観劇感想精選(458) 村川拓也 「ムーンライト」
2023年1月12日 左京区岡崎のロームシアター京都サウスホールにて
午後7時から、左京区岡崎のロームシアターサウスホールで、「ムーンライト」を観る。演出・構成:村川拓也。声の出演:中島昭夫。出演(ピアノ演奏):荒俣麗奈、伊東沙希子、梶原香織、杉田彩智乃。ドラマトゥルク:林立騎。
「ムーンライト」は、2018年に、目の不自由な老人ピアノ演奏者である中島(なかしま)昭夫に取材して作られた作品で、当初は、中島もステージに上がり、村川のインタビューを受けるという趣向の作品であった。その後、東京、札幌でも上演されたが、札幌公演が行われる直前の2022年5月に中島が逝去し、札幌と今回の京都での上演は中島なしでの上演となっている。
中島がステージ上にいると仮定して村川は話しかけるのだが、中島の返答は当然ながら客席にいる人には聞こえてこないので、中島の人となりを知ることは出来ない。村川が一人芝居で中島から聞き取ったことにする断片的な情報が知られるだけである。ただ、ピアノを通して浮かび上がる中島の姿は興味深い。
中島は大学生時代に医師から「将来失明する」と告げられ、点字を読めるようにすることを勧められるのだが、視力は中島が定年退職するまではもった。だがその後、視力の低下は進み、やがて見えなくなる。
演奏される曲目は、ドビュッシーの「小さな黒人」、「旅愁」、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」より第2楽章、バイエルより、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番「月光」より第1楽章(この曲のみ記録音源)。
ラストは、10年前に中島さんが日比谷にあるスタインウェイのショールームで試し引きした「月光」ソナタ第1楽章の映像。聴覚を失ったベートーヴェンと、視力を失いつつある中島さんが一体化し、メカニックも表現も素人だが心を揺さぶる演奏となっている。
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