コンサートの記(784) 阪哲朗指揮山形交響楽団「さくらんぼコンサート」2022大阪公演
2022年6月23日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて
午後7時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、山形交響楽団の「さくらんぼコンサート」2022大阪公演に接する。指揮は山形交響楽団常任指揮者の阪哲朗。山形交響楽団創立50周年記念特別演奏会と銘打たれている。
曲目は、木島由美子(きじま・ゆみこ)の「風薫(ふうか)~山寺にて~」(山響創立50周年記念委嘱作品)、ラロのスペイン交響曲(ヴァイオリン独奏:神尾真由子)、バルトークの管弦楽のための協奏曲。
開演15分前からプレトークがある。まず、山形交響楽団専務理事の西濱秀樹が東根(ひがしね)市の法被を着て登場するが、大阪の人はもう西濱専務には馴染みがないのか(山形交響楽団に移るまで関西フィルハーモニー管弦楽団の事務局長をしていたのだが)、拍手が余り起こらず。西濱専務も大阪出身なので、「冒頭から、二人の方に拍手いただきましてありがとうございます」と、のっけから冗談を言う。ちなみに二人のうちの一人は私なのだが、二人だけだったのかどうかは定かでない。大きめの音を出していたのは二人だったと思われるが。
マスクをして出てきた西濱専務だが、ガイドラインによって、2m離れていればマスクをしなくても話していいということで、マスクを外す。「私は177cmありますので」とステージの上で横になって、一番前のお客さんまで3m以上離れていることを示す(本当に示せたのかどうかは分からない。今日は1列目であるA列と2列目であるB列は発売されておらず、C列が有人最前列となる)。そして今日の指揮者である阪哲朗が京都市生まれの京都市育ちであり、両親は山形県出身であると紹介する。
その後、阪哲朗も登場。やはりさくらんぼの産地である東根市の法被を着てマスクなしでのトークとなる。阪は、ザ・シンフォニーホールについて、「このホールは大好き。(エントランスに)カーペットが敷かれていて、シャンデリアがあって、それまでこんなホールなかった」という話をする。そして、「あれからですから、今年で40周年じゃないですか」と指摘。ザ・シンフォニーホールは1982年開場なので40周年である。日本初のクラシック音楽専用ホールとして誕生。東京にクラシック音楽専用ホールであるサントリーホールが生まれたのは1986年であるため、4年先駆けている。なお、日本初のクラシック音楽対応ホールを生んだのも大阪で、1958年開場の先代のフェスティバルホールがそれである。東京にクラシック音楽対応ホールである東京文化会館が生まれたのはその3年後である。
山形市に本社を置く企業である、でん六の後援を受けているということで、マスコットキャラクターの「でんちゃん」も登場。頭が大きいので、袖から出てくるのに難儀する上に、喋るわけにもいかないということで、でん六大阪支店のKさんという女性(彼女はマスク着用)と共に登場。さくらんぼ味のでん六豆の宣伝を行った。
阪は、邦人作曲家の新作、フランス人作曲家であるラロのヴァイオリン協奏曲(交響曲と名付けられたがヴァイオリン協奏曲である)、バルトークが晩年に書いた管弦楽のための協奏曲(日本での通称は「オケコン」)というプログラムについて、「モーツァルトやドビュッシーなんかも含めて、みんな民族音楽だと思っている」という解釈を語る。
バルトークは、同じくハンガリー出身の作曲家であるコダーイと一緒にハンガリーの民謡を採取して回ったことでも知られるが、それについても「シェーンベルクが十二音技法を生んで、ストラヴィンスキーはリズムに逃げて、バルトークは逃げずに民族音楽で勝負した」という20世紀初頭の作曲シーンを語った。
ちなみに、大阪市の今日の最高気温は30度を超えたが、山形はこの時期まだ朝夕は寒いそうで、阪は新大阪で降りて、気温計時を見て「関西に戻ってきた」と感じたそうである。
今日のコンサートマスターは髙橋和貴、アメリカ式の現代配置での演奏である。
阪は、コンサートマスターの髙橋、フォアシューピーラーのシャンドル・ヤヴォルカイと握手を交わす。
木島由美子の「風薫~山寺にて~」
木島由美子は、福島県相馬市出身の作曲家。福島県立相馬高校理数科を経て、山形大学教育学部特別教科(音楽)教員養成課程卒業。国立大学の教育学部の音楽専攻の中には教員養成ではなく音楽家を養成するゼロ免コースを持つところもあるが、経歴を見ると、最初は作曲家ではなく音楽教師を目指していたようである。作曲を始めたのは卒業後のようで、藤原義久に師事し、第14回アンデパンダン・聴衆によるアンケート第1位、第12回TIAA全日本作曲家コンクール・ソロ部門第2位(1位なし)などに輝いている。
通勤時に山寺駅を使うことがあるという木島。ホームから山寺こと立石寺を見上げながら着想を得た作品のようである。
黛敏郎や武満徹が書くような日本的な響きでスタートし、途中で現れる民謡のようなフルートの旋律が印象的である。
木島は会場に駆けつけており、演奏終了後にステージに上がって拍手を受けた。
ラロのスペイン交響曲。
ヴァイオリン独奏の神尾真由子が、ザ・シンフォニーホールでの本格的デビューに選んだのがこのスペイン交響曲だそうである。
今日は髪に茶色のメッシュを入れて登場した神尾。技術的にも表現面でも万全であり、聴衆はただただ聴いていれば正しく音楽を理解出来る。時に高貴、時に妖艶、時に情熱的、時に洒脱と、移り変わる表情をこの上なく的確に表していた。
阪の指揮する山形交響楽団の演奏も雰囲気豊かで、ヨーロッパでありながら異国情緒たっぷりのスペイン(ナポレオンは、「ピレネーの向こう(スペイン)はアフリカだ」と言っている)の光景を音で描く。
神尾のアンコール演奏は、シューベルトの「魔王」(ヴァイオリン独奏版)。昨年暮れに行われた九州交響楽団の西宮公演(於・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール)でもアンコール演目に選んだ曲である。語り手、子ども、父親、魔王の4役をヴァイオリンで引き分ける上に、元の歌曲ではピアノが奏でるおどろおどろしい騎行の伴奏まで奏でるという、想像を絶するほど難しそうな曲であるが、神尾はバリバリと弾きこなしてしまう。
バルトークの管弦楽のための協奏曲。本来は2020年の「さくらんぼコンサート」で取り上げられる予定だったのだが、コロナにより中止となり、「リベンジ」という形で今回のメインプログラムに据えられた。
明晰な阪の音楽作りが、透明な山形交響楽団の響きによって明確となり、細部まで神経の行き届いた演奏となる。ザ・シンフォニーホールの響きもプラスに働き、迫力も万全。
ノンタクトで指揮することも多い阪であるが、今日は指揮棒を用いて細やかな指示を出していた。
人気曲なので接する機会も比較的多いバルトークの管弦楽のための協奏曲であるが、ハープを含む弦楽器の奏で方に東洋的な要素が盛り込まれている。
東洋系のフン族が建てたといわれているハンガリー。名前も東洋と同じ姓・名の順番となる。ただ遺伝子レベルでの研究を行った結果は、「モンゴロイドの要素は薄い」そうで、基本的には隣国同様にヨーロッパ人国家と見た方が良く、文化に関してのみ東方からの影響を受けていると見た方が無難なようである。
演奏終了後、客席では山形交響楽団オリジナルの「Bravo」タオルや手ぬぐいの他に、お手製のメッセージボードなどが掲げられ、思い思いに山形交響楽団の熱演を称えていた。
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