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2022年8月20日 (土)

観劇感想精選(443) 学生演劇企画「ガクウチ」 in E9「そよそよ族の叛乱」

2022年8月13日 東九条のTHEATRE E9 KYOTOにて観劇

午後7時から、THEATRE E9 KYOTOで、学生演劇企画「ガクウチ-学徒集えよ、打とうぜ芝居-」in E9「そよそよ族の叛乱」を観る。作:別役実、演出:小倉杏水。
京都や大阪の学生劇団14団体から36人の学生が集い、上演を行う企画。参加団体(50音順)は、演劇企画モザイク(同志社大学)、演劇集団Q(同志社大学)、演劇集団ペトリの聲(同志社大学)、演劇実験場下鴨劇場(京都府立大学)、劇団ACT(京都産業大学)、劇団明日の鳥(京都府立医科大学)、劇団月光斜(立命館大学)、劇団ケッペキ(京都大学)、劇団蒲団座(大谷大学)、劇団万絵巻(関西大学)、劇団〈未定〉(京都女子大学)、劇団愉快犯(京都大学)、劇団立命館芸術劇場、第三劇場(同志社大学)。「別役実メモリアル」参加作品である。

探偵と科学博物館に勤める女の二人が主人公となっている。サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」を想起させるシーンがあるが、おそらく意図的に取り入れているのであろう。

午後2時33分、遺体が発見される。通報を受けた探偵は現場に駆けつける。女性の遺体であった。外傷は全くない。探偵と遺体に興味を持つ女が一人。科学博物館の地下にある鯨の骨の監視を職業としているのだが、鯨の骨を見に来る客は1ヶ月に1人程度の閑職である。

探偵と女は遺体の身長と体重を量る。身長165.5cm、体重39.8kg。かなりの痩身であり、女は「餓死したのではないか」と推理する。ちなみに身長165.5cmの女性は「大女」だそうだが、今でも高めで「スタイルが良い」と言われがちな身長ではあるが、現在では170cm以上ないと「大女」(という言葉自体今では使われないかも知れないが)とは呼ばれないだろう。時の流れを感じる。

今では餓死者が出た場合、「異例」とは見なされるだろうが、餓死する人がいるのかどうかは発表されないし、人々は「日本には餓死する者など今はいない」という前提で生きている。いるのかも知れないが見ないし知らないようにしている。それが現代の日本社会である。一方でアフリカなどには餓死者がいるのはよく知られており、「前提」ではある。だが、募金などはするかも知れないが我がこととして実感する日本人は少ないだろう。そうした社会に対して、別役は切り込んでいく。
「社会」の人々、個人個人は善良な人々である。それはこの劇でも描かれている。だがそれが全体となった時に「無関心」「事なかれ主義」といった目の曇りが生まれてしまう。

そよそよ族というのは、劇中では古代にいた失語症の民族と定義されているが、一方で、餓死者の痛みや「助けを呼べない心理」などを敏感に察知する人のことでもある。死体処理係の男は、餓死者が出たことの責任が自分にあるように感じ、「自首する」と言い出す。「誰かの分を自分が食べてしまった」とも語るのだが、この戯曲が書かれた1971年時点で日本は「飽食の時代」を迎えており、食料が足りているのみならず大量の残飯が社会問題になっていた。一方ではアフリカなどでは食べるものがなく餓死者が普通に出ている。そうしたことの痛みと責任を我がことのように受け取ることが出来るのが「そよそよ族」と呼ばれる人々である。飢えを訴えたとしても意味はない、餓死することでしか問題を提起することが出来ない。そうした現状を別役は「そよそよ族の叛乱」として訴えてみせるのである。

劇中で「そよそよ族」は自身の罪を訴えることしか出来ない。太宰治の言葉の逆を言うようだが、今の時代は「犠牲者」であることは必ずしも尊いことではないのかも知れない。だが「犠牲者」でなければ「自罰的」であらねば伝わらないものごとは確実にある。今現在の世界的状況に照らし合わせても意味のある、痛切なメッセージを持った本と上演であった。

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