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2023年2月の2件の記事

2023年2月26日 (日)

観劇感想精選(455) 渡邊守章記念 春秋座「能と狂言」2023 「花盗人」&「隅田川」

2023年2月4日 京都芸術劇場春秋座にて

午後2時から、京都芸術劇場春秋座で、渡邊守章記念 春秋座「能と狂言」を観る。

まず観世流シテ方の片山九郎右衛門と舞台芸術センター特別教授である天野文雄によるプレトークがあり、狂言「花盗人」と能「隅田川」が上演される。

片山九郎右衛門と天野文雄によるプレトークであるが、「隅田川」の内容解説などが中心となる。「隅田川」には子方といって子役が登場するのだが、片山九郎右衛門も子どもの頃に「隅田川」の子方を何度も務めているという。ずっと塚を表す室の中に隠れているのだが、ずっと正座しているそうで、それだけでも大変さが伝わってくる。
「隅田川」は救いのない悲劇として知られているが、子方の「南無阿弥陀仏」の称名が救いなのかどうか、また「隅田川」の作者である観世元雅と父親の世阿弥との間で行われたという『申楽談儀』の「子方論争」というものがあり、世阿弥が子方を出すべきではないと主張して、元雅はそれに反対したという経緯があるのだが、今では子方は基本的に出すことになっている。片山九郎右衛門が出演した「隅田川」でも観世銕之丞が出演した「隅田川」でも子方は必ず出ていたそうだ。ただそうではない演出も実は今でもあるそうである。


狂言「花盗人」。桜の花を盗みに来た男(野村万作)が、何某(野村萬斎)に捕らえられるが、歌道の妙技で危機を切り抜けたばかりか、桜の枝まで贈られるという展開で、芸能の妙技が称えられている。野村万作の動きのキレはやはり90代の高齢であることを感じさせない。


能「隅田川」。一昨年に横須賀でも観ている演目である。
子方梅若丸:安藤継之助、シテ狂女:観世銕之丞、ワキ渡守:森常好、ワキヅレ商人:舘田善博。
京都芸術劇場のある北白川に住む女が、息子の梅若丸をさらわれ、東国に連れて行かれたという噂を聞いて、武蔵国と下総国の国境である隅田川まで狂女となって落ちていく。
狂人に「狂え」と人が命令する能の演目はいくつかあるそうだが、それらはいずれも芸能者に「芸を披露しろ」と命ずるものだそうで、芸能者でないものに命令するのは珍しいそうである。

片山九郎右衛門は、梅若丸の姿が母親である狂女以外にも見えるという解釈を支持しているそうだが、確かに視覚全盛の現代の上演ということを考えれば、そうした解釈の方が似つかわしいように感じられる。

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2023年2月 1日 (水)

コンサートの記(824) 鈴木優人指揮 京都市交響楽団第674回定期演奏会

2023年1月21日 京都コンサートホールにて

午後2時30分から、京都コンサートホールで、京都市交響楽団の第674回定期演奏会を聴く。指揮は古楽界のサラブレッドでもある鈴木優人。

バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の首席指揮者としてもお馴染みの鈴木優人だが、今回は20世紀に書かれたロシアの作品が並ぶ。プロコフィエフの交響曲第1番「古典交響曲」、ストラヴィンスキーの弦楽のための協奏曲ニ調、ラフマニノフの交響曲第2番。全員、亡命経験がある。


午後2時頃より、ステージ上で鈴木優人によるプレトークがある。鈴木は、今日の作曲家を若い順に並べたこと、また年の差が9歳ずつであることなどを述べ、プロコフィエフやストラヴィンスキーの一筋縄ではいかない諧謔性、そしてラフマニノフの交響曲第2番の美しさ、特に第3楽章の美しさについて語った。


今日のコンサートマスターは、京響特別客演コンサートマスターである会田莉凡。フォアシュピーラーに泉原隆志が入る。ドイツ式の現代配置をベースにしているが、ティンパニは指揮者の正面ではなくやや下手寄りに入り、その横に打楽器群が来る。
フルート首席奏者の上野博昭は、プロコフィエフとラフマニノフの両方に出演。クラリネット首席の小谷口直子は、美しいソロのあるラフマニノフのみの参加である。


プロコフィエフの交響曲第1番「古典交響曲」。鈴木の才能が飛び散る様が見えるような、生気に満ちた演奏となる。弦は軽みがあり煌びやか、管も軽快で、プロコフィエフがこの交響曲に込めた才気がダイレクトに伝わってくるような演奏である。


ストラヴィンスキーの弦楽のための協奏曲ニ調。
迷宮を進んでいくような第1楽章、華やかで祝典的だがどことなく陰りもある第2楽章。再び迷宮へと迷い込んだような第3楽章が緻密に演奏された。


ラフマニノフの交響曲第2番。鈴木らしい「気品」をもって演奏されるが、時に「荒ぶる」と書いてもいいほどの盛り上がりを見せる。「上品」と「豪快」の二項対立を止揚したようなラフマニノフであり、単に美しいだけでないパワフルさが示される。
第3楽章の小谷口直子のソロも理想的。こぼれそうな美音が憂いを込めて演奏される。無常観を砂糖でくるんだような甘悲しさが耳を満たす。
第4楽章の爆発力も素晴らしく、この曲が20世紀の大交響曲(良い意味でも悪い意味でも)であることが如実に示された。優れたラフマニノフ演奏であった。

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