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2024年6月12日 (水)

コンサートの記(849) 〈RMF&山田和樹 グローバル プロジェクト〉 山田和樹指揮モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団来日演奏会2024京都

2024年5月31日 左京区岡崎のロームシアター京都メインホールにて

午後6時30分から、左京区岡崎のロームシアター京都メインホールで、〈RMF&山田和樹 グローバル プロジェクト〉モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団来日演奏会に接する。指揮は、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督の山田和樹。

モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団の来日演奏会は、2016年に大阪のフェスティバルホールで西本智実指揮のものを聴いているが、ホールが異なるということもあってか、当時の印象とは大きく異なる。

「クール・ビューティー」こと女優のグレース・ケリーが、グレース王妃となったことでも知られるモナコ公国のモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団。2016年から山田和樹が芸術監督兼音楽監督を務めている。
モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団は、旧モンテカルロ国立オペラ管弦楽団(モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団)で、スヴャトスラフ・リヒテルのピアノ、ロヴロ・フォン・マタチッチの指揮で録音したグリーグとシューマンのピアノ協奏曲の伴奏を務めていることで知られている。それ以外には知られていないともいえる。元々は新外国人管弦楽団の名で1856年に結成された歴史あるオーケストラで、1980年にモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団に改称したが、今もオペラやバレエの演奏は続けている。多くの作曲家が初演をモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団に託しており、特に隣国のイタリアとフランスの作曲家に好まれている。
録音は余りしてこなかったモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団であるが、2010年に自主レーベル「OPMCクラシックス」レーベルを立ち上げ、山田和樹ともサン=サーンスの歌劇「デジェニール」を録音、リリースしている。


オール・フレンチ・プログラムで、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調(ピアノ独奏:藤田真央)、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」(オルガン独奏:室住素子)の3曲が演奏される。

ロームシアター京都メインホールでは、サンクトペテルブルク・マリインスキー劇場によるチャイコフスキーの歌劇「エフゲニー・オネーギン」(指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ)や、キエフ・バレエ(ウクライナ国立バレエ)の「白鳥の湖」、中国・南京の江蘇省演芸集団有限公司による歌劇「鑑真東渡」などの引っ越し公演が行われているが、海外のコンサートオーケストラが演奏会を行うのはこれが初めてであると思われる。京都には北山にクラシック音楽専用の京都コンサートホールがあり、海外のオーケストラが京都公演を行う場合は、京都コンサートホールの大ホールを使うのが通例であったが、ここに来て初めてロームシアター京都メインホールが使われることになった。なお、山田和樹は来年ももう一つの手兵であるバーミンガム市交響楽団を率いてロームシアター京都メインホールで公演を行うことがすでに決まっている。
キャパ自体はロームシアター京都メインホールが2000弱、京都コンサートホールが1800と、ロームシアター京都メインホールの方が大きいが、ロームシアター京都メインホールは音響がオペラ、バレエ、ポピュラー音楽向けの多目的ホールであり、オーケストラコンサートには必ずしも適した会場ではない。だが、京都市交響楽団も「オーケストラ・ディスカバリー」シリーズの会場をロームシアター京都メインホールに変更し、NHK交響楽団の京都公演会場もロームシアター京都メインホールに変わるなど、徐々にシフトが行われていくのかも知れない。京都コンサートホールがそろそろメンテナンスの時期ということもあるだろう。


日本の若手音楽家の中でもリーダー的存在である山田和樹。往年の名指揮者、山田一雄(山田和雄)に名前が似ているが、血縁関係は一切ない。1979年、神奈川県秦野市生まれ。前身が旧制神奈川県立横浜第一中学校である名門・神奈川県立横浜希望ヶ丘高校を経て、東京藝術大学指揮科に入学。松尾葉子と小林研一郎に師事。藝大在学中に有志とTOMATOフィルハーモニー管弦楽団(現・横浜シンフォニエッタ)を結成し、ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝という経歴から、「リアル千秋真一」と呼ばれたこともある。NHK交響楽団の副指揮者を経て、2012年から18年までスイス・ロマンド管弦楽団の首席客演指揮者、2016年からモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督兼音楽監督、2023年からバーミンガム市交響楽団の首席指揮者兼ミュージックアドバイザーとなり、今年の5月から音楽監督に昇格。日本では日本フィルハーモニー交響楽団の正指揮者や読売日本交響楽団の首席客演指揮者を務めたことがある。2026年には池袋にある東京芸術劇場の芸術監督(音楽部門)に就任する予定である。

コロナの最中にはZoomなどを利用し、作曲家の藤倉大、指揮者の沖澤のどか、ピアニストの河村尚子や萩原麻未などとのWeb対談を積極的に行っている。
「リアル千秋真一」というと、何においても完璧というイメージだが、藤倉大との対談では、「運動音痴自慢大会(?)」を行っており、「スイミングスクールに通ったのに泳げるようにならなかった」という自虐エピソードを語っていたりする。
オーケストラとの共演の他に東京混声合唱団の音楽監督兼理事長としても活動しており、武満徹の合唱曲集などを録音。また東京オリンピックのために全参加国の国歌のレコーディング(「アンセム・プロジェクト」)なども行った。
関西では、読売日本交響楽団の大阪定期演奏会でフェスティバルホールの指揮台に何度か立っている他、大阪の4つのプロオーケストラを振り分けたシューベルト交響曲全曲演奏会などを行っている。ただ京都市交響楽団に客演したことはまだ一度もない。京都で指揮するのも今日が初めてのはずである。


