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2024年4月 1日 (月)

これまでに観た映画より(326) 公開30周年「ピアノ・レッスン」4Kデジタルリマスター(2K上映)

2024年3月25日 京都シネマにて

京都シネマで、フランス、ニュージーランド、オーストラリア合作映画「ピアノ・レッスン(原題「The Piano」)」公開30周年4Kデジタルリマスターを観る(京都シネマでは2Kでの上映)。ニュージーランド生まれでオーストラリア育ちのジェーン・カンピオン監督作品。出演:ホリー・ハンター、ハーヴェイ・カイテル、サム・ニール、アンナ・パキンほか。音楽:マイケル・ナイマン。

第46回カンヌ映画祭でパルム・ドールに輝いたほか、米アカデミー賞では、アンナ・パキンが史上2番目の若さとなる11歳で助演女優賞の栄誉に輝いたことでも話題となった(ホリー・ハンターが主演女優賞を獲得した他、ジェーン・カンピオン監督も脚本賞も受賞している)。
ピーター・グリーナウェイ監督とのコンビで名を上げたマイケル・ナイマンが従来の「ミニマルミュージックの鬼」ともいうべき作風からロマンティックなものへと転換するきっかけとなった作品でもある。セルジュ・チェリビダッケの下で黄金時代を築いていたミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団が演奏を手掛けた音楽は評判となり、サウンドトラックは大ヒットした。オリジナル・サウンドトラックは私も購入したが、テーマ曲的存在のピアノ曲「楽しみの希う心」のミニスコアが入っていた。
この音楽に関して、公開当時、浅田彰と坂本龍一が対談で語っているのだが、二人して散々にこき下ろしているのが印象的だった。また映画本編に関してはシナリオライターの石堂淑朗が今では考えられない性差別発言を「音楽現代」誌に載せていた。それが30年前である。

主舞台となるのは、まだ荒廃した土地であった19世紀のニュージーランドである。原住民のマオリ族の人々も多く登場する。
決められた結婚によりスコットランドからニュージーランドへと渡ったエイダ(ホリー・ハンター)。彼女には一人娘のフローラ(アンナ・パキン)がいる。エイダは6歳の時に話すのをやめ、会話は手話や文筆で行うようになる。当時、意識されていたのかどうかは分からないが、症状としては全緘黙(言語が分かり会話能力もあるのに全く話せなくなってしまう症状。21世紀に入ってから場面緘黙と共に広く知られることになる)に似ている。話せない代わりにエイダにはピアノの腕があり、ピアノを演奏することで言語表現の不自由感を補ってきた。エイダはニュージーランドに渡る時もボックス型のピアノを運んでいくが、新しい夫のスチュアート(サム・ニール)が家まで運ぶのが面倒と判断し、エイダの分身であるピアノは浜に置き去りにされる。ピアノはスチュアートの家の近くに住む、マオリ族の入れ墨を顔に入れたベインズ(ハーヴェイ・カイテル)が、スチュアートに川の向こうの土地との交換を提案して手に入れる。エイダはピアノのレッスンのためにベインズの家に通うことになるのだが、ベインズは自分では弾こうとせず、エイダの演奏を聴く。ベインズの要求は次第にエスカレートしたものになっていくが、エイダの心もベインズへと移っていく。

他人が決めた結婚に従わざるを得なかった時代に、自由を求める女性の話である。
スチュアートはエイダの分身ともいうべきピアノを浜に置き去りにする。普段は優しげな男であるが、そうした態度からも男尊女卑の考えの持ち主であることが分かる。またスチュアートはエイダとベインズの関係を知ると、家の窓に板を張り付け、外側からかんぬきを掛けてエイダを幽閉してしまう。女性が置かれた窮屈な環境を作り出す人物でもある。一方、ベインズは粗野で強引だが、ピアノには理解を示す。エイダが求めたのはスチュアートではなくベインズの方だった。
マオリ族の男達が漕ぐカヌーでニュージーランドを去るエイダとベインズ。カヌーにはピアノも載せられるが、エイダは途中でピアノを海へと捨てるように要求する。これまでの自分との決別だった。その後に再生を経たエイダは自立した女性として別のピアノに向かう。象徴的なシーンである。

一言もセリフを発しないという難役に挑んだホリー・ハンター。彼女自身が脚本に惚れ込み、ピアノが弾けるということをアピールして売り込んだそうだが、キリリとした表情で気高さを示し、男の所有物になることを拒否する女性を演じる。ナイマンのピアノ曲を演奏するほか、日本では「太田胃散」のCM曲として知られるショパンの前奏曲第7番を弾く場面もある。

旧世代を代表する人物であるスチュアートを演ずるサム・ニールは同時期にスピルバーグの「ジュラシック・パーク」に主演している。彼もまたニュージーランド人である。

出演当時9歳だったアンナ・パキンもアカデミー賞を受賞しているだけに達者な演技を示している。

ベインズを演じるハーヴェイ・カイテル。彼はこの映画で長髪にしているのだが、それを見た故宮沢章夫が、「俺も長髪にしなきゃ」と一時期髪を伸ばしていた。私が初めて出会った時の宮沢章夫は長髪だった。この話は宮沢本人から直接聞いたものである。

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