コンサートの記(847) 尾高忠明指揮大阪フィルハーモニー交響楽団第578回定期演奏会
2024年5月17日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて
午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団の第578回定期演奏会を聴く。今日の指揮は、大フィル音楽監督の尾高忠明。
曲目は、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調(ピアノ独奏:アンヌ・ケフェレック)、シベリウスの組曲「レンミンカイネン」
今日のコンサートマスターは崔洙珠。ドイツ式の現代配置での演奏である。
モーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調。モーツァルトが書いた多くのピアノ協奏曲の中でたった2曲の短調による作品の1曲で、デモーニッシュとも呼ばれる響きや、第2楽章の典雅さなどが有名である。
フランスの女流ピアニストを代表する存在であるアンヌ・ケフェレック。親日家であり、来日も多い。フランス発の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」の日本公演に何度も参加しており、以前はびわ湖ホールで行われていた「ラ・フォル・ジュルネびわ湖」(その後、独立して「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭」を経て「びわ湖の春 音楽祭」となる)にも2016年に出演しており、中ホールで、ドビュッシー、ケクラン、ラヴェルといったお国ものとリスト作品を弾いている。
パリ生まれ。パリ国立高等音楽院(コンセルヴァトワール・ドゥ・パリ)ピアノ科を首席で卒業。パウル・バドゥラ=スコダ、イェルク・デームス、アルフレッド・ブレンデルといった名ピアニストに師事。1968年のミュンヘン国際音楽コンクール・ピアノ武門で優勝。翌年にはリーズ国際ピアノコンクールで入賞している。
1990年にはヴィクトワール・ドゥ・ラ・ムジークの年間最優秀演奏家賞を受賞。最新録音は今日演奏するモーツァルトのピアノ協奏曲第20番と第27番で、伴奏は京都市交響楽団への客演でお馴染みのリオ・クオクマン指揮するパリ室内管弦楽団が務めている。
なお、名画「アマデウス」のサウンドトラックでは、音楽監督を務めたサー・ネヴィル・マリナー指揮するアカデミー室内管弦楽団と共にピアノ協奏曲の演奏を手掛けており、ラストで流れるピアノ協奏曲第20番第2楽章のピアノもケフェレックの演奏だと思われる。
大フィルは第1ヴァイオリン10型の小さめの編成での演奏。フェスティバルホールは空間が大きいが、音の通りに不満はない。尾高の指揮による伴奏は端正だが、その一方で、闇、痛み、孤独、焦燥、毒といったものに欠けた印象があり、綺麗に過ぎるのが物足りない。その分、第2楽章は端麗そのものだった。解釈云々の問題ではなく尾高の音楽性に寄るところが大きいのだろう。
ケフェレックのピアノは尾高とは対照的に内容重視。まろやかな音の背後に痛切な寂寥感が湛えられており、モーツァルトの声に出せない叫びのようなものを感じる。第2楽章も単に美しいだけでなく、歯を見せてにっこりしてはいるが寂しげな表情が見えるかのよう。第3楽章の切迫感も胸に迫るものがある。
音楽性に隔たりが感じられ、ケフェレックと尾高の相性は余り良くないように思われた。
ケフェレックのアンコール演奏は、ヘンデル作曲、ヴィルヘルム・ケンプ編曲の「メヌエット ト短調」。たおやかで煌びやかで寂寞感に溢れた音楽が流れていく。
シベリウスの組曲「レンミンカイネン」。フィンランドの長編叙事詩『カレワラ』に登場する女好きの英雄、レンミンカイネンを題材にした交響詩をまとめたものである。元々はレンミンカイネンを主人公にした「船の建造」というオペラを構想していたシベリウスだが、筆は進まず、結局、オペラの作曲を断念。オペラのための素材をレンミンカイネンを題材にした交響詩へと転用したようだ。オペラのイメージが薄いシベリウスだが、「塔の乙女」というスウェーデン語の短いオペラを1曲だけ完成させており、面白いことにこれまたオペラのイメージが薄いパーヴォ・ヤルヴィが指揮して録音を行っている。
