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2022年11月 5日 (土)

コンサートの記(812) ザ・フェニックスホール アンサンブル・ア・ラ・カルト65 フィリップ・グラス 「浜辺のアインシュタイン」(抜粋版・演奏会形式)

2022年10月30日 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホールにて

午後3時から、大阪・曾根崎のザ・フェニックスホールで、アンサンブル・ア・ラ・カルト65 フィリップ・グラスの「浜辺のアインシュタイン」(抜粋版・演奏会形式)を聴く。
「浜辺のアインシュタイン」は、フィリップ・グラスのストーリーのないオペラとして作曲されたものだが、歌詞は音階や数のカウントやヴォカリーズからなっており、今回は朗読のない抜粋版で、演奏会形式の上演ということで、純粋なコンサートに近い形での上演となった。全編上演すると4時間ほど掛かる作品だが、今回は前半後半共に約1時間にまとめられている。

出演は、中川賢一(電子オルガン=キーボード/音楽監督)、廻由美子(めぐり・ゆみこ。電子オルガン=キーボード)、石上真由子(ヴァイオリン)、若林かをり(フルート/ピッコロ)、大石将紀(おおいし・まさのり。サクソフォン)、井上ハルカ(サクソフォン)、太田真紀(ソプラノ)、端山梨奈(はやま・りな。ソプラノ)、八木寿子(やぎ・ひさこ。アルト)、林真衣(アルト)、鹿岡晃紀(しかおか・あきのり。テノール)、松平敬(まつだいら・たかし。バス)、有馬純寿(ありま・すみひさ。音響)。


フィリップ・グラスは、ミニマル・ミュージックの作曲家である。ミニマル・ミュージックは、イギリスの作曲家であるマイケル・ナイマンが名付け親とされているが、フィリップ・グラスの祖国であるアメリカでも、実質的な提唱者とされるテリー・ライリーやスティーヴ・ライヒらがミニマル・ミュージックの大家として知られている。ただグラス本人は「ミニマル・ミュージック」の作曲家と呼ばれることを好んでおらず、自らの作風を「反復構造による音楽」と呼んでいる。

演奏開始前にキーボードが、「ラソド」という下降する3つの音を奏でている。これは演奏開始直後にテノールの鹿岡晃紀が音階名で旋律を歌う。
曲は声楽陣が「ワン、ツー」とカウントする歌から始まり、やがて歌手達は音階で歌い始める。管楽器の編成は小規模だが、ほぼユニゾンで旋律を繰り返すことも多いため、厚みがあるように聞こえる。声楽陣もユニゾンが多いが、パートに分かれて歌うことも多々ある。

個人的にはミニマル・ミュージックは好きで、マイケル・ナイマンの映画音楽を大学時代から愛聴しており、ナイマンは大阪でのコンサートも二度聴いている。そしてスティーヴ・ライヒやギャビン・ブライヤーズの音楽も聴くようになり、コンサートなどでもジョン・アダムズなどの作品に触れている。久石譲や坂本龍一など、クラシックとポピュラーの中間で活躍している作曲家の作品も愛聴した。フィリップ・グラスの音楽は、NAXOSから出ているマリン・オールソップ指揮の交響曲集のCDなどを聴いている。

繰り返される音楽は、DNA自体がそれを欲しているような高揚感を聴くものに与える。私はドラッグはもちろん酒もやらないが、そうした脳内麻薬の分泌を促すような一種の魔力に満ちていることは実感出来る。そして他のミニマル・ミュージックもそうだが、終わった瞬間の開放感もなんとも言えない。

「浜辺のアインシュタイン」は曲調も多様で、繰り返される旋律自体でなくマスとしての音響がJ・S・バッハのそれを思わせたり、オペラらしいソプラソロによるアリア(ヴォカリーズで歌われる。太田真紀の独唱)があったり、ヴァイオリンの石上真由子が疾走感のあるヴァイオリンのソロを奏でたり、電子オルガンの中川賢一と廻由美子が情熱的なデュオを繰り広げたりと、ただ単に繰り返されるだけでない音響を構築している。とはいえ繰り返しによって生み出される音楽の妙味は抗しがたい魅力があり、聴いていて癖になるのも事実である。ミニマル・ミュージックの誕生は、音楽史上において重要なマイルストーンとなるのは間違いないだろう。
今回の繰り返される音楽は、寄せては返す波のようでもあり、遊園地のアトラクションに乗っているようでもあり、常に繰り返しを続ける鼓動のようでもある。耳の外からの音楽と内からの鼓動の幸せな結実と呼んでも良いかも知れない。少なくとも呼応する音楽ではあるだろう。

終盤には、ザ・フェニックスホールの名物である背後の反響板を持ち上げて、ガラスの向こうに梅田のビル群が見えるようになる演出が施される。今日はまだ時間が早めだったが、もう少し夜が更けるとビルの灯りがムードを作る背景となる。
冒頭の「ラソド」の音楽が戻ってきて、数がカウントされる。

演奏会形式ということで、ステージ上にいる奏者達の個性を見るのも楽しい。立って凜とした姿でヴァイオリンを弾く石上真由子や、笑顔で楽しそうに歌う林真衣の姿などは印象的であった。

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