午後6時15分頃に山田和樹がステージ上に登場し、プレトークを行う。「兵庫で始まったこのツアー、東京での公演を経まして、昨日は……、あれ、昨日どこ行きましたっけ? どこ行きましたっけ? (袖に)どこ行きました? 愛知! 愛知ね! 昨日のこと忘れちゃいけない。どこいるんだか分からなくなっている。そして今日は京都」。今回のツアー公演は、「ROME MUSIC FOUNDATIONと山田和樹の合同グローバルプロジェクト」であり、ローム ミュージック ファンデーションの奨学生の中から選ばれた音楽家が、現地リハーサルを含めてモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団の一員として参加するという教育的内容を含んだものになっている。ということで選ばれたメンバーがステージ上に呼ばれ、自己紹介を行った。
最後に山田は、ソリストの藤田真央について、「私の息子と呼ばれている。顔が似てるのか雰囲気が似てるのか」と紹介する。年齢は丁度20歳違いであるが、藤田は山田のことを「パパ」と呼んでおり、特別に親しい関係にある。


ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」。ドイツ式の現代配置での演奏である。
冒頭のフルートに若干の伸び縮みを付けるなど、個性的な演奏である。ただロームシアター京都メインホールはオペラ向きの音響であるため、弦楽器などは輪郭がはっきりしすぎていて、ドビュッシーならではのたゆたうような響きは生まれにくく、ドビュッシー作品には向いていないようである。
西本智実の指揮で聴いた時はシックな印象を受けたモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団であるが、南仏に近いということもあって、今回は音の濃さが目立つ。原色系の色彩感で、日本のオーケストラからは絶対に生まれない音だ。


ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調。人気ピアニストの藤田真央がソリストを務める。
この間も「題名のない音楽会」で2週続けての特集が組まれた藤田真央。天衣無縫のピアノを奏でる天才肌のピアニストだが、いくぶん風変わりなところがある。最近はエッセイ集なども出して好評を博している。
ラヴェルの音楽はドビュッシーと違ってクッキリしたものであるため、モンテカルロ・フィルの良さが生きている。音色が単に美しいだけではなく、往年のフランスの名楽団の響きのような人間くささも感じられる。
藤田のピアノは、第1楽章では音の移り変わりや明滅を巧みに表現し、ラヴェルがなぜ「印象派」に含まれるのかが分かるような音楽として奏でる。
ロマンティックな第2楽章は、一転して楷書風。藤田ならロマンティシズムを思い切り前に出すかと思われたが、楷書で演奏することで曲自体に語らせるという手法を取ったようだ。第2楽章は確かに甘く美しいが、一歩間違えると劇伴のようになってしまう怖れもあるため、これはこれで見事な解決である。
第3楽章の透明感ある音による演奏も活気とモダンな詩情に溢れており、20世紀的なエスプリを表出してみせた。

アンコール演奏は1曲。グリーグの抒情小品集第3集から「愛の歌」。瑞々しい出来であった。


サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」。山田は来年の6月にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会の指揮台に立つことが決まっているが、メインはこのサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」になる予定である。ロームシアター京都にはパイプオルガンは設置されていないので、室住素子は電子オルガンを演奏する。
各楽器の音色の濃厚さが生き、パリというよりもスペインの音楽のように聞こえるのが面白い。山田は、音のグラデーションを丁寧に重ね、神秘感や洗練された曲調などを的確に表現していく。室住のオルガンも力強い。
ニュアンス豊かな一方で、音楽としての全体のフォルムは崩れがちで、ちょっとアンバランスな印象を受けたのも確かである。ホールの音響も影響しているだろう。
なお、Maki Miura Belkinと共にピアノ連弾で参加した榊真由(さかき・まゆ)は、本来は指揮者だが、RMFのアシスタントコンダクターには京都私立ナンバーワン進学校の洛星高校出身で、広上の弟子である岡本陸が選ばれたため、特別にピアノで参加することになったという。
造形美よりもオーケストラの特性を生かした個性的な音楽作りが印象的なサン=サーンスであった。オーケストラが変わるとまた別の音楽が生まれることになると思われる。


アンコール演奏は2曲。まず、シュレーカーの舞踏劇「ロココ」より第3番“マドリカル”。歌劇などを多く作曲しているシュレーカーの作品だけに、オペラを得意とするモンテカルロ・フィルは活き活きとした演奏を展開する。

2曲目は、ビゼーの「アルルの女」より“ファランドール”。南仏を舞台とした音楽だけにモンテカルロ・フィルの個性に合っている。洗練されたフランス北部のオーケストラとは違った意図的な土俗性の表出が面白いが、プロヴァンス太鼓奏者を舞台上ではなく、1階客席通路に配し、歩きながら叩かせたのが効果的で、客席から手拍子が起こる。山田も手拍子をリードし、音楽的な楽しさと一体感に満たされた時間が過ぎていった。

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