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2024年2月の6件の記事

2024年2月29日 (木)

これまでに観た映画より(322)「風よ あらしよ 劇場版」

2024年2月19日 京都シネマにて

京都シネマで、日本映画「風よ あらしよ 劇場版」を観る。甘粕事件によって28歳で散った伊藤野枝を主人公とした作品。2022年にNHKBSで放送され、今回劇場版が上映される運びとなった。原作:村山由佳、脚本:矢島弘一、演出:柳川強。音楽:梶浦由記。出演:吉高由里子、永山瑛太、稲垣吾郎、松下奈緒、美波、山田真歩、音尾琢真、玉置玲央、石橋蓮司ほか。

「青鞜」後期の編集者として、また無政府主義者・大杉栄との関係で知られる伊藤野枝の生涯に迫る作品である。

東京の上野高等女学校に通う伊藤ノヱ(後のペンネーム・伊藤野枝。演じるのは吉高由里子)は、生まれ故郷の福岡で無理矢理結婚させられそうになる。「家にあっては父に従い、嫁しては夫に従い、夫が死んだ後は子に従う」という男尊女卑の文化が当たり前であった大正時代にあって伊藤野枝はそれに反発。上野高等女学校の教師だった辻潤(稲垣吾郎)に文才を見出され、平塚らいてうの主宰する青鞜社に就職し、女性の地位向上を唱えるが、青鞜社が傾くようになり、平塚らいてうから雑誌「青鞜」を受け継ぎ、編集をこなすが、結果的には「青鞜」は廃刊になってしまう。一方、辻と結婚した野枝であるが、辻は自堕落な生活を送るようになる。そんな中、野枝は無政府主義者の大杉栄(永山瑛太)と出会い……。

伊藤野枝という人が極めて行動的で積極的な人柄であることが分かるような描き方がなされている。率先して「青鞜」を受け継ぎ、憧れの存在であった辻潤や大杉栄とも対等に渡り合う。

大河ドラマ「光る君へ」に紫式部役で主演している吉高由里子。彼女の個性である甘ったるい声はやはり気になるが、不自由な時代を全力で駆け抜ける勇ましさが出ていた。永山瑛太の存在感、アンニュイな男を演じさせたらピカイチの稲垣吾郎の魅力も十分に発揮されていたように思う。

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2024年2月28日 (水)

コンサートの記(831) 川瀬賢太郎指揮 京都市交響楽団第686回定期演奏会

2024年2月17日

午後2時30分から、京都コンサートホールで、京都市交響楽団の第686回定期演奏会を聴く。今日の指揮者は川瀬賢太郎。

若くして認められている川瀬賢太郎。東京音楽大学で広上淳一に師事し、神奈川フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者を経て、現在は名古屋フィルハーモニー交響楽団の音楽監督を務めている。


曲目は、ウィントン・マルサリスのヴァイオリン協奏曲ニ調(ヴァイオリン独奏:石田泰尚)とドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。


午後2時から川瀬賢太郎によるプレトークがある。川瀬はマルサリスのヴァイオリン協奏曲ニ調をCDで聴いて、「(神奈川フィルコンサートマスターの)石田さんにぴったりだ」と思って、石田をソリストに演奏を行うことにしたそうだ。
ドヴォルザークの「新世界」交響曲に関しては、コロナ禍中に総譜を点検した際に、これまで演奏されてきたのとは違う箇所をいくつか発見したそうで、今回は発見した箇所を新しい形で演奏するとした。


マルサリスのヴァイオリン協奏曲ニ調。コンサーマスターは泉原隆志。フォアシュピーラーに尾﨑平。
現役のジャズ演奏家としては最も有名だと思われるウィントン・マルサリス。クラシックのトランペッターとしても活躍しており、CDなどもいくつか出している。

叙情に満ちたヴァイオリンソロでスタート。オーケストラ奏者の足踏みや手拍子なども入り、いかにもジャズなテイストの部分もある曲である。演奏時間約40分とヴァイオリン協奏曲としては大作だが、演奏時間が長すぎるようにも感じられた。

アンコール演奏は、ジョン・ウィリアムズの「シンドラーのリスト」よりメインテーマ。哀切な曲調を石田は巧みに奏でていた。


ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。石田泰尚がコンサートマスターに入り、泉原隆志がフォアシュピーラーに回る。
若々しさの光る演奏となった。中庸からやや速めのテンポによる演奏だったが、スケールも適切であり、音色にも適度な輝かしさと渋みが宿っていた。
第1楽章の金管と、第3楽章の第1ヴァイオリンの音型が通常とは違って聞こえたが、そこが新たに発見した箇所なのかどうかは不明である。


