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2024年5月 3日 (金)

これまでに観た映画より(331) 東宝映画「春の饗宴」(1947)

2024年4月25日

1947年制作の東宝映画「春の饗宴」を観る。脚本・製作・演出(監督):山本嘉次郎。出演:池部良、若山セツコ、藤原釜足、轟夕起子、笠置シズ子(笠置シヅ子。流行歌手時の芸名が笠置シズ子、女優専念以降の芸名が笠置シヅ子である)、橘薫(本人役で出演)、進藤英太郎ほか。東宝舞踊団(T・D・A)のメンバーが全員出演している(大阪の舞踊団という設定なので大阪弁を話す)。作曲・音楽監督:服部良一。演奏:東宝交響楽団。演出補佐に後に「ゴジラ」シリーズを撮る本多猪四郎の名が見える。
1948年の正月映画として制作され、1947年の年末に公開されたもので、娯楽色が強い。
古い時代の映画なので、セリフが聞き取りにくいところがある。

雨の降り続ける東京。老舗劇場の東京座で、100万円当選の宝くじの抽選会が行われようとしている。東京座は、大阪の会社に身売りされるという情報があり、芸能担当の新聞記者、早坂三平(池部良)もその噂を知っている。山岡という大阪の男(進藤英太郎)が買収を進めており、劇場の内装を作り替えてダンスホールやカフェにしようと計画している。山岡はオペラ歌手の三村珠子にはレビューとオペラの常打ち小屋になると別の話をしていた。

100万円の当選者であるが現れない。実は東京座の電気係をしている神田老人(藤原釜足)の孫娘であるみよ子(若山セツコ)が当選券を手にしていたのだが、恐ろしくて名乗り出ることが出来なかったのだ。早坂は当選者について聞き込みを始める。
そんなことをよそに、大阪歌劇団による東京公演のレビューが延々と続いていくというストーリーである。

大阪のオペラの女王・三村珠子役の轟夕起子、大阪のジャズの女王・淡島蘭子役の笠置シズ子の歌唱シーンもあり、笠置シズ子は、「センチメンタル・ダイナ」や当時ラジオで大ヒット中の「東京ブギウギ」など数曲を歌っている。ソウルフルな歌声が特徴である。「東京ブギウギ」のSP盤が発売されるのは、1948年の1月ということで、この映画はそのプロモーションも兼ねていた。舞台上にいるのはほぼ全員大阪人という設定で、笠置シズ子も出身地である大阪の言葉を使っているが、ステージ上では東京の言葉も上品に操る。
ちなみに宝くじの当選番号は、番号入りの浮かび上がる風船を笠置シズ子演じる淡島蘭子がボウガンを使って矢で射るという物騒な方法が用いられているが、安全面がかなり気になる。

暴風雨となり、停電で公演は中断。都電などの交通機関も止まってしまったため、自家発電で照明が確保された劇場は終夜開放されることになり、やがてステージ上に歌手やダンサーが現れ、客席の客も促されて全員で踊ることになる。1947年ということで、まだ西洋のダンスが普及しておらず、皆踊りが盆踊りの身振りなのが時代を感じさせる。

面白いのは「雨のブルース」をダンスミュージックにしてステージ上の出演者達が皆で踊る場面があるところ。原曲のイメージをかなり変えるシーンである。


出演者のその後について記す。池部良は、「青い山脈」などに主演して天下の二枚目俳優としての地位を築き、立教大学文学部卒でシナリオも学んだ元映画監督志望という経歴を生かして随筆家としても活躍。日本映画俳優協会の初代理事長も務めている。92歳の長命であった。

宝塚歌劇団出身の轟夕起子は、「原節子似」と言われた美貌と、宝塚出身の歌唱力を生かして活躍するも、次第に体型が肥満化したため性格俳優へと移行。しかし病を得て49歳の若さで他界する。

笠置シズ子は、服部良一とのコンビで次々にブギの名曲を世に送り出し、「ブギの女王」の称号を手にするが、約10年後の1957年に体力の衰えから42歳の若さで歌手を引退。女優、笠置シヅ子として母親役などで映画やテレビ、ラジオドラマなどに出演。「家族そろって歌合戦」の審査員やカネヨ石鹸のクレンザー、カネヨンのCMなどで親しまれた。1985年に70歳で他界。

ヒロインである若山セツコは、後に若山セツ子に改名。「青い山脈」などに出演して清純派スターとして人気となり、1961年に一度女優を引退するもその後に復帰。しかし次第に精神を病むようになり、55歳で自殺して果てた。

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