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2024年7月24日 (水)

コンサートの記(852) 沖澤のどか指揮 京都市交響楽団「ZERO歳からのみんなのコンサート」2024「打楽器で遊ぼう~キッチン・コンチェルト」@京都市呉竹文化センター

2024年7月20日 丹波橋の京都市呉竹文化センターにて

午前11時から、伏見区、京阪丹波橋駅南口目の前の京都市呉竹文化センターで、NOSTER presents 京都市交響楽団「ZERO歳からのみんなのコンサート」2024~さあ、クラシックファンをはじめよう~を聴く。指揮と進行役は、京都市交響楽団第14代常任指揮者の沖澤のどか。
沖澤のどかは、今月の京都市交響楽団の定期演奏会の指揮台にも立つ予定だが、ちょっと油断している間にチケット完売になってしまった。沖澤人気を甘く見ていたようだ。というわけで今月の京響の定期には行けないことが決定。代わりに今日の「ZERO歳からのみんなのコンサート」のチケットを取った。ちなみに沖澤指揮の「ZERO歳からのみんなのコンサート」は、今日は呉竹文化センターで、明日は西京区上桂の西文化会館ウエスティで行われるが、いずれもすでにチケット完売で人気の高さが表れている。
なお、沖澤は11月の京響の定期演奏会も振る予定だったが、出産の予定があるということですでにキャンセルしている。

何度も来ている呉竹文化センター。経年劣化は否めないが、ホールは空間が小さめで音の通りの良い会場である。

今回のテーマは、「打楽器で遊ぼう~キッチン・コンチェルト」で、打楽器をフィーチャーしたコンサートとなっている。


曲目は、カバレフスキーの組曲「道化師」より「ギャロップ」、レオポルト・モーツァルトのおもちゃの交響曲から第1楽章、ヨーゼフ・シュトラウスの「鍛冶屋のポルカ」、ルロイ・アンダーソンの「タイプライター」、ルロイ・アンダーソンの「シンコペーテッド・クロック」、榊原栄のキッチン・コンチェルト(台所用品独奏:中山航介)、チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割り人形」より「こんぺいとうの踊り」、プロコフィエフの組曲「三つのオレンジへの恋」から「行進曲」、ビゼーの歌劇「カルメン」前奏曲。
休憩なし、上演時間1時間弱のコンサートである。チケットは1000円均一と安い。


ポピュラーな曲目が並ぶ。定期演奏会では本格的な曲目が取り上げられることが多いので、こうしたポピュラーな小品がコンサートで取り上げられることは案外少ない。録音においてもそうで、有力な指揮者でこうした小品集をレコーディングしているのは、ヘルベルト・フォン・カラヤン、サー・アンドルー・デイヴィス、ウォルフガング・サヴァリッシュが目立つ程度である(アンドルー・デイヴィスとサヴァリッシュは往時の東芝EMIの企画でレコーディングを行っている)。

今日のコンサートマスターは、京響特別客演コンサートマスターの会田莉凡(りぼん)。泉原隆志と尾﨑平はいずれも降り番である。フルート首席の上野博昭、クラリネット首席の小谷口直子は乗り番である。なお、先月まで京響首席ヴィオラ奏者として活躍していた小峰航一は退団し、東京フィルハーモニー交響楽団の首席ヴィオラ奏者に転じている。

今日は指揮者も楽団員も、SOU・SOUと京響のコラボTシャツを着て演奏する。

0歳児から入れるコンサートなので、常に子どもが泣きわめいている状態なのであるが、そういうコンサートなので気にしても仕方が無い。京響側もそれを考えて気楽に聴けるポピュラーなプログラムにしていると思われる。


カバレフスキーの組曲「道化師」から「ギャロップ」は、小学校の運動会の徒競走の音楽としてお馴染みであるが、今の小学校の運動会でも使われているのかは定かでない。沖澤も演奏終了後に同じことを語っていた。ちなみに沖澤はベルリン在住なので、現在の日本の小学校についてはよく知らないと思われる。
シロフォンの活躍する曲で、沖澤は、シロフォン奏者を特別に紹介して立たせた。
カバレフスキーの作品は、この「ギャロップ」のみが飛び抜けて有名で、組曲「道化師」全曲を収めたものも長年に渡って発売されているのは、ウォルフガング・サヴァリッシュ盤だけだったのだが、今はNAXOSからCDが出ているはずである。カバレフスキーはソビエト共産党支持の体制側の作曲家だったので、日本では好まれない傾向にある。
活気のある演奏であった。


レオポルト・モーツァルトのおもちゃの交響曲から第1楽章。おもちゃの交響曲は、長年に渡ってヨーゼフ・ハイドンの作品と見做されてきたのだが、どうやら違うということが分かり、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの父親であるレオポルト・モーツァルトが書いた「カッサシオン」の中に同様の音型があったため、レオポルトの作品とされ、「カッサシオン」のCDも発売された。今回もレオポルト・モーツァルトの作品としてプログラムに載っているが、「レオポルトは書き写しただけなのではないか」という説が浮上し、現在ではエトムント・アンゲラーなる人物が真の作者と考えられるようになっている。沖澤もチロル地方出身のアンゲラーが地元のおもちゃの紹介のために書いたのではないかという説を紹介していた。
上手側の花道におもちゃの楽器を持った京響の楽団員が並んで、楽器の紹介。中山航介がでんでん太鼓のようなものを叩き、トランペット首席のハラルド・ナエスがおもちゃのトランペットを吹いたほか、鳥の鳴き声や郭公の鳴き声を模した笛などが奏でられる。おもちゃの楽器を持った奏者はそのまま上手側の花道に立ったまま演奏を行う。
この曲のみ沖澤はノンタクトで指揮。華やかで可愛らしい音楽が奏でられる。


