« コンサートの記(794) びわ湖ホール オペラへの招待 ヴェルディ 歌劇「ファルスタッフ」 | トップページ | 観劇感想精選(440) 兵庫県立ピッコロ劇団 「三人姉妹」 »

2022年8月 3日 (水)

美術回廊(78) 京都市京セラ美術館 特別展「綺羅めく京の明治美術――世界が驚いた帝室技芸員の神業」

2022年7月26日 左京区岡崎の京都市京セラ美術館にて

左京区岡崎の京都市京セラ美術館南回廊で、特別展「綺羅めく京の明治美術――世界が驚いた帝室技芸員の神業」を観る。明治23年(1890)年に発足した制度で、皇室によって優れた美術工芸家を顕彰、保護するシステムである帝室技芸員。選ばれたのは一握りの美術家のみであり、帝室技芸員に選ばれることは大変な名誉であったようだ。昭和19年に廃止となっている。
その帝室技芸員に選ばれた京都縁の明治時代に活躍、もしくは明治時代生まれの19人の美術家の作品を取り上げた展覧会である。
取り上げられた美術家は、森寛斎、幸野楳峰、川端玉章、岸竹堂、望月玉泉、今尾景年、熊谷直彦、野口小蘋、竹内栖鳳、富岡鉄斎、山元春挙、五世伊達弥助、加納夏雄、三代清風輿平、初代宮川香山、並河靖之、二代川島甚兵衛、初代伊東陶山、初代諏訪蘇山。

日本画の本質は何かと問われると、浮世絵以来の「躍動感」になると思われる。静止してポーズを取っている西洋画に比べ、日本の絵は、「何かしている最中」を「想像力を使って描く」のが特徴である。そのため、妙な表現にはなるが、「動かない動画」「動き出す0.1秒前の永遠の静止」を描くのが日本画の神髄だと思える。絵画は静止画でしかあり得ないが、その前と後を想像させることで、静止画の中に動画が紛れ込んだかのような手法。ヨーロッパの画家達を震撼させた技法を、日本の絵師達は自然に用いていたということになる。

今回の展覧会に出品された作品もそうした躍動感や生命力、動的な印象がはち切れんばかりに表に出ている。例えば岸竹堂の「猛虎図」に描かれた虎は今にも動き出しそうで、毛の先々まで神経が行き届いている(明治時代には江戸時代と違い、日本人も動いている本物の虎の姿を実際に見ることが出来るようになったため、リアルである)。同じく岸竹堂の「月下猫児図」は、たわんだ柳の枝の上の猫が蟷螂と対峙している様を描いた作品だが、このまま柳の枝が垂れて猫も蟷螂も振り落とされそうになるのか、あるいは猫が蟷螂を捕まえるのか、はたまた蟷螂が逃げおおせるのか、様々なケースが脳裏に浮かぶ。富岡鉄斎が描いた文人画風の「阿倍仲麻呂明州望月図・円通大師呉門隠栖図」(重要文化財指定)からは人々の話し声や嬌声が聞こえてきそうな気がする。現在いわれるリアリズムとはまた違った、ビビッドな迫真性がそこには感じられるのである。

Dsc_1173

| |

« コンサートの記(794) びわ湖ホール オペラへの招待 ヴェルディ 歌劇「ファルスタッフ」 | トップページ | 観劇感想精選(440) 兵庫県立ピッコロ劇団 「三人姉妹」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« コンサートの記(794) びわ湖ホール オペラへの招待 ヴェルディ 歌劇「ファルスタッフ」 | トップページ | 観劇感想精選(440) 兵庫県立ピッコロ劇団 「三人姉妹」 »