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2024年3月31日 (日)

コンサートの記(837) 出口大地指揮 京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2023(年度)「みんな集まれ、オーケストラ!」第4回「ストラヴィンスキー、ナウ・アンド・ゼン」

2024年3月24日 京都コンサートホールにて

午後2時から、京都コンサートホールで、京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2023(年度)「みんな集まれ、オーケストラ!」第4回「ストラヴィンスキー、ナウ・アンド・ゼン」を聴く。今日の指揮は、若手の出口大地。ナビゲーターはガレッジセールの二人。

曲目は、シェーンベルクの「5つの小品」作品16から「前ぶれ」、ドビュッシーの「喜びの島」(モリナーリ編)、コープランドの「静かな町」(トランペット独奏:ハラルド・ナエス、イングリッシュホルン独奏:戸田雄太)、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」から「モンタギュー家とキャピュレット家」「タイボルトの死」、ファリャのバレエ音楽「恋は魔術師」から「火祭りの踊り」、シベリウスの「アンダンテ・フェスティヴォ」、山田耕筰の序曲ニ長調、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」(1919年版)。


2021年にアルバニアで行われた第17回ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門(他のコンクールとは異なり、本番一発勝負という特徴がある)において日本人として初の優勝に輝いた出口大地。左手にタクトを持つ指揮者である。元々は弁護士志望で、関西の4大難関私立大学・関関同立(元々は学生野球の用語である)の一つである関西(かんせい)学院大学の法学部に進むが、在学中に「争い事を好まない性格なので弁護士には向いていない」と気づき、「みんなを笑顔にする仕事に就きたい」ということで、卒業後に東京音楽大学指揮科(作曲指揮専攻)に再入学。広上淳一らに師事した。左手にタクトを持つ指揮者としてはフィンランドのパーヴォ・ベルグルンドが有名で、京響に客演した指揮者の中ではスペイン出身のイスキエルドという左利きの指揮者がいたが、普通は左利きであっても指揮棒は右手に持つ。例えば朝比奈隆は左利きであったが、指揮棒は右手に握った。左利きを矯正することに猛烈に反対していた坂本龍一もタクトは右手で執った。
出口も当初は右手で指揮棒を振っていたが、2年生の時に広上淳一から「手の動きが余りにも鈍い」と指摘され、「左利きなんだったら左で指揮をさせろ」と言われて、以降は左手で振る指揮者として活動している。東京音大卒業後はハンス・アイスラー音楽大学ベルリン・オーケストラ指揮科修士課程を修了。クーセヴィツキー国際指揮者コンクールでは最高位とオーケストラ賞を受賞している。これまでに指揮をパーヴォ・ヤルヴィ、井上道義、下野竜也らに師事。ベルリン放送交響楽団でウラディーミル・ユロフスキのアシスタントを務めた。
テレビ朝日系「題名のない音楽会」では、「ニュースター」紹介シリーズの第1回出演者に選ばれ、東京フィルハーモニー交響楽団を指揮している。


今日のコンサートマスターは特別客演コンサートマスターの「組長」こと石田泰尚。泉原隆志は降り番で、フォアシュピーラーは尾﨑平。


シェーンベルクの「5つの小品」作品16から「前ぶれ」。激しいうねりを築き、あっという間に終わってしまう(演奏時間約2分)。ガレッジセールの二人が登場し、ゴリが「おどろおどろしい曲でしたね。不安になるというか。今、大谷翔平選手の周りはこんな感じ」と言って、川田に「やめなさい!」と突っ込まれる。

ドビュッシーの「喜びの島」。原曲はピアノ曲で、イタリアの指揮者であるベルナルディーノ・モリナーリがドビュッシー本人の指導を受けて編曲したバージョンの演奏である。
色彩感豊かなオーケストレーションで、京響の長所が良く生かされていた。