ヨーゼフ・シュトラウスの「鍛冶屋のポルカ」。沖澤は、「今、鍛冶屋というとドラクエの中でしか耳にしないと思うんですけれど」と言いつつ、運ばれてきた金床(鉄床)を前に、「熱した金属を叩いて鉄器などを作る」と説明する。金床はアンヴィルと呼ばれるようであるが、沖澤は、「今、お腹の中に赤ちゃんがいるんですが、アンヴィルが鳴るとよく反応する」そうである。
ウィンナ・ポルカを演奏するには呉竹文化センターの音響は素っ気ないようにも思うが、快活な演奏が繰り広げられる。アンヴィルを叩く打楽器奏者(女性。名前は分からず)もユーモラスなパフォーマンスを行っていた。


ルロイ・アンダーソンの「タイプライター」。この曲も有名ではあるが、実演に接するのは10年以上前に行われた広上淳一指揮京都市交響楽団の円山公園音楽堂での野外演奏会以来ではないだろうか。タイプライターのみで独奏を行う演奏もあるが、今回は、ベルとギロ入りでの演奏である。
沖澤は、タイプライターは今ではパソコンに相当すると述べるが、パソコンが比較的静かにタイプ可能なのに対して、タイプライターは音も大きく、それゆえ打楽器(鍵盤楽器?)として使用する試みが行われたのだろう。当時は、タイプライターを使って仕事をするタイピストは女性の花形職業であったが、今はタイプするだけの仕事はいくつかの例外を除いてなくなってしまった。いくつかの例外も非正規社員の仕事になっていると思われる。
タイプする男性奏者は手慣れたもの。ベル奏者とギロ奏者は、締め切り間近を示すかのように徐々に男性奏者に近づいて圧力を掛ける。


ルロイ・アンダーソンの「シンコペーテッド・クロック」。ウッドブロックが活躍する曲である。沖澤は、打楽器奏者にウッドブロックを掲げるよう指示する。「今、目覚まし時計というとスマホを使うと思うんですけど」という話もしていた。
ルロイ・アンダーソンの曲は、京響らしい洗練された音と適度なユーモアが特徴的な都会的な仕上がりとなっていた。「シンコペーテッド・クロック」の演奏を終えて沖澤は、「時計、壊れちゃいましたね」と語る。


榊原栄のキッチン・コンチェルト。下手側花道にキッチンスペースが設けられ、コック帽をかぶった中山航介(京響打楽器首席)が、フライパン、ボウル、おたまなど調理道具を打楽器としたソロ演奏を行う。カデンツァは長いが(その間、聴衆の他、沖澤と京響メンバー全員が中山を見つめる)、終えると中山はワインを飲み、椅子に腰掛けて新聞を読み始める。そこに別の京響団員(女性)が背後から近づいて、「仕事しなさい!」とけしかけるという内容である。
音楽は、半世紀ほど前のアメリカのテレビドラマの音楽を連想させるもので、分かりやすいが、特に面白いという訳でもない。あくまでパフォーマンスが主役の作品という気がする。
榊原栄は、本業は指揮者だったようで、作曲は東京芸術大学で山本直純に師事。2005年に永眠したようである。


「キッチンが出てきたので、皆さんお腹空きませんか? ここで食べ物の曲を2曲」と沖澤は言って、チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割り人形」から「こんぺいとうの踊り」と、プロコフィエフの組曲「三つのオレンジへの恋」から「行進曲」が演奏される。
「こんぺいとうの踊り」は、チェレスタが活躍することで知られる。京響がチェレスタを必要とする場合、大抵は佐竹裕介が演奏を行うことになるのだが、今日は佐竹ではなく、女性の奏者がチェレスタを奏でた。
プロコフィエフの組曲「三つのオレンジへの恋」から「行進曲」。「三つのオレンジへの恋」は歌劇で、沖澤は「三つ目のオレンジがパカーンと割れて」出てきた王女と王子が結ばれる話だと説明する。
「こんぺいとうの踊り」の神秘性、「三つのオレンジへの恋」から「行進曲」の推進力と諧謔姓などいずれも豊かな演奏である。


今年の「ZERO歳からのみんなのコンサート」は、3公演ともボディーパーカッションが入る。今日は山本愛香がボディーパーカッションのレクチャーをした後、ビゼーの歌劇「カルメン」前奏曲に乗せて、聴衆と共にパフォーマンスを行った。


アンコール演奏は、「弦楽器を打楽器的に用いる」ということで、ヨハン・シュトラウスⅡ世&ヨーゼフ・シュトラウスの「ピッチカート・ポルカ」。典雅な演奏であった。

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