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2022年10月23日 (日)

コンサートの記(810) 齋藤友香理指揮 京都市交響楽団第672回定期演奏会

2022年10月14日 京都コンサートホールにて

午後7時から、京都コンサートホールで京都市交響楽団の第672回定期演奏会を聴く。今日の指揮は若手の齋藤友香理。

東京生まれの齋藤友香理。桐朋女子高校音楽科を経て、桐朋学園大学ではピアノを専攻する。「一人だけで練習するのは寂しい」という理由から副専攻では指揮クラスを受講していた。卒業後に同大学の科目履修生『指揮』に在籍して指揮者としての第一歩を踏み出している。2010年から1年間、公益財団法人新日鉄住友文化財団「指揮研究員」として紀尾井ホール室内管弦楽団(旧紀尾井シンフォニエッタ東京)や東京フィルハーモニー交響楽団で研鑽を積み、2013年からはドレスデン音楽大学(カール・マリア・フォン・ウェーバー音楽大学)大学院に進み、修了後には、ハインリッヒ・シフやキリル・ペトレンコのアシスタントなどを務めている。第54回ブザンソン国際指揮者コンクールでは、聴衆賞とオーケストラ賞を受賞。


曲目は、ワーグナーの歌劇「リエンチ」序曲、ウェーバーのクラリネット協奏曲第1番(クラリネット独奏:小谷口直子)、メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」


午後6時30分頃から、ステージ上で齋藤友香理によるプレトークがある。女性としては低めの落ち着いた声である。
齋藤は、「私は東京生まれなのですが、京都コンサートホールには縁がありまして」と語り、2009年の小澤征爾音楽塾のコンサートで京都コンサートホールの指揮台に立ち、生まれて初めてに近い形でオーケストラ相手の指揮を行ったという。その後、ローム ミュージック ファンデーションのセミナーに参加した際には、京都コンサートホールで京都市交響楽団相手にブラームスの交響曲第1番を指揮したことがあるそうである。

その後の楽曲解説では、ワーグナーの「リエンチ」がヒトラーに影響を与えたことや、ウェーバーのクラリネット協奏曲第1番のソリストである小谷口直子(京都市交響楽団首席クラリネット奏者)とミュンヘンで会ったことがあるという話や、渡独する際にはメンデルスゾーンのことは余り頭になかったが、受講した音楽セミナーの会場がライプツィッヒのメンデルスゾーンハウス(その名の通りメンデルスゾーンが過ごした家。その天才ぶりから「進めど進めど薔薇また薔薇」と称されるほど順風満帆だったメンデルスゾーンであったが、この家において38歳の若さで亡くなっている)であったという縁から興味を持ち始めたという。


今日はヴァイオリン両翼の古典配置での演奏。コンサートマスターは京都市交響楽団特別客演コンサートマスターの「組長」こと石田泰尚。フォアシュピーラーに泉原隆志。今日は客演首席チェロ奏者としてNHK交響楽団首席の「藤森大統領」こと藤森亮一が入る。フルート首席の上野博昭、ホルン首席の垣本昌芳らはメンデルスゾーンのみの出演である。


ワーグナーの歌劇「リエンチ」序曲。しっかりとした「ドイツ」の「ワーグナー」の音が出ていることに感心する。ドイツ在住なのでドイツの空気とドイツ音楽を常に肌で感じているということもあるだろうが、そもそもドイツ音楽に適性がありそうである。細部の彫刻も見事で、その分全体像がぼやけているような気がしないでもなかったが、若手でこれだけのワーグナーが振れるのは見事である。
日本の若手指揮者、女性指揮者共に充実しているようだ。


ウェーバーのクラリネット協奏曲第1番。個人的な思い出を語ると、生まれて初めて買ったクラリネット協奏曲のCDは、モーツァルトではなくウェーバーのものであった。ベルリン・フィル入団を巡るゴタゴタで話題になったザビーネ・マイヤーのクラリネットソロによるEMIのCDで(伴奏はヘルベルト・ブロムシュテット指揮のシュターツカペレ・ドレスデン)、私もザビーネ・マイヤー事件(ザビーネ・マイヤーのベルリン・フィル入団辞退のみならず、ヘルベルト・フォン・カラヤンの芸術監督辞任にまで発展した)を知っていたため、彼女のCDを購入したのであった。

小谷口直子は、深紅のドレスで登場。オーケストラのメンバーが協奏曲のソロを務めた場合、かっちりしすぎたりスケールが小さくなったりしがちなのだが(ソリストとオーケストラプレーヤーではそもそも求められるものが違う)、小谷口の場合はそういったことはなく甘く伸びやかな音色で天を翔る。
齋藤指揮の京都市交響楽団も陰影に富んだ優れた伴奏を聴かせる。

アンコール演奏は、ベールマンのクラリネットと弦楽五重奏のためのアダージョ。典雅な演奏であった。
本編終了後とアンコール演奏終了後に、齋藤と小谷口は抱き合って互いを称え合う。


メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」。メンデルスゾーンの交響曲は第5番まであるが、番号は出版順であり、実際には「スコットランド」が彼の最後の交響曲である。
「スコットランド」交響曲は、高校生の時に定番のひとつであるオットー・クレンペラー指揮のCDで初めて聴き、その後にペーター・マークの2種類のCD(定番のDECCA盤ではなくいずれもデジタル録音の輸入盤)で繰り返し楽しんだが、ひょっとしたら今は手元にCDがないかも知れない。なくても今はYouTubeでそれなりに楽しめる時代であるが。

齋藤は中庸からやや速めのテンポを採用。濃厚なロマンティシズムよりも古典的な造形美を優先させたような演奏であるが、時折、馥郁としたロマンが立ち上る。若手指揮者らしい颯爽とした味わいもあり、京響共々豊かな音像を構築。「スコットランド」交響曲はメンデルスゾーンの最高傑作に挙げられることも多いが、実際はコンサートでプログラムに載ることは比較的少ない。今日のコンビはたまにしか聴けない名曲を存分に味わわせてくれた。

最後に齋藤はオーケストラメンバーに立つよう指示を送るが、京響の団員は指揮者に敬意を示して立たず、齋藤が一人で喝采を浴びた。

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