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2024年7月 6日 (土)

観劇感想精選(464) 京都四條南座「坂東玉三郎特別公演 令和六年六月 『壇浦兜軍記』阿古屋」

2024年6月15日 京都四條南座にて

午後2時から京都四條南座で、「坂東玉三郎特別公演 令和六年六月」を観る。このところ毎年夏に南座での特別公演を行っている坂東玉三郎。今年の演目は、「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)」で、お得意の阿古屋を演じる。

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まず坂東玉三郎による口上があり、片岡千次郎による『阿古屋』解説を経て、休憩を挟んで「壇浦兜軍記 阿古屋」が演じられる。
なお今回は番付の販売はなく、薄くはあるが無料にしてはしっかりとしたパンフレットが配られる。表紙はポスターやチラシを同じもので、篠山紀信が撮影を手掛けている。

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坂東玉三郎の口上。京都に来て東山の方で何か光がすると思ったら、京都競馬場が主催する平安神宮での宝塚記念ドローンショーだったという話に始まり、南座の顔見世に初めて出演した際の話などが語られる。これは以前にも語られていたが、28歳で顔見世に初出演した玉三郎。昼の部は普通に出られたのだが、当時の顔見世の夜の部は日付が変わる直前まで行われ、押して開始が11時半を過ぎる演目があると、客の帰宅に差し支えるというので上演が見送られたのだが、玉三郎の出る演目は前の演目が押したため11時半に間に合わず、舞台を踏めなかったという話であった。
阿古屋についてはその文学性の高さに触れていた。本当は罪人の縁者なので縛られていないとおかしいのだが、そのままでは縄を解かれてもすぐには楽器が上手く演奏できないので、縄を使わなくても不自然に見えないよう書かれているという。また、阿古屋がこの後も出てくるのだが、その時の衣装の方が見栄えがいいそうで、今日演じられる場面は普段着に近いという設定なのだがそれでもよく見えるような工夫が必要となるようである。またこの場は、前後との接続が難しいことでも知られているようで、全段上演した時は苦労したという。
最後は、「南座のみならず歌舞伎座を(大阪)松竹座をよろしくお願いいたします」と言って締めていた。


片岡千次郎による『阿古屋』解説。阿古屋が出てくる「壇浦兜軍記」は、今から300年ほど前に大坂の竹本座で初演された人形浄瑠璃、その後の俗称だと文楽が元になった義太夫狂言で、源平合戦(治承・寿永の乱)が舞台となっており、悪七兵衛景清(藤原景清、伊藤景清、平景清)を主人公とした「景清もの」の一つである。「だた景清はこの場には出てきません」と千次郎。今日上演されるのは、「阿古屋琴責めの場」と呼ばれるもので、今では専らこの場のみが上演されている。片岡千次郎は今回は岩永左衛門致連(むねつら)を人形振りで演じるのだが、この人形振りや、竹田奴と呼ばれる人々が入ってくるのは文楽の名残だそうである。

「阿古屋琴責めの場」に至るまでの背景説明。壇ノ浦の戦いで平家は滅亡したが、平家方の景清はなおも生き残り、源頼朝の首を狙っている。そこで源氏方は景清の行方を捜すためあらゆる手段に出る。禁裏守護の代官に命じられた秩父庄司重忠(畠山重忠)と補佐役の岩永左衛門致連は、重忠の郎党である榛沢(はんざわ)六郎成清(なりきよ)から景清の愛人でその子を身籠もっているという五条坂の遊女・阿古屋を捕らえたとの知らせを受け、堀川御所まで連れてこさせる。そこでの詮議を描いたのが、「阿古屋琴責めの場」である。


「壇浦兜軍記 阿古屋」。阿古屋は、琴、三味線(実際は平安時代にはまだ存在しない)、胡弓(二胡ではない)の演奏を行う必要があり、しかも本職の三味線と対等に渡り合う必要があるということで、演じられる俳優は限られてくる。そのため、今では「阿古屋といえば玉三郎」となっている。
出演:坂東玉三郎(遊君 阿古屋)、片岡千次郎(岩永左衛門致連)、片岡松十郎、市川左升、中村吉兵衛、市川升三郎、中村吉二郎、市川新次、澤村伊助、中村京由、市川福五郎、中村梅大、豊崎俊輔、末廣郁哉、山本匠真、和泉大輔、坂東功一(榛沢六郎成清)、中村吉之丞(秩父庄司重忠)。人形遣い:片岡愛三郎、片岡佑次郎。後見:坂東玉雪。

秩父庄司重忠と岩永左衛門致連が待つ堀川御所に、榛沢六郎成清が阿古屋を連れてくる。阿古屋は花道を歩いて登場。捕り方に周りを囲まれているが、優雅な衣装と立ち姿で動く絵のように可憐である。赤塗りの悪役である岩永は、景清の行方を知らないという阿古屋を拷問に掛けようとするが、重忠は、責め具として、琴、三味線、胡弓の3つの楽器を持ってこさせる。
重忠は、阿古屋に楽器を奏でて唄うように命じる。阿古屋は、「蕗組みの唱歌」を琴で奏でながら唄い、景清の行方を知らないことを告げ、景清との馴れ初めも唄う。
次は三味線を弾きながら「班女」を唄う。平家滅亡後、景清とは秋が来る前に再開しようと誓い合ったが、今では行方が知れないことを嘆く。
最後は胡弓。阿古屋は景清との恋とこの世の儚さを歌い上げる。重忠は、阿古屋の奏でる楽器の音に濁りや乱れがないことから、阿古屋が景清の行方を知らないのは誠として、阿古屋の放免を決める。
名捌きの後で、登場人物達が型を決めて終わる。


音楽劇として見事な構成となっている。3つの趣の異なる弦楽器を演奏しなくてはならないので、演じる側は大変だが、役者の凄さを見る者に印象づけることのできる演目でもある。琴の雅さ、三味線の力強さ、胡弓の艶やかさが浄瑠璃や長唄、三味線と絡んでいくところにも格別の味わいがある。それは同時に地方(じかた)への敬意であるようにも感じられる。


南座を後にし、大和大路通を下って、六波羅蜜寺に詣でる。境内に阿古屋の塚があるのである。まずそれに参拝する。阿古屋塚説明碑文のうち歌舞伎の演目「阿古屋」の部分の解説は坂東玉三郎が手掛けており、傍らには「奉納 五代目 坂東玉三郎」と記された石柱も立っている。

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その後、六道の辻の西福寺(一帯の住所は轆轤(ろくろ)町。髑髏(どくろ)町が由来とされる)で可愛らしい像を愛でてから西に向かい、三味線の音が流れてくる宮川町を通って帰路についた。

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