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2024年7月19日 (金)

これまでに観た映画より(339) 濱口竜介監督作品「悪は存在しない」

2024年5月22日 京都シネマにて

京都シネマで、濱口竜介監督作品「悪は存在しない」を観る。第94回アカデミー賞で国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)、第74回カンヌ映画祭で脚本賞などを獲得した「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督の最新作。出演:大美賀均(おおみか・ひとし)、西川玲(にしかわ・りょう)、小坂竜士(こさか・りゅうじ)、渋谷采郁(しぶたに・あやか)、菊池葉月、三浦博之、島井雄人、山村崇子、長尾拓磨、宮田佳典、田村泰二郎ほか。音楽:石橋英子。
ほぼ無名の俳優や素人同然の俳優を使った意欲的な配役である。主役の大美賀均に至っては、俳優ではなく映画の助監督出身で、昨年、中編映画で初監督を経験したという完全に作り手側の人である。子役の西川玲は映画初出演。重要な役を演じる小坂竜士は俳優業を休んでいて久しぶりの復帰。渋谷采郁は、チェルフィッチュの作品など演技力が余り求められないところでの演技経験が主である。この素人っぽさがある意味、この映画の肝であり、上手い俳優を使っていたら退屈極まりないものになっていたかも知れない。

濱口竜介監督は、東京大学文学部卒業後、横浜の馬車道にある東京藝術大学大学院映像研究科を修了しているが、スタッフにも東京藝術大学大学院映像研究科出身者が目立つ。アカデミックな制作陣が素人を使って制作しているというのも興味深い。

元々は、「ドライブ・マイ・カー」の音楽を担当した石橋英子が好評を得たことから、音楽フィルムを撮ることを濱口に提案。それがいつしか物語作品へと変化している。冒頭は音楽が流れる中、延々と空と木々が映されるシーンが続くが、それは音楽映像として作成されたことの名残なのかも知れない。

長野県水挽町という架空の自治体が舞台。安村巧(大美賀均)は、町の便利屋として、薪割り、木の伐採、水汲み、山菜採りなどを行っている。これで生活が成り立つのかどうか微妙に思えるが、特に金に不自由はしておらず、娘の花(西川玲)と一軒家で二人暮らし。母親の姿はないが、そのことについては特に触れられることはない。
水挽町は、名水の産地で、峯村佐知(菊池葉月)は、水の良さに感動して東京から移り住み、名水を使ったうどん屋を営んでいる。
そんな水挽町に、東京の芸能事務所がグランピング(テントを使った一種のホテル)を建てる計画を立て、説明会が行われることになる。コロナの補助金目当ての事業であることは明白だった。町の公民館のような施設で、東京から来た高橋(小坂竜士)と黛(渋谷采郁)の二人が映像などを使って説明を行うが、浄化槽の位置が問題で、水挽町の水に影響を与えるのではないかといった疑問や、管理人が24時間常駐している訳ではないので、管理人がいない間に花火などをされたら困るなどの意見が出る。高橋も黛も芸能畑の人間なので、環境面などについては詳しいことを把握しておらず、責任を取れる立場の者が来ていないということもあって、説明会は一触即発の状態になる。

一方、高橋と黛の側からも物語は描かれる。補助金目当ての社長とのネット会議を経て、二人が水挽町に向かう車中で行う会話は自然体で、ある意味、セリフっぽくなく、独特の魅力がある。二人の出自を説明する会話なのだが、芸能マネージャーの高橋が俳優の元付き人で俳優として作品に出たことがあったり、黛が元介護福祉士で、半ばミーハーな気持ちから芸能事務所に社員として入ったことが分かる(介護福祉士というのがいかにもそれっぽいので当て書きかも知れない)。管理人に関しては、巧にやって貰ったらどうかという提案や、高橋が「自分がやろうか」と立候補の気配を見せたりする。二人とも自然環境を破壊する気はなく、水挽町の人々もグランピングに関して素人の高橋と黛を嫌悪するでもなく、それこそ「悪は存在しない」状態である。
そんな中、巧の娘である花が行方不明になる。町の人々も高橋も黛も花を探す。途中、黛が右手を怪我をしたため、巧の家に戻ることになる……。

第80回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞したほか、海外で多くの賞を受賞しているが、高橋と黛の車中の会話は日本人だからこそピンとくるはずの内容で、こうした細部が海外の人にどれだけ伝わっているのか疑問である。

ラストは自然との調和を乱そうとしたことへの自然側からの報いであり、町を守るために部外者の目を塞ぐ行為と見るべきだろうが、おそらく意図的にだと思われるが、詳しいことはぼやかされている。

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