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2024年7月28日 (日)

京都芸術劇場春秋座 「立川志の輔独演会」2024 「試し酒」&「文七元結」

2024年5月19日 京都芸術劇場春秋座にて

午後1時から、京都芸術劇場春秋座で、「立川志の輔独演会」に接する。春秋座での志の輔の独演会は、今年で16年目となる。

今回も満員の盛況で、今日は上手側サイドの補助席で観た。

まず、志の輔の七番弟子である立川志の麿による「初天神」が打たれる。
父親が天神詣でに向かうが、女房から息子も連れて行って欲しいとせがまれる。「あれが欲しい、これが欲しいとせがむから駄目だ」と父親は言うが、結局は共に初天神に向かうことになる。息子が、「あれが欲しい、これが欲しいと言わなかったから褒美に飴買って頂戴」と言い、父親は飴屋で飴を探すのだが、一つ取り上げては息子に「違う」と言われて戻し、指を舐めて、その手で次の飴を取り上げるを繰り返したため、飴屋の主に注意される。
続いては団子屋。「あんこと蜜どちらがいいか」と聞かれた息子は蜜を選ぶが、父親は蜜を付けた団子の蜜を全て舐めて壺に入った蜜に再び浸ける。息子もそれを真似て同じことをするという内容である。

続いて、志の輔の六番弟子である志の太郎による「釜泥」。「釜泥棒」の略である。
泥棒達の間で石川五右衛門は尊敬されているのだが、「天下の大泥棒、石川五右衛門」ではなく、「釜ゆでの刑にされた石川五右衛門」として広まってしまっている。そこで江戸中の釜を盗んで釜ゆでを連想出来ないようにして五右衛門の名誉を回復しようということになり、江戸の泥棒達が総出で釜を盗むようになる。まず釜飯屋が狙われ、釜飯が作れなくなった釜飯屋は路地裏に下がって飯屋をやるようになる。「これがうらめしや(恨めしや)」
そば屋や豆腐屋といった釜を使う店も狙われた。豆腐屋の会合に出てきた豆腐屋の爺さんは、「釜の中に入って、釜泥棒が釜を盗みに来たら中から飛び出して、『石川や浜の真砂は尽きぬとも我泣きぬれて蟹とたわむる』と叫んで飛び出せば(豆腐屋の婆さんに石川が違う〈石川啄木のこと〉と言われる)、泥棒達も『五右衛門の幽霊が出た!』と逃げ出すに違いない」と考え実行する。
さてその夜、豆腐屋の爺さんが釜の中に入っていると、二人組の泥棒が釜を盗みに来る。釜を縛り、天秤棒で担ぎ上げて表に出るが、爺さんは酔っていて気がつかない。外は満天の星と月で泥棒も良い気分になるが、起きた爺さんが婆さんを呼ぶ。当然ながら返事はないが、そこで怒った爺さんが大声を上げて飛び出すと、泥棒達は「お化けだ!」と言って逃げ出す。
満天の星と月を見て爺さんは、「しまった、家を盗まれた」とつぶやくのだった。


志の輔登場。「試し酒」をやる。
「今日が3日間の公演の3日目ということで、今日のために昨日一昨日と2日間、リハーサルをして参りました」と冗談を言う。
まず枕として、京都が外国人だらけという話をする。小さな路地にも外国人は我々とは感性が違うのか入っていくが、冷静に考えると「あれ、迷ってるんじゃないか?」
桜の季節は外国人が多いので押し合いへし合い、紅葉の季節もまた押し合いへし合い、ゴールデンウィークを避ければ5月は大丈夫なんじゃないかと思ったが、それでもまだ外国人観光客が多いという。「その京都にこんなに多くの日本人がいたとは」と客席を見回して笑いを取る。京都はどこに行っても観光客が多いが、「京都にはなんでもあるが一つだけないものがある。富士山」。京都に富士山があれば外国人観光客は皆、富士山に行って他のところが空くのではないかという。
富士山観光も外国人には人気で、それも富士山のみではなく、富士山と麓のコンビニを一緒に撮るのが定番だそうである。志の輔は毎年のように東南アジアで公演を行っており、今年もベトナムのハノイで独演会を開くそうだが、ハノイのコンビニは日本のそれとは違い、「とりあえずある」という感じで、それに比べると日本のコンビニはハイクラスであり、それが外国人には珍しいらしい。コンビニ側も対策として黒い幕で店を覆ったりしているそうだ。

