観劇感想精選(463) 第73回京都薪能 「光源氏の夢」初日
2024年6月1日 左京区岡崎の平安神宮境内特設会場にて
左京区岡崎の平安神宮で行われる第73回京都薪能。午後6時開演である。今回は「光源氏の夢」というタイトルが付いている。演目は、「半蔀(はじとみ)」(観世流)、「葵上」(金剛流)、狂言「おばんと光君(ひかるきみ)」(大蔵流)、「土蜘蛛」(観世流)。
思ったよりも人が多く、最初は立ち見。その後、補助席が設けられた。どうやら京都市京セラ美術館から椅子を借りてきたようである。
まずナビ狂言として、茂山千五郎家の茂山茂(しげやま・しげる)と井口竜也が登場。京都薪能があるので急いでいるという設定で、茂山茂が、「西宮神社の福男」に例えて一番乗りを目指すのが京都薪能の見方だと語る。ちなみに今年から指定席も設けられたことも紹介される(ただし高い)。井口竜也から今年の京都薪能の演目を聞かれた茂山茂は、「今年はNHK大河ドラマが『光る君へ』ゆえ、『源氏物語』にちなんだ演目が揃っておりまする」
井口「それは、『ちなんだ』というよりも、『便乗商ほ……』」
茂山「シーッ!」
確かに例年より客が多いような気がする。「光る君へ」は低視聴率が続いているが、なんだかんだでテレビの影響力は大きい。
井口「それがし、能についてはようわからんのだが」
茂山「そういう方のために、パンフレットを販売しております。あとイヤホンガイドも貸し出してございます」
井口と茂山は、その後、「半蔀」の紹介(そもそも半蔀とは何かから説明する)などを行う。
能「半蔀」。『源氏物語』の中でもホライックな場面として教科書などでもお馴染みの「夕顔」を題材にした演目である。シテの夕顔の亡霊を演じる松井美樹さんとは知り合いなのだが、長いこと顔を合わせていない。
北山の雲林院(今も大徳寺の塔頭として規模と宗派は異なるが同じ名前の後継寺院がある)の僧が花供養をしていると、女がやって来て夕顔の花を捧げる。女は「五条あたりにいた者」と名乗る。
僧が五条の夕顔の咲いた茅屋を訪ねると、半蔀を開けて夕顔の亡霊が現れる(そもそも光源氏は半蔀を開けていた夕顔を見初めたのである)。夕顔は夕顔の花にまつわる光源氏との思い出を語る。
「半蔀」の上演後、平安神宮の本殿から神官によって火が運ばれ、薪に移す火入式が行われる。傍らでは消防の方々が見守る。
その後、松井孝治京都市長による挨拶がある。松井市長は「文化首都・京都」を掲げて当選。古典芸能を愛するほか、自称「クラオタ(クラシックオタク)」で、X(旧Twitter)などを見ると沖澤のどかの追っかけをしていたりするのが確認出来る。そんな市長なので、文化芸能について語るのかと思いきや、それを後回しにして、「まずお詫びがございます」と始める。立ち見の方が出てしまったことや今も立ち見状態の方へのお詫びだった。座席数よりかなり多くのチケットを売ってしまった訳で、やはりこれは計算ミスだったであろう。
再びナビ狂言の茂山茂と井口竜也が登場し、「葵上」について語る。
井口「しかし肝心の葵上の名前がないが、これはミスプリか?」
茂山「いえいえ」
葵上は病気になって寝ているという設定で、着物(小袖)を敷いて葵上に見立てる。茂山茂が着物を敷いた。
能「葵上」。今でいうメンヘラの六条御息所が生き霊となって葵上に祟るという内容である。
葵上が病で伏せっている(着物しかないが寝ているという設定)。そこへ照日巫女が連れてこられ、梓弓の呪法を行う。夕顔の名も登場する。破れ車に乗った六条御息所の怨霊が現れ、愚痴りまくった上で、恨み(賀茂の祭りこと葵祭での車争いの恨みとされる)を晴らそうとする。結構激しいシーンとなる。
比叡山の横川の小聖が呼ばれることになる。横川まではかなり遠いはずだが、物語の展開上、早く着く。横川の小聖は延暦寺ではなく修験道の行者である。小聖は苦戦の末、六条御息所の霊をなんとか調伏する。
狂言「おばんと光君」。光源氏が出てくる狂言の演目は古典にはないそうで、そこで明治以降に書かれた現代狂言の中から、光源氏ならぬほたる源氏(茂山逸平)、頭中将ならぬとうふの中将(茂山忠三郎)、惟光ならぬあれ光(鈴木実)とそれ光(山下守之)などが登場するパロディが上演される。パロディということで、表現も思いっきり砕けており、「熟女」という比較的新しい言葉が使われたり、「スキャンダル」という英語が用いられたり、「文春砲」という芸能用語が飛び出したりする。
ほたる源氏も光源氏同様にモテモテで、声を掛ければどんな女でもなびくので面白くなくなり、これまで抱いたことのない熟女にチャレンジしようと決めたことから起こるドタバタ劇で、途中、歌舞伎の「だんまり」に似た場面もある。
能「土蜘蛛」。京都では壬生狂言でも人気の演目である。ちなみに「土蜘蛛」は明日も金剛流のものが上演されるので、明日も観る予定がある場合は、ここで席を立つ人も多かった。
源頼光が主人公であるが、四天王は登場しない。その代わり、独武者という頼光の従者が登場する(四天王の誰かに当たるのかも知れないが、名前がないので分からない)。
頼光が病気で伏せっていると、僧侶が現れる。僧侶の正体は葛城山の土蜘蛛で、頼光に蜘蛛の糸を投げつける。
土蜘蛛と独武者との大立ち回りが見物の演目である。
土蜘蛛の正体は、大和葛城郡を根拠地とし、渡来人を多く抱えていた有力豪族の葛城氏であるとされる。葛城氏はその後に滅ぼされることになるが、土蜘蛛伝説となって後世に存在を残すこととなった。
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