コンサートの記(850) ヤン・ヴィレム・デ・フリーント指揮京都市交響楽団第689回定期演奏会 フライデー・ナイト・スペシャル デ・フリーント京都市交響楽団首席客演指揮者就任披露演奏会
2024年5月24日 京都コンサートホールにて
午後7時30分から、京都コンサートホールで、京都市交響楽団の第689回定期演奏会フライデー・ナイト・スペシャルに接する。今年の4月から京都市交響楽団の首席客演指揮者に就任したオランダ出身のヤン・ヴィレム・デ・フリーントの就任披露演奏会である。
休憩なし上演時間約1時間のフライデー・ナイト・スペシャルは、いつもなら翌土曜日のマチネーの短縮版である場合が多いのだが、今回はフライデー・ナイト・スペシャルと土曜日の公演は全くの別曲目であり、2日続けてデ・フリーントのお披露目コンサートとなっている。
今日はオール・モーツァルト・プログラムで、ピアノと管楽器のための五重奏曲 K.452(ピアノ独奏:デヤン・ラツィック)、セレナード ニ長調 K.239「セレナータ・ノットゥルナ」、セレナード ト長調 K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の3曲が取り上げられる。
ちなみに明日はラツィックのピアノ独奏によるベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番とシューベルトの交響曲第1番が演奏される予定である。
ヤン・ヴィレム・デ・フリーントは、現在、ウィーン室内管弦楽団首席指揮者、シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者、グリーグの街のオーケストラとして知られるノルウェーのベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団のアーティスティック・パートナーを務める。2015年から19年までハーグ・レジデンティ管弦楽団の首席指揮者、2006年から17年までフィオン・ヘルダーラント&オーファーアイセル管弦楽団の常任指揮者、2015年から21年まで、大植英次や大野和士が音楽監督を務めたことでも知られるバルセロナ交響楽団の首席客演指揮者、2008年から15年までブラバント管弦楽団の首席客演指揮者を務めている。
デ・フリーントは、コンサートマスター兼指揮者として自ら創設した18世紀音楽専門楽団、コンバッティメント・コンソート・アムステルダムの音楽監督として名を上げ、オペラの分野でも欧米で活躍。古楽中心ながら、モンテヴェルディからヴェルディまで幅広く指揮している。オランダでは音楽番組へのテレビ出演も多く、2012年にはオランダ公共放送NPO Radio 4から賞を贈られている。
プレトーク(通訳:小松みゆき)でデ・フリーントは、「今日は夜の演奏会ということで夜の音楽を並べた」と説明する。セレナードは日本語で「小夜曲」と訳されるように夜の音楽だが、「セレナータ・ノットゥルナ」の「ノットゥルナ」は「夜の」という意味であり、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の「ナハトムジーク」は「夜の音楽」という意味である。
モーツァルトは、「ザルツブルクは退屈でつまらない」と書き記しているが、少しでも楽しい音楽をと書かれたのが「セレナータ・ノットゥルナ」で、客の目の前の楽団の他に、客からは見えない場所に別働隊を置き、観客に戸惑わせるように仕向けた音楽である。即興で楽しませる工夫もある。デ・フリーントは、「今日は別働隊はステージ上にいますが、いないものとして楽しんで下さい」と述べる。
ウィーンに出たモーツァルトだが、ウィーンでは夜会での音楽演奏が盛んで、ピアノと管弦楽のための五重奏もそうした夜会での演奏用に書かれたという。
モーツァルトの時代の演奏会ではよく貴族が居眠りをしていたそうだが、デ・フリーントは、今日の演奏会は眠くなるどころか、今夜眠れなくなるほどのものになるだろうと予告する。
まずは、ピアノと管楽器のための五重奏曲。この曲にはデ・フリーントは登場しない。