東山七条の京都国立博物館で、「雪舟伝説」という展覧会を観てきた志の輔であるが、「入っていきなり国宝。次も国宝、その次も国宝」と驚くが、「5点ぐらい国宝が続くと飽きる」そうである。また「雪舟伝説」は「雪舟伝説」と銘打ちながら雪舟の作品は全体の3分の1程度で、残りは雪舟に影響を受けた絵師や画家の作品。志の輔は最初気づかず、雪舟作品だと思って見ていたが、違うことに気づき、これまでの道を引き返して、最初の雪舟の作品でない絵に戻って、半ば2周することになったそうである。
そんなこんな色んなことがあっても大谷翔平がヒットを打っている姿を見ると落ち着くそうで、そこからもう一人の天才、藤井聡太の話になる。100手先が読めるということで、朝を起きてからのその日の100手を読むと、夜にベッドに入るまでが全て分かって困るということで、「(皆さん)平凡で良かったですね」と言う。藤井聡太と渡辺名人との対局で、藤井聡太は一手打つのに2時間28分掛けたという話をする。藤井聡太も渡辺名人も手を読んでいるからいいが、審判員の3人、モニターを見ている記者達などは2時間28分何も起こらないのにじっと見ていなければならない。その点、落語はずっと喋ってるので、「将棋よりは楽しい2時間28分」と語る。

「試し酒」。店の主が、近江屋の主人から酒を勧められるが、体調が万全ではないとして断る。近江屋の主人は店の表に連れてきた手代の久蔵を待たせているが、久蔵は大酒飲みで、近江屋の女房によると五升を飲み干すらしい。そこで主は、久蔵を呼び、「五升飲み干したら金子をやろう」と提案する。しかし、飲み干せなかった場合は、「箱根への温泉旅行に行かせて貰う」。勿論、旅費は近江屋の主人が出す。久蔵は、「主人に金は出させられねえ」と言って表に出て行ってしまうが、しばらくして戻ってきて、五升飲むことに挑戦する。
主の「酒よりも好きなものはあるのか?」との問いに、「金でさあ」と答える久蔵だったが、金は田畑を買ったりするのではなく、酒を買うために使うので、結局は酒が一番であることを明かしたり、「酒は体に毒というが、百薬の長だぞ」などと、あれやこれやと言いながら五升飲み干した久蔵。店の主は、何か酒が飲める薬でもあるのか、まじないでもやるのかと問うが、久蔵は、「今まで酒を五升飲んだことがないので、そこの酒屋で試しに五升飲んできた」


「文七元結(ぶんしちもっとい)」。元は落語だが、歌舞伎の演目としても有名な話である。歌舞伎版の「人情噺文七元結」は、女優が出ても構わない数少ない歌舞伎の演目で、波乃久里子や松たか子が、お久役で出演している。歌舞伎座で行われた「人情噺文七元結」の公演を観ていた脚本家の市川森一が、「やけに綺麗な女形が出ているな」と気づき、後にそれが九代目松本幸四郎(現・二代目松本白鸚)の次女である松たか子(当時16歳)だと知り、自らが脚本を手掛けた大河ドラマ「花の乱」で主人公である日野富子の少女時代役に抜擢したという話がある。
歌舞伎版の「人情噺文七元結」は、南座の耐震工事期間中にロームシアター京都メインホールで行われた顔見世の演目で観ている。中村芝翫の長兵衛で、お久を演じたのは女形の中村壱太郎であり、中村芝翫の襲名披露公演ということで途中で口上が述べられた。

まず枕。志の輔は、酒は365日飲む。入院したこともあるが、それでも隠れて飲む。強いわけではないが飲むことが好きである。今はやめたがゴルフに嵌まっていたこともあり、春秋座での独演会を終えた翌日に、狂言の茂山千五郎家の人々と一緒に滋賀県でゴルフをしたこともあるそうだ。
もう一つ嵌まっているものとして中古レコード収集があり、京都に来るたびに中古レコード店に行くのが習慣になっているという。ただ京都で一番大きい中古レコード店が宝塚市に移転してしまったため、仕方なく小さな中古レコード店を2件訪ねたのだが、いずれも品揃えが貧弱。困っていると弟子がネット検索して「髙島屋の4階にあります」と教えてくれたという。「髙島屋って、あの髙島屋? 家賃どうしてるの?」と気になったらしいが、今朝、四条河原町の京都髙島屋に行ってみたそうだ。思いのほか広いスペースを誇る中古レコード店で、東京のディスクユニオンなどとは比べものにならないが、品揃えもまずまずで、808円の中古レコードを買ったそうだ。そのレコードを東京の自宅に持って帰って棚に入れると同じレコードが12枚並ぶ。ということで同じレコードでも何枚も買っているらしい。その中には「葬儀の時に棺桶に入れて貰うために」封も切っていないレコードもあるらしい。東京では中古レコード店を巡ることはなく、自分でも不思議だったのだが、「きっと飲みに行っているからでしょうね」と結論づける。
中毒と言えば、「今は9割の人がそうなんじゃないか」というスマホ中毒が挙げられ、「スマホがないとえらいことになる。今、スマホがないことに気づいた人は落語聞いてる場合じゃない、探さないと」
「でも大谷翔平も野球中毒でしょう。彼に『半年間バットを持たないでくれ』と言ったら気が狂うと思う。藤井聡太も将棋中毒でしょう」

