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2024年5月 1日 (水)

これまでに観た映画より(330) 山田太一原作 イギリス映画「異人たち」

2024年4月22日 京都シネマにて

京都シネマで、イギリス映画「異人たち」を観る。日本を代表する脚本家で、昨年亡くなった山田太一の小説『異人たちとの夏』(1987年刊行)を原作とした作品である。第1回山本周五郎賞を受賞した『異人たちとの夏』は山田太一の小説家としての代表作と言える。

大林宣彦の監督により1988年に映画化されているが、山田太一は脚本には関わらず、市川森一に任せている。大林宣彦監督版「異人たちとの夏」(出演:風間杜夫、片岡鶴太郎、秋吉久美子、名取裕子、永島敏行ほか)は評価も高く、これが映画デビュー作となった片岡鶴太郎は、キネマ旬報賞、ブルーリボン賞、日本アカデミー賞で助演男優賞を獲得。日本アカデミー賞受賞時は男泣きした。鶴太郎が俳優として認識されるきっかけを作った作品でもある。
その他、大林宣彦監督が毎日映画コンクール監督賞、秋吉久美子が毎日映画コンクールとブルーリボン賞の助演女優賞、市川森一が日本アカデミー賞の脚本賞を受賞している。作品自体もファンタスティック映画祭審査員特別賞を受賞した。風間杜夫の代表作の一つであるとも思われるが、意外にも無冠である。風間杜夫演じる脚本家の原田はプッチーニのオペラを愛聴しているが、私がプッチーニという作曲家を知るきっかけとなったのはこの映画であった。

舞台化も何度かされており、椎名桔平の主演による2009年の公演がメジャーで、すき焼き屋のシーンでは、実際に舞台上ですき焼きを作り、芳香が客席にまで立ちこめていた。

2003年に『異人たちとの夏』の英訳版が出版され、大林宣彦監督の映画も含めて広く知られた存在になっているという。今回のイギリス制作の映画は、2003年の英訳版『異人たちとの夏』を原作に、大幅な改変を加えて映画化されたものである。大林宣彦版の映画とは趣が大きく異なり、ほとんど参考にされていないようだ。
ロンドンの高層マンションと、そこから電車で少し掛かる郊外の住宅街が主舞台となっている。
監督:アンドリュー・ヘイ。出演:アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベル、クレア・フォイほか。

ロンドンの高層マンションに住む脚本家のアダム(アンドリュー・スコット)は、スランプ気味であるようで、ダラダラとした生活を送っている。アダムが住むマンションは夜になると人気がなくなる。友達が一人もいないアダムは孤独な日々を過ごしている。ある夜、マンションの6階に住むハリー(スコット・ポール)という男が訪ねてくる。寂しいので日本産のウイスキーでも一緒にどうかと勧めるハリー。アダムはゲイであり、同じくゲイであるハリーもそれを見抜いているようだったが、アダムはハリーを室内には入れずに帰す。

12歳になる前に両親を交通事故で亡くしたアダム。ふと思い立って子ども時代を過ごした郊外の住宅街を訪れる。そこでアダムは亡くなったはずの両親と出会う。それがきっかけで、アダムは両親を題材にした脚本を書き始めることになる。
両親はアダムが物書きになったことを喜ぶが、ゲイだと告白したことに戸惑いも見せる。

アダムはハリーとの仲も深めていくが、ゲイであるために差別され、子どもの頃から、からかわれたりいじめられたりしたことが深い傷となっている。だがそのことを両親に告げることが出来なかった。再会した父親にも、自分がアダムの同級生だったらいじめに加わっていただろうと告げられる。ハリーもまた同じような境遇にあったことが察せられ、最初にアダムの部屋を訪れた時から孤独に押しつぶされそうな雰囲気を湛えていた。

「孤独」を主題にした作品に置き換えられている。原作や大林版の映画にも恐ろしく孤独な女性が登場するのだが、男女の恋愛要素も強くなっている。だが、今回のアンドリュー・ヘイ版では、二人ともゲイであるということで、濃密なラブシーンこそあるが、周囲から理解されない孤独な魂を抱えた二人の話となっている。大林版では、日本的な抒情美や東京の下町を舞台としたことから起こるノスタルジアも印象的であったが、今回の映画からはそうしたものはほとんど感じられない。また実は山田太一の原作は結構怖い話であり、大林版の映画にもそうした部分はあるのだが、そうしたものは今回の映画では省かれている。
大林宣彦作品のイギリス版を期待するとかなりの違和感を覚えるはずであり、全く別の映画として捉えた方が良いように思える。

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