コンサートの記(809) ヘルベルト・ブロムシュテット指揮NHK交響楽団第1965回定期演奏会 マーラー 交響曲第9番
2022年10月15日 東京・渋谷のNHKホールにて
東京・渋谷のNHKホールで、NHK交響楽団の第1965回定期演奏会を聴く。指揮は95歳の名匠、ヘルベルト・ブロムシュテット。
実はブロムシュテットは、今年の6月に足を骨折しており、来日が危ぶまれたが何とか間に合った。
マーラーの交響曲第9番1曲勝負。ブロムシュテットの指揮ということで、今日もヴァイオリン両翼の古典配置での演奏である。
京都コンサートホールではクロークも復活しているが、東京はまだコロナの感染者が多いためか、NHKホールのクロークはまだ稼働していなかった。一方でホール内でのCD販売などは様々なホールで復活している。
今日のコンサートマスターは「マロ」こと篠崎史紀。フォアシュピーラーには郷古廉(ごうこ・すなお)が入る。
NHK交響楽団も団員がステージに現れると同時に聴衆が拍手を送るスタイルに変わっている。ブロムシュテットは、篠崎に支えられるようにしてステージに登場。椅子に座りながらの指揮である。
「心臓の鼓動のよう」と形容されることも多いマーラーの交響曲第9番の冒頭。だが、ブロムシュテットが指揮するとなんとも懐旧的に響く。過ぎた日々への愛おしさが伝わってくるかのようである。
私がブロムシュテット指揮の演奏会に初めて触れたのは、1995年9月のNHK交響楽団の定期演奏会。それから27年の歳月が流れたが、その間に接したブロムシュテット指揮の演奏会数々が、目の前で鳴り続ける音に呼応してマドレーヌ式に蘇ってくるような心地がした。演奏会のみならず、27年の間には本当に色々なことがあった。
怪我が治りきっていないということもあってか、あるいは曲想ゆえか、ブロムシュテットが誇る強靱なフォルムは感じられないが、透明で儚げで懐かしさを感じさせる音が響き続ける。それに縁取りを与えるN響の力強いアンサンブルも見事である。27年前のN響はこんな音は出せなかった。
死に向かう嘆きを描いたかのような第4楽章も、ブロムシュテットの手に掛かると、彼岸を見つめつつ現世を愛おしむような曲調へと変わったように聞こえる。これまで出会った人々、接した事象、森羅万象への感謝が音の背後から匂うように伝わってくる。唯一無二の美演であった。
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