京都市交響楽団の楽団長でもある門川大作京都市長が退任するということで、演奏終了後に門川市長がステージ上に呼ばれ、花束贈呈が行われた。

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2024年2月25日 (日)

観劇感想精選(456) 三谷幸喜 作・演出「オデッサ」

2024年2月3日 大阪の森ノ宮ピロティホールにて観劇

午後5時30分から、大阪の森ノ宮ピロティホールで、三谷幸喜の作・演出作品「オデッサ」を観る。出演:柿澤勇人、宮澤エマ、迫田孝也。音楽・演奏:荻野清子。
オデッサといえば、今ではオデーサ表記が一般的となったウクライナの黒海沿いの都市が有名だが、今回舞台となるのはアメリカはテキサス州の小都市・オデッサである。かつてロシア系の移民が開拓を行った時にオデッサに似ているというのでその名が付いたようである。以前には石油の産地として栄えたこともあったようだが、現在は寂れて、人口も10万人程度となっている。そんなオデッサで殺人事件がある。もともとテキサス州では女性ばかり8人連続で殺害されるという事件が起こっていたのだが、今回はそれとは別の老人殺しの事件で、被疑者は日本人。オデッサ署の日系アメリカ人女性警官カチンスキー警部(宮澤エマ)、通訳を務めることになったトレーナーの日高(柿澤勇人)、鹿児島出身の被疑者である児島(迫田孝也)によるダイナー(8人殺しの取り調べにより取調室が満員で、ダイナーを使う羽目になっている)における密室でのやり取りが続く。

宮澤エマと柿澤勇人は英語が話せて互いの意思疎通が可能という役なので、二人だけの時は日本語で会話が行われ、迫田が入り、柿澤が宮澤と英語でやり取りを行う場面では、背後に日本語の字幕が出る。柿澤と迫田は共に鹿児島県出身という設定なので、二人で話すときは薩摩弁が用いられる。カーテンコールでの字幕紹介でも迫田には「鹿児島弁指導」、宮澤エマには「英語監修」の肩書きが記されていた。

迫田演じる旅行者はやたらと有罪になりたがるのだが、これには訳がある。柿澤演じるスティーブこと日高は、同郷のよしみからか児島を無罪へと無闇に誘導したがる。途中まではその方向性で進んでいくのだが、迫田演じる旅行者がふと口にした一言で、それまでの取り調べの過程が一気にひっくり返ることになる。

言語を題材にしたミステリーで、言語による落差やそれぞれの立場、日本人の性質や銃社会アメリカの問題などが描かれており、コミカルな中にもアメリカ社会のシリアスな面が浮かび上がるようになっている。

2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出演していた3人によるアンサンブル。完璧とまではいかなかったが、それぞれの持ち味を発揮した生き生きとした演技を行っていたように思う。

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2024年2月19日 (月)

これまでに観た映画より(321) 「カラオケ行こ!」

2024年2月5日 MOVIX京都にて

MOVIX京都で日本映画「カラオケ行こ!」を観る。和山やまのマンガが原作。ヤクザと男子中学生の音楽を通した不思議な友情を描いた作品である。脚本は、「逃げるは恥だが役に立つ」の野木亜紀子。出演:綾野剛、齋藤潤、芳根京子、橋本じゅん、やべきょうすけ、坂井真紀、宮崎吐夢、ヒコロヒー、加藤雅也(友情出演)、北村一輝ほか。音楽:世武裕子、監督は、「リンダ リンダ リンダ」の山下敦弘。

大阪が舞台。大阪の合唱コンクール中学校の部が行われた日に、ヤクザの成田狂児(綾野剛)は、大会で3位に入った中学校の部長でボーイソプラノを務める岡聡実(齋藤潤)に、「カラオケ行こ!」と誘う。成田が加わっている四代目祭林組の組長(北村一輝)はカラオケにうるさく、カラオケ大会を開いては「歌下手王」になった部下に入れ墨を彫るのを習慣としている。しかし組長には絵心がなく、入れ墨を入れられるものは大変な屈辱を受けるという。成田は「歌下手王」」になるのを避けるために、岡にカラオケのレッスンを頼むのであった。最初のうちは困惑していた岡だったが、自身が変声期でボーイソプラノとしては限界に来ているということもあり、成田の声質にあった曲を選ぶなど次第に打ち解けていく。