左官頭の長兵衛は、腕は良いが博打好きで、多額の借金をこさえており、それでも懲りずに博打に出掛けて身ぐるみ剥がれて帰ってきた。家は真っ暗。女房によると油を買う金もないという。女房は娘のお久が出て行ったことを長兵衛に告げる。吉原の大店、佐野槌(さのづち)に買って貰い、親の借金を返そうとしていたのだ。
それを知った長兵衛は佐野槌に向かおうとするが、身ぐるみ剥がれてしまったため、半纏とふんどししか身につけておらず、このままでは吉原には行けない。そこで女房の衣装を引き剥がし、それを纏って吉原へと向かう。佐野槌に着いた長兵衛は、女将から五十両の借金をする。返済の期限は来年の大晦日。それまでに返せなかったら、お久は女郎として店に出すという。
五十両を受け取って帰路についた長兵衛だが、吾妻橋に差し掛かったところで、隅田川に身投げしようとしている青年がいることに気づく。なんとか止める長兵衛。青年は鼈甲商尾張屋に奉公している文七で、石川屋から金を受け取り、店に帰る途中、枕橋で人相の悪い男とすれ違いざまに五十両を盗まれてしまったのだという。このままでは店に帰れないと身投げをすることに決めたのだ。
何度も説得したあげく、長兵衛は虎の子の五十両を文七に譲ることにする。「吉原の大店、佐野槌にいる娘が店に出て客を取る。病気をするかも知れない。か○わになるかも知れない。が、死ぬわけじゃない。そうならないよう、観音様かお不動さんに祈っとけ」と言って長兵衛は去る。
店に帰った文七は、五十両を差し出すが、主は、文七が碁に嵌まっていることを知っており、石川屋でも店先で主人と夢中になって碁を打ち、五十両を忘れて帰って行ったと先方から使いが来て、五十両を先に受け取っていた。五十両は盗まれたのではなかったのだ。
主は、五十両をくれた男について、「商人(あきんど)には出来ないことだ」と感心。早速、五十両を渡した男の正体を探ることになる。文七は男の娘が吉原の大店にいることは覚えていたが、店の名前が思い出せない。主は吉原には詳しくなく、番頭もお堅い男だという。主は最初の一文字でも思い出せないかと、一音ずつ発するが、「さ」が出たところで、「さの」が出て、番頭が躍り上がって「佐野槌!」と言い、店の位置まで唱える。お堅いと思わせていたのは表面だけで、実際は遊んでいたらしい。
ということで、男の正体が長兵衛だと分かり、一行は日本橋達磨町の長兵衛の長屋に行く。町の者に聞くと、夫婦仲が悪く、いつも「バカヤロー!」と罵声が聞こえるのが長兵衛の長屋だという。すぐに分かった。着るもののない女房を屏風の裏に隠し、対応する長兵衛。「一度やったものは受け取れない」と突っぱねる長兵衛だったが、それを諫める声が屏風の向こうから聞こえる。「誰かいるのか?」となるが長兵衛は誤魔化す。結果的には、長兵衛は金を受け取り、お久も尾張屋の主に身請けされて戻り、文七とお久は夫婦となって元結(髷を結う紐)屋を始めたという。

志の輔の語りはしかるべき言葉がしかるべき場所に嵌まっていく見事なものである。いずれも古典落語であるが、志の輔が作った落語のように聞こえてくるのが面白く、話を完全に自分のものにしているのが分かる。


なお、志の輔の一番弟子である立川晴の輔が「笑点」の大喜利レギュラーになったそうである。「何枚座布団を貰うんでしょう。私は一枚だけ」
今度、WOWOWでPARCO劇場でやった公演が放送されるそうであるが、今はYouTubeで様々な映像が出回っており、許可を得ずに録音した落語の音声が流れているそうで、「アンケートに書いてありました。『私の前の席の人が録音してました』。その時、言えって!」。録音している人の特徴は分かっているそうで、「自分の声が入るといけないので笑わない」そうである。
2時間ほど喋ったが、藤井聡太はまだ一手も打っていないという話もする。
来年の1月にもまたPARCO劇場で1ヶ月公演をやるそうだが、「3日やるだけでも苦しいのに1ヶ月。京都で言う話ではないかも知れませんが、1ヶ月もやるんだから観に来ない理由はありませんわな」と締めていた。

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