組曲「レンミンカイネン」であるが、最初から組曲として書かれた訳ではなく、4つのバラバラの交響詩として作曲され、後に改定を経て組曲としてまとめられた。
シベリウスを十八番としている尾高忠明。BBCウェールズ交響楽団の首席指揮者をしていた時代に英国で人気のシベリウスを多く指揮する機会があり、日本でもシベリウスは人気ということで、札幌交響楽団の音楽監督時代には、札幌と東京でそれぞれシベリウス交響曲チクルスを行っており、ライブ録音による「シベリウス交響曲全集」も完成させていて評価も高い。
余談であるが、高校の後輩である広上淳一が一時期、尾高の影響でシベリウス作品に熱心に取り組んでいたが、最近はたまにしか指揮していないようである。
尾高は、今から31年前の1993年に大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で組曲「レンミンカイネン」を取り上げたことがあるそうで、大阪フィルハーモニー交響楽団事務局長の福山修氏が行っているプレトークサロンによると、「31年前より大分上手くなった」と尾高は語っていたそうだが、「まだ分からない奴がいる」ということで、手厳しく指示するバチバチのリハーサルとなったそうで、尾高は「今日で大分嫌われちゃったかなあ」と話していたそうである。
大阪フィルでシベリウス交響曲チクルスを行うという話も尾高の音楽監督就任時から出ているそうだが、「集客の問題」で実現していないそうだ。関西にはもう一人、藤岡幸夫という渡邉暁雄直系のシベリウスのスペシャリストがおり、藤岡は関西フィルハーモニー管弦楽団を指揮して1年1曲7年掛けるシベリウス交響曲チクルスを完成させていて、ライブ録音による「シベリウス交響曲全集」もリリース。大阪のシベリウス好きも満足したはずである。日本で人気のシベリウスとはいえドイツ系の作曲家の人気とは比べものにならず、関西フィルが手掛けた後で大フィルがやっても大阪の聴衆がついてきてくれるかということだろう。実際、今日も空席は目立つ。
組曲「レンミンカイネン」であるが、「レンミンカイネンと島の娘たち」「トゥオネラの白鳥」「トゥオネラのレンミンカイネン」「レンミンカイネンの帰郷」の4曲からなる。
この中では、「トゥオネラの白鳥」が飛び抜けて有名で、単独で演奏会のプログラムに載ったり、録音されていたりする。イングリッシュ・ホルンの活躍が印象的な曲である。
「レンミンカイネンと島の娘たち」。大フィルの弦には神秘性と透明感と深遠さが宿り、空から降ってくるような管の抜けも良く、時折、大地が鳴動するような音がする。娘たちとの舞曲だけに華やかでリズミカル。愉悦感にも富む。
「トゥオネラの白鳥」。黄泉の国トゥオネラの川に浮かぶ白鳥を描いた作品である。黄泉の国が題材だけにこの世ならぬ響きが特徴。大フィルの音の瑞々しさが印象的である。イングリッシュ・ホルンのソロを吹く大島弥州夫(宮本文昭が出演したJTのCMを見てオーボイストを志したらしい)は無料パンフレットにもインタビューが載っているが、丁寧な演奏を聴かせた。
「トゥオネラのレンミンカイネン」も黄泉の国の音楽ということで霊感に満ちつつ仄暗い響きで曲は進むが、途中で明るさが増し、快活な曲調となる。尾高と大フィルの明るめの音がプラスに出ている。
「レンミンカイネンの帰郷」。管楽器が英雄的な旋律を奏で、シベリウスらしい透明感と、自然と人間の調和した響きが鳴り渡り、ドラマティックな展開を経て終わる。大フィルは響きに威力があり、尾高による音の設計と推進力も万全である。
4つの音楽からなるということで、交響曲に例える向きもあるかも知れないが、やはりこれは交響詩の連作という印象を受ける。深遠さや雄大さ、叙情味など共通点を持ちつつ曲の方向性と性格が異なるためで、4つの曲を通して楽しむというよりも別個の個性を楽しんだ方が楽曲の本質に近づけるように思われる。
尾高とシベリウスの相性の良さを再確認した演奏会であった。
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