これまでに観た映画より(335) 黒澤明監督作品「蜘蛛巣城」
2022年11月29日 京都シネマにて
京都シネマで、黒澤明監督作品「蜘蛛巣城」を観る。4Kリマスター版での上映だが、京都シネマは基本的に2K対応なので4Kで上映されたのかどうかは不明である。
1957年の作品ということで、制作から60年以上が経過しているが、今もなお黒澤明の代表作の一つとして名高い。シェイクスピアの「マクベス」の翻案であり、舞台が戦国時代の日本に置き換えられた他は、基本的に原作にストーリーに忠実である。ただ、有名シーンを含め、黒澤明の発想力が存分に発揮された作品となっている。
脚本:小國英雄、菊島隆三、橋本忍、黒澤明。出演:三船敏郎、山田五十鈴、千秋実、志村喬、佐々木孝丸、浪花千栄子ほか。音楽:佐藤勝。
マクベスは三人の魔女にたぶらかされて主君を殺害するが、「蜘蛛巣城」の主人公である鷲津武時(三船敏郎)は、物の怪の老女(浪花千栄子)の発言と妻の浅茅(山田五十鈴)の煽動により、主君で蜘蛛巣城主である都築国春(佐々木孝丸)を暗殺することになる。
魔女や物の怪が唆したからマクベスや鷲津は主君を討つことにしたのか、あるいは唆す者の登場も含めて運命であり、人間は運命の前に無力なのか。これは卵が先か鶏が先かの思考に陥りそうになるが、いずれにせよ人間は弱く、その意思は脆弱だということに間違いはない。人一人の存在など、当の本人が思っているほどには強くも重くもないのだ。
冒頭、土煙の中「蜘蛛巣城趾」の碑が立っているのが見え、栄華を誇ったと思われる蜘蛛巣城が今は碑だけの廃墟になっていることが示されるのだが、そうした砂塵が晴れると蜘蛛巣城の城門や櫓などが見え、時代が一気に遡ったことが分かる。
ラストも蜘蛛巣城が砂埃に包まれて消え、「蜘蛛巣城趾」の碑が現れる。「遠い昔あるところに」といった「スター・ウォーズ」の冒頭のような文章や「兵どもが夢の跡」といった語りが入りそうなところを映像のみで示しており、ここに黒澤明の優れた着想力が示されている。
鷲津が弓矢で射られるシーンは、成城大学弓道部の協力を得て本物の矢が射られている。メイキングの写真を見たことがあるが、思ったよりも三船の体に近いところを射ており、黒澤の大胆さを窺うことが出来る。
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