ピアノのデヤン・ラツィックは、クロアチアの首都ザグレブ生まれ、オーストリアのザルツブルク育ち。モーツァルティウム音楽大学でクラリネットとピアノ、作曲を学び、ハンガリーのバルトーク・フェスティバルで、ゾルターン・コチシュとイムレ・ローマンに認められたことからキャリアをスタートさせている。コンクール歴などはないようだ。作曲家としても活躍しており、2015年にシコルスキ音楽出版に所属して作品を発表、欧米で演奏されている。現在はアムステルダム在住。
編成は、ピアノ、オーボエ、ファゴット、ホルン、クラリネット。管楽器奏者達がステージ最前列に横に並び、ピアノはその後ろに設置されている。合図などは、一番下手側に座ったオーボエの髙山郁子がコンサートマスター代わりとなって送る。
ラツィックのピアノはウエットな音色が特徴。モーツァルトも良いが、ブラームスなどロマン派の楽曲が合いそうなタイプだ。
京響の管楽器奏者達も堅調で、しっかりとしたモーツァルト演奏となった。
2曲目と3曲目は弦楽オーケストラのための作品なので、管楽器奏者達はこれで出番は終わりである。
2曲目の「セレナータ・ノットゥルナ」からデ・フリーント登場。指揮台を使わずステージ上に直接立ってノンタクトで指揮する。
オーケストラはヴァイオリン両翼の古典配置だが、ステージ最後部に別働隊が横一列に並ぶ。下手側からティンパニ(打楽器首席)の中山航介、コンサートマスターの泉原隆志、第2ヴァイオリン首席の安井優子、コントラバス首席の黒川冬貴、ヴィオラ首席の小峰航一。ソロがあるため、オーケストラ本体よりも別働隊の方が重要である。
モダン楽器にピリオド奏法を用いて演奏するコンバッティメント・コンソート・アムステルダムの指揮者だけに当然ながらピリオドを援用。強弱のはっきりした付け方や、木のバチを使ったバロックティンパニの強打などが目立つが、ピリオドとしては自然体に近い演奏である。
別働隊の奏者達には見せ場が用意されており、特にソロは即興で演奏するようで、コントラバスの黒川冬貴は、マーラーの交響曲第1番「巨人」第3楽章冒頭でコントラバスがソロで演奏する民謡(長調にしたものが日本では「グーチョキパーの歌」として知られる)を奏で、ティンパニの中山航介は、ラヴェルの「ボレロ」のリズム(元々のボレロのリズムとは異なる)を叩いていた。
デ・フリーントは、別働隊のみが演奏するときは指揮をせず、奏者達に任せる。ラストで奏者達に即興を求める振りをして、小峰航一が、「いや、もうネタがない」と手を振り、締めの合奏へと入る流れでは客席から笑いが起こっていた。一種の冗談音楽で、モーツァルトの筋書き通りだと思われる。ティンパニの中山航介の出番はここで終わる。
セレナード「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。モーツァルトの作品の中でも最も知名度の高いものの一つで、ベストセラー小説のタイトルにもなるほどだが、演奏会で取り上げられることは少ない。室内楽編成版でなら聴いたことがあるかも知れないが、少なくともフル編成のプロオーケストラの定期演奏会で全曲が取り上げられたのは、アンドレ・プレヴィン指揮NHK交響楽団の定期演奏会しかすぐには頭に浮かばない。90年代のことだ。
「セレナータ・ノットゥルナ」では別働隊として舞台後方にいた首席奏者達も本来の場所に戻って演奏する。
強弱の細かな付け方や透明な音色の生かし方などが絶妙で、典雅ながらフレッシュな味わいがある。ヴァイオリン両翼配置であるため、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの音の受け渡しが視覚でも確認出来るのも新鮮だ。
1956年の結成直後に「モーツァルトの京響」と呼ばれて称えられた京都市交響楽団。その伝統は今も生きている。
第4楽章は、今は亡き斎藤晴彦がクラシック音楽に歌詞を付けて歌う芸のレパートリーとしていたものである。ふと思い出して懐かしくなった。
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