コンサートの記(801) 藤岡幸夫指揮関西フィルハーモニー管弦楽団第12回城陽定期演奏会
2022年8月21日 文化パルク城陽プラムホールにて
午後2時から、文化パルク城陽プラムホールで、関西フィルハーモニー管弦楽団第12回城陽定期演奏会を聴く。指揮は関西フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者の藤岡幸夫。文化パルク城陽の中には藤岡幸夫のほぼ等身大と思われるパネルがいくつか設置されている。
曲目は、ドヴォルザークのチェロ協奏曲ロ短調(チェロ独奏:上野通明)とラフマニノフの交響曲第2番。
開演20分前から藤岡幸夫によるプレトークがある。藤岡は自分と関西フィルとの関係が23年に及ぶことを語り、プラムホールで指揮を行うことが52回目であると明かしていた。年2回以上指揮していることになる。藤岡はプラムホールの音響を褒め称える。
曲目解説についてだが、ラフマニノフに関しては交響曲第2番の演奏前に行うと語り、ドヴォルザークのチェロ協奏曲についての解説を行う。藤岡はこの作品をチェロ独奏付きの交響曲のような重厚な作品と紹介するが、これはドヴォルザークのアメリカ時代に書かれている。アメリカはニューヨークのナショナル音楽院(今は存在していないようである)の楽長として招かれたドヴォルザーク。よく知られたことだがドヴォルザークは鉄道マニアであり、ニューヨークはチェコよりも鉄道が発達しているため、それに惹かれて招きに応じたのであるが、行ってすぐにホームシックになってしまう。当時、彼の義理の妹で恋仲でもあったヨゼフィーナという女性が死の床にあり、彼女が好きだった「私をひとりにして」という歌曲を作中に取り入れたという。
今日のコンサートマスターは、客演の木村悦子。チェロが客席側に来るアメリカ式の現代配置(ストコフスキーシフト)での演奏である。
ドヴォルザークのチェロ協奏曲。
チェロ独奏の上野通明(みちあき)は、2021年にジュネーヴ国際コンクール・チェロ部門で日本人初の優勝を果たしたことで話題になったチェリスト。パラグアイに生まれ、幼少期をスペインのバルセロナで過ごしている。13歳の時に第6回若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクールで全部門を通して日本人として初の優勝を果たす。第6回ルーマニア国際コンクールでも最年少での1位を獲得。その他に第21回ヨハネス・ブラームス国際コンクールでも優勝を飾っている。
桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースに学費全額免除の特待生として入学し卒業。毛利伯郎に師事した。その後に渡独し、デュッセルドルフ音楽大学においてコンツェルトエグザメン(ドイツ国家演奏家資格)を取得。2021年にはベルギーのエリザベート音楽院でも学んでいる。
昨日、ロームシアター京都メインホールで行われたNHK交響楽団の京都特別演奏会でも前半のプログラムに載せられていたドヴォルザークのチェロ協奏曲。人気曲ゆえ(他に有名なチェロ協奏曲はエルガー作曲のものがある程度)2日続けて聴くということも珍しくはないが、比較が可能になった。
オーケストラの響きから書くが、関西フィルの音色はN響のそれと比べて遥かにウエットである。藤岡の音楽性もあると思うが、関西フィルは日本で最もドイツ的といわれるN響や、大阪フィルやセンチュリー響のような他の大阪のオーケストラのように、ドイツの楽団を範とはしておらず、より広いレパートリーへの対応を目指している。そのため威力を重視するドイツ系のオーケストラとは異なる響きを生みやすい。今回はニュートラルな指向の日本の音楽団体の美質が出ているように感じた。良し悪しではなく、同じ日本の楽団のそれぞれの個性がはっきり出た格好である。
上野通明のチェロであるが、宮田大のようなスケールの大きさや深い歌はない代わりに、芯のしっかりした音と情熱的な演奏スタイルを持ち、魅力的である。
演奏終了後、上野と藤岡はマスクをしてトークを行う。上野は藤岡が司会をしている「エンター・ザ・ミュージック」に出演したことがあるそうだが、それを関西フィルのスタッフが覚えており、上野がジュネーヴ国際コンクールで優勝してすぐにコンタクトを取ったそうである。
上野は、関西で演奏する機会はまだ少ないそうで、藤岡に「関西はいいよ」と勧められていた。
上野は7月まではケルンに住んでいたそうだが、そこを引き払い、ベルリンに移ったと語る。また秋にJ・S・バッハの無伴奏チェロ組曲のCDがリリースされるそうである。
ラフマニノフの交響曲第2番。予告通り藤岡がプレトークを行う。ラフマニノフは、自身の交響曲第1番の初演が大失敗に終わり(当時のロシア音楽界には、モスクワ派とペテルブルク派の派閥があり、ラフマニノフはモスクワ派。だが初演の指揮をペテルブルク派のグラズノフに任せてしまい、グラズノフが酔ったままいい加減な指揮を行ったことが大失敗の原因とされている。ラフマニノフの交響曲第1番は作曲者の存命中は再演されることはなかったようだが、その後に数点の音盤がリリースされている。「しっかりとした構成による優れた曲」という印象で、初演の際の指揮がかなり悪かったことが察せられる)、作曲が出来なくなってしまう。その後、ダール博士による催眠療法などを受け、ピアノ協奏曲第2番を作曲して今度は大成功。その成功の気分を胸に宿したまま作曲したのが交響曲第2番である。
「ロシアの作曲家の先輩にチャイコフスキーがいますが」「彼の場合は、長調で作曲しているのに切ない、悲しい」「ラフマニノフの場合は、長調は長調です」と曲が明るさに満ちたものであることを紹介していた。
ラフマニノフの交響曲第2番も長きに渡って正当な評価を受けることのなかった作品である。遅れてきたロマン派のような作風を「ジャムとマーマレードでベタベタの交響曲」などと酷評されていた。ラフマニノフ自身も演奏機会が少ないことを気にしており、「長すぎるのが悪いのだろう」ということでカットした版も作成。その後はカットした版での演奏が基本となっていた。だがアンドレ・プレヴィンがこの曲の真価を見抜き、ロンドン交響楽団を指揮して完全全曲版を録音。これが世界的なベストセラーとなり、ウラディーミル・アシュケナージらがこれに続いて、交響曲第2番は今では人気曲となっている。
予想よりも遥かに良い演奏となる。
関西フィルは音の厚みこそ今ひとつだが、音の輝き、甘さ、アンサンブルの精度など十分に高い水準にあり、藤岡の的確な指示もこの曲の良さを引き出していく。
ロマンティックな味わいのみならず、オーケストラの威力なども関西フィルとしては最高レベルであり、弦も管も冴えまくっている。
大阪に拠点を持っているということで、聴く機会も多い藤岡幸夫であるが、今日の演奏がこれまででベストかも知れない。藤岡のみならず、ラフマニノフの交響曲第2番を得意としている日本人指揮者は多いが、あるいはこの曲の作風が日本人の心には合っているのか。
演奏終了後、藤岡は今日のコンサートマスターである木村悦子について紹介。普段はカナダのトロント交響楽団のコンサートマスターを務めているのだが、夏の間は休暇で出身地の関西に戻っているそうで、「出てくれないか」と誘ったようである。
関西フィルは城陽で9月に第九、来年1月にニューイヤーコンサートを行う。第九のコーラスは市民合唱団が行うようだが、男声パートがまだ足りていないそうで、藤岡は、「よかったら僕と共演しませんか」と客席に呼びかけていた。
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