コンサートの記(839) ミシェル・タバシュニク指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団第577回定期演奏会
2024年4月12日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて
午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団の第577回定期演奏会を聴く。指揮はミシェル・タバシュニク。
知名度抜群という程ではないが、隠れた巨匠的存在のミシェル・タバシュニク。特に現代音楽の解釈者として高い評価を得ている。1942年、スイス・フランス語圏最大の都市であるジュネーヴの生まれ。生地の音楽院で作曲、指揮、ピアノを学ぶ。ロンドンのBBC交響楽団では当時の首席指揮者であるピエール・ブーレーズの助手を4年に渡って務め、スペイン放送交響楽団では設立当初から初代首席指揮者のイーゴリ・マルケヴィッチのアシスタントとして活躍した。ヘルベルト・フォン・カラヤンにも師事し、ベルリン・フィルの指揮台に招かれている。
ピエール・ブーレーズが創設した現代音楽専門の楽団であるアンサンブル・アンテルコンタンポラン、ポルトガル・リスボンのグルベンキアン管弦楽団、フランスのロレーヌ国立フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督を歴任し、2008年よりブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者&芸術監督を務め、2015年からは名誉指揮者。ノールト・ネーデルラント交響楽団では首席指揮者を経て、こちらも名誉指揮者の称号を得ている。
現代音楽、特にクセナキス作品の指揮で高い評価を得ているが、自身も作曲家として活動しており、2016年にリヨン国立歌劇場からの委嘱作品であるオペラ「ベンジャミン、ラスト・ナイト」を初演したほか、ヴァイオリンやチェロのための協奏曲なども発表している。トロント大学音楽学部やデンマーク王立音楽院の教授として、またユースオーケストラの創設者として後進の育成に当たったこともある。
曲目は、モーツァルトの交響曲第36番「リンツ」、ベルクの管弦楽のための三つの小品、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」
今日のコンサートマスターは須山暢大。ドイツ式の現代配置での演奏である。
モーツァルトの交響曲第36番「リンツ」。モーツァルトがわずか4日間で書き上げたという伝説で知られる曲である。
非常に見通しが良く、爽やかなモーツァルトだ。バロックティンパニを用いているが、ラストを除いては柔らかめの音で通し、最後の最後で音を固くして効果を上げていた。
どちらかというと弦楽主体のスタイルで、音の抜けが良く、テンポも適切。春の宵に相応しいモーツァルトとなった。
ベルクの管弦楽のための三つの小品。ベルク最初の管弦楽曲であるが、同時期に書かれた傑作歌劇「ヴォツェック」を連想させるような響きがある。
新ウィーン学派の中では比較的分かりやすい音楽を書いたアルバン・ベルク。ただ、管弦楽のための三つの小品は、シェーンベルクからの影響も濃厚である。夜の雰囲気が漂うような第1楽章「前奏曲」だが、第2楽章「輪舞」を経て、第3楽章「行進曲」に至ると、豪快にして巨大な音楽となる。100名を超える大編成による演奏だが、広大なフェスティバルホールの空間を揺るがすような大音響が生まれる。第3楽章「行進曲」は、マーラーの交響曲第6番「悲劇的」と関連のある音楽のようだが、「悲劇的」同様、ハンマーが打楽器の一つとして用いられており、最後もハンマーの一撃で終わる。
リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」。特に有名な序奏で印象的なオルガンが入る曲だが、フェスティバルホールにはパイプオルガンがないので、電子オルガンが用いられる(演奏:片桐聖子)。
絢爛豪華なオーケストレーションを得意としたリヒャルト・シュトラウス。そのため演奏によってはコッテリした厚化粧風になることもあるのだが、タバシュニクの生む響きはすっきりしていて各楽器の分離も良く、ケバケバしさを感じさせない。
名画「2001年宇宙の旅」で用いられた序奏ばかりが有名な曲だが、実際には内容は多彩で、室内楽風になるところもあれば、謎めいた響き、甘美な調べで魅せる場面もあるなど、聴き所の多い作品である。
コンサートマスターによる長めのソロがあるのだが、須山は甘い響きで華麗な演奏を行う。チェロの独奏は近藤浩志が堅実な腕を見せていた。
管楽器も威力があり、輝きにも欠けていなかった。
リヒャルト・シュトラウスは、今年が生誕160年ということで、日本全国で様々な企画が行われるようである。
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