コンサートの記(781) 「コバケン・ワールド in KYOTO」Vol.2
2022年6月4日 左京区岡崎のロームシアター京都メインホールにて
午後2時から、左京区岡崎のロームシアター京都メインホールで、「コバケン・ワールド in KYOTO」Vol.2を聴く。東京でコバケンこと小林研一郎が日本フィルハーモニー交響楽団を指揮して行っている特別コンサートの京都版、昨年に続いて2回目である。
ロームシアター京都オープン当初から積極的に演奏会を開催している日本フィルハーモニー交響楽団(日フィル。JPO)。この3月まで京都市交響楽団の常任指揮者を務めていた広上淳一(現在はフレンド・オブ・JPOの肩書きを得ている)との繋がりがあるのかどうかは分からないが、「東京のオーケストラの関西公演といえば大阪のザ・シンフォニーホールかフェスティバルホール」という状況を変えつつある。今年、日フィルは京都で3回の公演を行うが、そのうち2回は親子向けのコンサートで、一般向けのコンサートは、「コバケン・ワールド」のみとなる。
昨年のローム・ミュージック・フェスティバルには東京交響楽団が登場(コロナのために無観客での配信公演のみとなった)、今年のローム・ミュージック・フェスティバルには新日本フィルハーモニー交響楽団がロームシアター京都メインホールのステージを踏むなど、東京のオーケストラが京都コンサートホールではなくロームシアター京都で公演を行うことも増えている。今年のNHK交響楽団の京都公演(秋山和慶指揮)も京都コンサートホールではなくロームシアター京都メインホールで行われる予定である(N響がロームシアター京都メインホールで京都公演を行うのは2度目)。その中にあって、日フィルは京都での売り込みには一歩リードしている形となる。
曲目は、ウェーバーの歌劇「オベロン」序曲、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番(ヴァイオリン独奏:千住真理子)、ベートーヴェンの交響曲第7番。
今日のコンサートマスターは、日フィル・ソロ・コンサートマスターの扇谷泰明。ソロ・チェロ奏者として菊地知也の名も無料パンフレットに記載されている。ドイツ式の現代配置での演奏。
現在は日本フィルハーモニー交響楽団桂冠名誉指揮者の称号を得ている小林研一郎。「炎のコバケン」の愛称で親しまれており、岩城宏之の後を継いで、年末の「ベートーヴェン交響曲一挙上演」の指揮を担っていることでも知られている。非常に熱心なファンを持つ一方で、アンチもまた多いことで有名。
レパートリーはそれほど広くなく、気に入った曲目を何度も取り上げるというところは朝比奈隆にも似ている。
第1回ブダペスト国際指揮者コンクールで優勝。小林は東京藝術大学を二度出ている(作曲科と指揮科。東京藝大は編入を認めていないため再入学している)ということで、指揮科を卒業した時にはそれなりの年。今はそうでもないが、当時の指揮者コンクールは、「応募出来るのは29歳まで」というところがほとんどで、小林は応募資格がなかったが、ブダペスト国際指揮者コンクールは「35歳まで」年齢制限が緩かったので、参加して優勝を勝ち得た。そうしてハンガリーの音楽好きに気に入られ、同国最高のオーケストラであるハンガリー国立交響楽団(現・ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団)の音楽総監督を長年に渡って務めたほか、ヨーロッパ各地のオーケストラに招かれている。ネーデルランド・フィルハーモニー管弦楽団の常任客演指揮者を25年の長きに渡って務めているのも特筆事項である。
国内では日本フィルハーモニー交響楽団や京都市交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団などのシェフを務めており、特に日本フィルとは、渡邉暁雄亡き後の精神的支柱として長年に渡って称号を変えつつ共演を重ねてきた。
ウェーバーの歌劇「オベロン」序曲。小林は暗譜で指揮を行う。唸り声を上がるためか、マスクはしたままの指揮である。
東京に通っていた頃から何度もコンサートに接してきた日本フィル。当時は弦の弱さが顕著だったのだが、今は弦の音色も引き締まり、厚みがある上に表現力も高い。
ウェーバーは、保守的な作曲家であるが、その分、ドイツの伝統に則った音楽を生み出しており、重厚なロマンティシズムが耳に心地よい。
ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番。
ヴァイオリン独奏の千住真理子は、千住三兄妹(画家の千住博、作曲家の千住明、ヴァイオリニストの千住真理子)の末っ子としてよく知られている。一時期、ヴァイオリンを続けることに疑問を感じ、音大には進まず、慶應女子高校から慶應義塾大学文学部に内部進学したが、普通の大学出身であるデメリットとして「お友達が出来ない」ことを挙げていた。大学卒業後に指揮者のジュゼッペ・シノーポリに認められ、ヨーロッパデビューを飾り、以後、国内外での活躍を続けている。
千住真理子は人気ヴァイオリニストであるが、これまで生で聴いた記憶がなく、CDも持っていないので、演奏を聴くこと自体、今回が初めてとなるかも知れない。
美音であるが「磨き抜かれた」音とは少し違い、渋さも兼ね備えている。スケールも大きすぎず小さすぎずで、楽曲の本質をよく捉えたヴァイオリンという印象を受ける。表現の幅も広めである。
小林は、オーケストラに正対するのではなく斜めにした指揮台の上で指揮を行う。以前、オリ・ムストネンが京都市交響楽団に客演した時に、ピアノを斜めにおいて弾き振りしているのを見たことがあるが、指揮台を斜めにおいてその上で指揮するというスタイルを目にするのは初めてである。この曲では総譜を見ながらの指揮。
日フィルからロマンティックな音を引き出していた。
千住のアンコール演奏曲目は、「アメイジング・グレイス」。祈りと愛に溢れつつ、切れもあるという演奏であった。
ベートーヴェンの交響曲第7番。小林はこの曲も暗譜で指揮する。
「炎のコバケン」という愛称からも分かるとおり、熱い演奏を行う小林研一郎にぴったりの曲だが、いたずらに情熱を振りかざすだけではなく、低弦を分厚く築いた強固なフォルム作りが印象的である。日本人はピラミッド型のバランス作りという発想自体を持っていないことが多いのだが、小林は海外での経験が長いためか、低弦をしっかり築いた演奏を行っている。
重低音が魅力の日本のオーケストラというと、大阪フィルハーモニー交響楽団が代表格であるが、大フィルでも、ここまで低弦を分厚くしたベートーヴェンを聴くことは滅多にない。
演奏終了後、小林はマイクを手にスピーチを行う(マスクはしたまま)。「京都は我々に大きな命を与えてくれる場所です」と語りだし、ローム・ミュージック・ファンデーションに大変お世話になっているという話をした。
アンコールはまず、小林のアンコール演目の定番である「ダニー・ボーイ(ロンドンデリーの歌)」。叙情味溢れる演奏である。
最後は、ベートーヴェンの交響曲第7番第4楽章より終結部。やや粗めの演奏であったが、会場を盛り上げた。
小林は最後に、「京響も素晴らしいんですが、日本フィルも。年に1回しか来られないものですから」と、「コバケン・ワールド in KYOTO」の年複数回開催の希望を語った。
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