コンサートの記(819) 広上淳一指揮 京都市立芸術大学音楽学部・大学院音楽研究科第169回定期演奏会
2022年12月2日 京都コンサートホールにて
午後7時から、京都コンサートホールで京都市立芸術大学音楽学部・大学院音楽研究科の第169回定期演奏会を聴く。指揮は京都市立芸術大学客員教授の広上淳一。
曲目は、ベートーヴェンの「コリオラン」序曲、ブルックナーのモテット「この場所は神によって造られた」と「見よ、大いなる司祭を」、ベートーヴェンの合唱幻想曲(ピアノ独奏:三舩優子、ソプラノ:佐藤もなみ&伊吹日向子、アルト:柚木玲衣加、テノール:向井洋輔&井上弘也、バス:池野辰海、合唱;京都市立芸術大学音楽学部合唱団)、ベルリオーズの幻想交響曲。
京都市立芸術大学音楽学部・大学院音楽研究科の定期演奏会には何度が接しているが、広上淳一の指揮で聴くのは初めてだと思われる。
ベートーヴェンの「コリオラン」序曲。音色が洗練に欠けるのは学生団体故仕方ないであろう。なかなか熱い演奏を展開する。
ブルックナーのモテット「この場所は神によって造られた」と「見よ、大いなる司祭を」。合唱はポディウムに陣取り、マスクなしで歌う。パイプオルガンは客演の三森尚子が演奏する。
ブルックナーは現在では交響曲作曲家として認知されているが、元々はパイプオルガンの名手として知られ、宗教音楽の作曲も得意としていた。
「この場所は神によって造られた」の楚々とした感じ、「見よ、大いなる司祭を」の雄渾さ、いずれもブルックナー節も利いていて曲としても面白い。
日本に限らないかも知れないが、音楽のみならず芸術関係の大学は女子の方が圧倒的に多い。京芸も例外ではなく、合唱の人数も目視で確認して男女比は1:3ぐらいあるのではないかと思われる。男声が少なくても良い曲を選んだのであろうか。
ベートーヴェンの合唱幻想曲。交響曲第5番「運命」、交響曲第6番「田園」と同じ日にアン・デア・ウィーン劇場で初演されたことで有名である(ちなみに「田園」の番号は初演時には交響曲第5番、日本では「運命」して知られる曲が交響曲第6番として発表されている)。この初演は演奏会自体が失敗している。ひどく寒い日だった上に演奏家や声楽家のコンディションが悪く、しかも約4時間の長丁場ということで聴衆の集中力が保たなかったのだと思われる。
合唱幻想曲であるが、個人的には「クサい」感じがして余り好きな曲ではない。やけに芝居がかっているところが気に掛かる。
ということで、今回も聴いていて「良い曲だ」とは思えなかったのだが、三舩優子の温かな響きのするピアノ、また学生ソリスト達の優れた歌唱など、思った以上に聴き応えはあった。
後半、ベルリオーズの幻想交響曲。
冒頭から前半とは打って変わって弦が洗練された音を出す。単に洗練されているだけではなく、妖しげな光を放っているのが特徴である。
広上淳一はロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してDENONにこの曲をレコーディングしており、出来も上々であるが、やはりこの曲は向いているようだ。
音型のデザインもきっちりなされた上で生命力豊かな演奏を展開。第2楽章はコルネット入りのバージョンである。
第3楽章のコーラングレとオーボエの掛け合いでは、オーボエ奏者はパイプオルガンの横のボックス席のようなところで演奏を行う。楽章全体を通して瑞々しい音色が印象的である。
第4楽章「断頭台への行進」では、おどろおどろしさと推進力が掛け合わされた優れた演奏。ラストを一気呵成に駆け抜けるのも容赦がない印象で効果的である。
第5楽章「サバトの夜の夢」では、鐘はパイプオルガンの横のポディウム最上段に置かれ、視覚的な効果も上げていた。奇っ怪な夢の描写も優れており、迫力と華麗な音の彩りが発揮されて、広上と京都市立芸術大学音楽学部の結束力の強さも確認出来た。
最後に広上は、「ワールドカップ、日本、スペインに勝ちました。そして京都市芸の若者が素晴らしい演奏を行う。日本もまだまだ捨てたもんじゃないですね」「長友選手の言葉を皆さんにお届けします。『ブラボー!』」と語り、コンサートはお開きとなった。
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