岡が通う学校の合唱コンクールと、祭林組のカラオケ大会が行われるのがちょうど同じ日になる。岡はボーイソプラノに自信がなく、行くのを渋っていたが、出掛けることにする。その途中、成田と岡がいつもカラオケを楽しんでいる店の前で事故が起こっているのを目にする。成田の車は大破していた。成田のことが気が気でない岡は合唱コンクールの会場から飛び出す。


一応、任侠ものなのだが、綾野剛演じる成田狂児が優しいということもあり、全体的に温かい感じの物語となっている。岡が通う中学校の様子も描かれ、青春映画としての要素も加わった親しみやすい作品に仕上がっていた。

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2024年2月 5日 (月)

これまでに観た映画より(320) 「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」

2024年1月11日 MOVIX京都にて

MOVIX京都で日本映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」を観る。原作:汐見夏衛。監督・脚本:成田洋一。出演:福原遥、水上恒司、中嶋朋子、伊藤健太郎、島﨑斗亜、上川周作、小野塚勇人、出口夏希、坪倉由幸、松坂慶子ほか。主題歌:福山雅治「想望」

タイムスリップが加わる戦時下ドラマで、昭和20年6月にタイムスリップした女子高生が、特攻隊員の早大生とほのかな恋に落ちるという恋愛ドラマである。


加納百合(福原遥)は成績優秀で、高校の進路相談で担任教師(坪倉由幸)から大学への進学を勧められるが、百合本人は就職を希望していた。百合は父親を早くに事故で亡くした母子家庭で育っており、母親の幸恵(中嶋朋子)は魚屋とコンビニでの仕事を掛け持ちしており、そのことが百合が進学をためらう一因となっていた。
進路相談を終えた日。百合は幸恵と喧嘩して家を飛び出し、かつての防空壕跡に泊まり込むが、目が覚めると外は昭和20年6月となっており……。

現代の女子高生である百合が、若くして散ることが決まっている特攻隊員の佐久間彰(水上恒司)とほのかな恋に落ちることで成長していくという教養小説的な部分もある映画である。早稲田大学で教師を目指していた彰に感化された百合は、大学に進学して教師を目指すようになる。

出来としては可もなく不可もなくといったところだが、出演者はみな好演であり、空爆の悲惨さや、特攻隊員の暗いだけではない青春も描かれていて、異色の青春映画として一定の評価の出来る作品に仕上がっている。

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2024年2月 2日 (金)

これまでに観た映画より(319) 「PERFECT DAYS」

2024年1月17日 京都シネマにて

京都シネマで、ヴィム・ヴェンダース監督作品「PERFECT DAYS」を観る。主演の役所広司がカンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞した作品。出演は役所広司のほかに、田中泯、中野有紗、柄本時生、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和ほか。

平山(役所広司)は、渋谷区の公衆トイレ(デザイナーズトイレ)の清掃員をしている。朝早く起き、身支度を整え、自宅アパート前の自動販売機で缶コーヒーを買い、運転する車の中で洋楽のカセットテープを流し、いくつものトイレを丹念に磨く日々。仕事帰りには銭湯に入り、浅草の地下で食を味わい、浅草の居酒屋で一杯やる。仕事から帰ってからは自転車で移動し、古本屋に立ち寄って本を買い、夜にはその本を読むという毎日。
昼食は神社の境内でサンドウィッチを食べ、同じく境内で食事をしているOLと挨拶をする。無口で不器用な男である。

仕事の部下というか同僚であるタカシ(柄本時生)がアイという女性(アオイヤマダ)と恋仲になる。アイが働くガールズバーでデートをしたいタカシは金がないことを嘆き、平山はタカシに金を貸すのだが、やがてタカシは仕事を辞めてしまい……。

一方、平山の姪(妹の娘)であるニコ(中野有紗)が、母親(麻生祐未)と喧嘩をして平山のアパートを訪ねてくる。

淡々とした日常の中に起こるちょっとした出来事が丁寧に描かれているという印象を受ける作品。平山の日常はほとんど毎日変わらないのだが、周囲の人々が少しずつ変わっていく。仕事を辞めたタカシ、突然訪ねてくるニコ、浅草の居酒屋のママ(石川さゆり)の元夫で癌を患っている友山(三浦友和)。平山の周囲を様々な人々が駆け抜けていく。そんな些細な日常の変化を上手く捉えた作品といっていいだろう。決して派手な映画ではなく、むしろ地味な作品に分類されると思われるが、ラストで説明される木漏れ日のようにたゆたう日常が不思議な浮遊感を伴って観る者の胸をとらえる。

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