールでのリサイタルの記憶がまだ鮮明なため、4年も経過しているとは思えなかった。京都以外のホールでも河村のピアノを聴いているので、記憶がごっちゃになっているのかも知れない。
昨年は、東京のよみうり大手町ホールでのリサイタル(ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」の演奏が凄まじく、東京まで聴きに行くだけの価値はあった)と大阪のザ・シンフォニーホールでの読売日本交響楽団大阪定期演奏会のソリストとしての演奏を聴いている。


曲目は、J・S・バッハ作曲、ブゾーニ編曲の「シャコンヌ」、ショパンのワルツ第5番「大円舞曲」、ショパンのマズルカ第13番、ショパンの夜想曲第8番、ショパンの「舟唄」、休憩を挟んで、ラフマニノフの10の前奏曲より第10番&第7番、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番「戦争ソナタ」

京都だから新選組カラーというわけではなく偶然だろうが、浅葱色のドレスで河村は登場する。妊娠中でお腹の膨らみが目立ったよみうり大手町ホールでのリサイタルや出産直後であったザ・シンフォニーホールでの演奏時には体も顔も幾分ふっくらしていた河村だが、今日は少し痩せてすっきりしている。

京都コンサートホール小ホール「アンサンブルホール ムラタ」のことを河村は「大好き」と書いているが、確かにステージと客席が近いので客席の反応がヴィヴィッドに伝わってくるというのはあるかも知れない。ただ、京都コンサートホール小ホールは「小さいホールだから音響は特に工夫をしなくてもいいよね」ということなのかどうかはわからないが、音響を良くするための設計はほとんどなされていない。ピアノは蓋が反響板になって問題なく聞こえるのだが。


J・S・バッハ作曲、ブゾーニ編曲の「シャコンヌ」。前回の京都コンサートホール小ホールでのリサイタルでも河村はこの曲を弾いている。ブゾーニ編曲の「シャコンヌ」はファジル・サイが超絶的な名演を展開した曲であり、神戸新聞松方ホールで聴いたライブ演奏でも、CDでもファジルは別格級の演奏を聴いている。
河村は速めのテンポを採用。情熱的な演奏だが、高雅さや純粋さなど多彩な表情を弾き分ける。ピアニシモが美しいのも特徴だ。流石にファジル・サイには敵わないが(ファジル・サイは音楽家を名乗る現役のアーティストの中で紛れもなくナンバー1と断言できるほどの天才である)極めてハイレベルな演奏であることに間違いはない。

ショパンのワルツ、マズルカ、夜想曲では、音楽が今この場で生まれたかのようなフレッシュなピアノで聴かせる。音は透明であり、気高さ、メランコリーなどショパンが持つ多様性を詳らかにしていく。

ショパンの楽曲の中でもスケールの大きい「舟唄」は、春風のような爽やかさと朗らかさを持ち、今の季節に聴くのに相応しい演奏となる。


ラフマニノフの前奏曲でも高い技術を聴かせた河村だが、圧巻はプロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番「戦争ソナタ」。河村独自のヒンヤリとしたピアノの音色がこの曲でははっきりと出る。風変わりな作風で知られるプロコフィエフであるが、激しさや優しさといった様々な曲調を河村は高い次元でアウフヘーベンして聴かせる。これだけ優れたプロコフィエフ演奏はそうそう聴けるものではないだろう。河村はあたかもピアノの魔術師のようだ。


アンコールは4年前と同じ、シューマン作曲、リスト編曲の「献呈」。淀みない演奏であった。

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