コープランドの「静かな町」。トランペット独奏とイングリッシュの独奏を伴う作品で、夜のニューヨークの孤独を描いている。元々は劇伴音楽として書かれたものをコンサート用にアレンジしたもので、音楽も物語仕立てになっており、トランペットはジャズ・トランペッターを目指す裕福だが孤独なユダヤ人の少年、イングリッシュホルンはホームレスの男性の寂しい心境を描いている。

イングリッシュホルンの説明として出口は、ドヴォルザークの「新世界」交響曲より第2楽章、「家路」として知られるテーマをハミングする。ゴリが「出口さん美声ですね」と褒める。

孤独がテーマなだけに、しんみりとした音楽が続くが、終盤に明るさが顔をのぞかせる。
トランペットのナエス、イングリッシュホルンの戸田もしっかりとしたソロを聴かせた。

コープランドの「静かな町」は編成が小さいのだが、出口は、「20世紀初めに起こったことと関係しています」と言い、ゴリが「黒柳徹子さんが生まれた。あの人、何歳なんだろう?」とボケる。
20世紀前半には二つの大戦があり、音楽関係者も兵隊に取られて人が足りなくなる。そのため編成を小さくするなど、工夫する必要が出てきたと出口は語った。


プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」より「モンタギュー家とキャピュレット家」「タイボルトの死」。
川田が曲目を読み上げるが、「言いにくい。噛みそうになる」と言い、ゴリは、「よく知らなかったんですけど、スタッフさんに言われて気づきました。CMで流れています。大きな犬が出てきます。ケータイの会社です。某ソフトバンク」、川田「ソフトバンクって言っちゃったじゃない!」
出口の指揮する京響は音にキレがあり、スケールも大きい。


ファリャのバレエ音楽「恋は魔術師」から「火祭りの踊り」。京響のブラスの強さがプラスに働いている。怪しげな雰囲気もよく出ていた。


シベリウスの「アンダンテ・フェスティヴォ」。出口が、弦楽四重奏のために書かれ、弦楽とティンパニのためにアレンジしたという解説を行う。ティンパニは最終盤になってやっと登場するのだが、ゴリは演奏終了後に、「ティンパニのために書いたっていうのに、ティンパニの人、なかなか演奏しないから、どこで入るのか分からなくなってティンパってるんじゃないか」とギャグを言う。
どちらかというとすっきりとした演奏で、弦楽の響きの美しさで勝負した演奏であった。


山田耕筰の序曲ニ長調。山田耕筰がドイツ留学中に書いたもので、日本人が書いた初の管弦楽曲とされる。ドイツ古典派の影響が強い曲であり、山田が若い頃に書いた作品ということもあって独自の個性よりもアカデミックな印象の強い楽曲である。


ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」(1919年版)。
川田が、「パリ時代に作曲されたもので、その後、1911年、1919年、1945年に組曲として編曲しています。ストラヴィンスキーは来日した際に京都に来ているそうで、神社仏閣を巡り」
ゴリ「お会いしました」
川田「嘘つけ!」
指揮者が若いということと、後半は管楽器首席奏者の多くが降りたということもあって、透明度こそもう一つだが、彩り豊かで迫力にも溢れた演奏である。ロマンティシズムや典雅さの表出にも長けていた。


この3月をもって、京響首席トロンボーン奏者の岡本哲が卒団、今日が最後の本番ということで、ロビーには岡本が教える大阪音楽大学と広島市のエリザベト音楽大学の教え子からの花が飾られ、演奏終了後に舞台上で花束が岡本に贈られた。


なお、オーケストラ・ディスカバリーは2024年度からは会場をロームシアター京都メインホールに変えて行われる。これまでは吉本の漫才コンビであるロザンとガレッジセールが中心となってナビゲーターを務めてきたが、チラシにはナビゲーターの文字はない。テーマが「マエストロとディスカバリー!」ということもあり、おそらく揮者がトークを行って引っ張っていくのだと予想される。

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