コンサートの記(806) 広上淳一指揮オーケストラ・アンサンブル金沢大阪定期公演2022
2022年9月23日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて
午後2時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、オーケストラ・アンサンブル金沢の大阪定期公演を聴く。指揮は、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)アーティスティック・リーダーに就任したばかりの広上淳一。広上とOEKは、今月18日にシェフ就任のお披露目となる演奏会を行い、同じプログラムで、名古屋、大阪、東広島、境港を回る。
京都市交響楽団退任後は、名誉称号も断り、フリーランスの指揮活動に専念しようと思っていたという広上だが、岩城宏之や井上道義という広上も影響を受けた指揮者の薫陶を受けてきたオーケストラ・アンサンブル金沢のシェフをOEKアーティスティック・リーダーという称号で受諾している。
曲目は、コダーイのガランタ舞曲、ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」(デシャトニコフ編曲。ヴァイオリン独奏:神尾真由子)、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」
今日のコンサートミストレスはアビゲイル・ヤング。ドイツ式の現代配置での演奏である。通常のティンパニの横にバロックティンパニが置かれており、「英雄」がピリオドスタイルで演奏されることがわかる。
広上淳一は頭髪をきれいに剃って登場。老眼鏡を掛けてスコアを確認しながらの指揮である。
コダーイのガランタ舞曲。コダーイが子供時代を過ごしたガランタの街で聞いたジプシーの音楽に影響を受けたというガランタ舞曲。いかにもそれらしい旋律で始まり、オリエンタルムードにも富む旋律も登場する。
広上指揮するオーケストラ・アンサンブル金沢は音の分離が良く、ノリの良さと同時に構築力の確かさも感じられる。
ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」。聴く機会が徐々に増えつつある作品である。元々は室内楽編成による曲で、室内楽バージョンも演奏会のプログラムでよく目にするようになっているが、今回はウクライナ出身のレオニード・デシャトニコフ(1955- )の編曲による独奏ヴァイオリンと弦楽合奏版で演奏される。曲順は、「ブエノスアイレスの秋」「ブエノスアイレスの冬」「ブエノスアイレスの春」「ブエノスアイレスの夏」の順番だが、ブエノスアイレスのある南半球は北半球と季節が逆転しているということで、「ブエノスアイレスの秋」にはヴィヴァルディの「春」の、「ブエノスアイレスの夏」はヴィヴァルディの「冬」の、「ブエノスアイレスの春」はヴィヴァルディの「秋」の、「ブエノスアイレスの夏」はヴィヴァルディの「冬」からの引用がある。それとは別に「ブエノスアイレスの春」にはヴィヴァルディの「春」からの直接的な引用がある。
特殊奏法も数多く用いられている作品であるが、神尾真由子は切れ味鋭いヴァイオリンで、ブエノスアイレスの四季とヴィヴァルディの四季、合わせて8つの季節を描きあげる。
広上指揮のOEKも雰囲気豊かな演奏を展開。クールな出来である。
神尾のアンコール演奏は、お得意のパガニーニの「24のカプリース」より第5番。超絶技巧が要求される曲だが、音階をなぞる部分も音楽的に聞こえるのが、神尾のヴァイオリニストとしての資質の高さを物語っている。
ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。広上の十八番の一つである。
ピリオドを援用した演奏であるが、かなりゆったりとしたテンポを採用。「たおやか」な表情も見せる演奏で、一般的な「英雄」の演奏とは大きく異なる。
おそらく第4楽章に登場するプロメテウスの主題に重要な意味を持たせた演奏で、プロメテウス主題のみならず、第1楽章から音楽の精が舞っている様が見えるような音楽礼賛の演奏となる。ナポレオンは死んでも音楽は生き残る。あるいは第1楽章の軍事的英雄は、直接的もしくは間接的な「死」を経て、ミューズとなって復活するのかも知れない。
ただ単調な演奏ではなく、第2楽章も濃い陰影を伴って演奏されるなど、適切な表情付けが行われるが、基本的には他の演奏に比べると典雅な印象を受ける。この曲の「ロマン派の魁け」的一面よりも古典的な造形美を重視したような演奏であった。
広上は演奏終了後にマイクを手に登場し、「いかがだったでしょうか?」と客席に語りかけて拍手を貰い、「来週、私はしつこくまた登場します」「『またおまえか』と言われそうですが」と10月1日に行われる京都市交響楽団の大阪公演の宣伝を行っていた。
アンコール演奏は、ビゼーの「アルルの女」よりアダージェット。しっとりとした美演であった。
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