コンサートの記(834) 広上淳一指揮京都市交響楽団第687回定期演奏会 フライデー・ナイト・スペシャル
2024年3月15日 京都コンサートホールにて
午後7時30分から、京都コンサートホールで、京都市交響楽団の第687回定期演奏会を聴く。今日の指揮者は、京都コンサートホール館長でもある広上淳一。
現在、京都市営地下鉄烏丸線では最寄り駅である北山駅に近づくと、広上淳一の声による京都コンサートホールの案内が車内に流れるようになっている。
広上は現在は、オーケストラ・アンサンブル金沢のアーティスティック・リーダー(事実上の音楽監督)を務めるほか、日本フィルハーモニー交響楽団の「フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)」、札幌交響楽団の友情指揮者の称号を得ている。京都市交響楽団の第12代、第13代常任指揮者を務めたが、名誉称号は辞退。ただオーケストラもそれでは困るのか、「京都市交響楽団 広上淳一」という謎の称号を贈られている。
東京音楽大学の指揮科教授を長年に渡って務めており、弟子も多い。現在、TBS系列で放送されている西島秀俊主演の連続ドラマ「さよならマエストロ」の音楽監修も手掛けている(東京音楽大学も全面協力を行っている)。また今年は大河ドラマ「光る君へ」のオープニングテーマの指揮も行っている。
今日は午後7時30分から上演時間約1時間、休憩なしで行われる「フライデー・ナイト・スペシャル」としての上演。明日も定期演奏会が行われるがプログラムが一部異なっている。
今日の演目は、まずジャン・エフラム・バヴゼのピアノ独奏によるラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」と「道化師の朝の歌」が弾かれ、その後に、広上指揮の京響によるラフマニノフの交響曲第3番が演奏されるという運びになっている。
午後7時頃から広上と、今年の1月から京都市交響楽団のチーフプロデューサーに着任した高尾浩一によるプレトークがある。広上は1月から髭を伸ばし始めたが、能登半島地震の復興祈願として験を担いだものだそうで、京響のチーフプロデューサーに就く前はオーケストラ・アンサンブル金沢にいたという高尾と共に能登半島地震復興のための募金を行うことを表明した。
ソリストのジャン・エフラム・バヴゼの紹介。ピアノ大好き人間だそうで、朝から晩までピアノを弾いているピアノ少年のような人だそうだが、今年62歳だそうで、66歳の広上と余り変わらないという話をする。フランス人であるが、奥さんはハンガリー人だそうで、ハンガリーが生んだ名指揮者のサー・ゲオルグ・ショルティに見出され、「ショルティが最後に発掘した逸材」とも呼ばれているそうだ。
ラフマニノフの交響曲というと、第2番がとにかく有名であり、この曲は20世紀後半に最も評価と知名度を上げた交響曲の一つだが、残る二つの交響曲、交響曲第1番と第3番は知名度も上演機会にもそれほど恵まれていない。高尾は、これまでに外山雄三と秋山和慶が指揮したラフマニノフの交響曲第3番を聴いたことがあるという。
広上は、何度も聴くと好きになる曲だと、ラフマニノフの交響曲第3番を紹介する。
ジャン・エフラム・バヴゼのピアノ独奏によるラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」。フランス人らしくやや速めのテンポで演奏される。典雅な趣と豊かな色彩に満ちた演奏で、鍵盤の上に虹が架かったかのよう。「エスプリ・クルトワ」としかいいようのないものだが、敢えて日本語に訳すと京言葉になるが「はんなり」に近いものがあるように感じられる。
「道化師の朝の歌」。活気に満ち、リズム感が良く、程よい熱さと諧謔精神の感じられる演奏であった。
バヴゼのアンコール演奏は、マスネの「トッカータ」。初めて聴く曲だが、メカニックの高さと豊かな表現力が感じられた。
ラフマニノフの交響曲第3番。今日のコンサートマスターは、特別客演コンサートマスターの石田泰尚。フォアシュピーラーに泉原隆志。今日はヴィオラ首席の位置にソロ首席ヴィオラ奏者の店村眞積が入る。
私はこの曲は、シャルル・デュトワ指揮フィラデルフィア管弦楽団の「ラフマニノフ交響曲全集」(DECCA)でしか聴いたことがないが、今日の広上と京響の演奏を聴くと、この曲がフィラデルフィア管弦楽団の響きを意識して書かれたものであることが分かる。ラフマニノフはフィラデルフィア管弦楽団を愛し、自身で何度もピアニストとして共演したり指揮台に立ったりもしているが、いかにもフィラデルフィア管弦楽団に似合いそうな楽曲である。
第1楽章に何度も登場するメロディーは甘美で、フィラデルフィア管弦楽団の輝かしい弦の響きにピッタリである。
広上指揮する京響は音の抜けが良く、立体感や瞬発力も抜群で、流石にフィラデルフィア管弦楽団ほどではないが、メロウで都会的で活気に満ちた曲想を描き出していく。アメリカ的な曲調が顕著なのもこの曲の特徴であろう。
各奏者の技量も高く、現時点では有名からほど遠いこの曲の魅力を見事に炙り出してみせていた。
第1楽章の甘美なメロディーも印象的であり、将来的に人気が徐々に上がっていきそうな交響曲である。ラフマニノフの交響曲第2番も初演は成功したものの、以前は「ジャムとマーマレードでベタベタの曲」などと酷評され、評価は低かったが、アンドレ・プレヴィンがこの曲を積極的に取り上げ、ウラディーミル・アシュケナージやシャルル・デュトワ、日本では尾高忠明がそれに続いたことで人気曲の仲間入りをしている。ラフマニノフの交響曲第3番も「熱心な擁護者がいたら」あるいはと思わせてくれるところのある交響曲である。
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