コンサートの記(854) 久石譲指揮日本センチュリー交響楽団京都特別演奏会2024
2024年8月10日 京都コンサートホールにて
午後3時から、京都コンサートホールで、久石譲指揮日本センチュリー交響楽団の京都特別演奏会を聴く。今日と同一のプログラムで明日、山口県防府(ほうふ)市の三友(さんゆう)サルビアホールでも特別演奏会が行われる予定である。
スタジオジブリ作品や北野武監督の映画作品の作曲家としてお馴染みの久石譲であるが、それは仮の姿というか、彼の一側面であり、本来はミニマル・ミュージックをベースとした先鋭的な作曲家である。ちなみによく知られたことではあるが、久石譲は芸名であり(本名は藤澤守)、クインシー・ジョーンズをもじった名前である。
近年は指揮者としての活動が目立っており、ナガノ・チェンバー・オーケストラ(途中で改組されてフューチャー・オーケストラ・クラシックスとなる)とのベートーヴェン交響曲全曲演奏会とライブ録音した「ベートーヴェン交響曲全集」で高い評価を得たほか、新日本フィルハーモニー交響楽団を母体とした新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラの音楽監督に就任して活動継続中。現在は、日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者を務めており、2025年4月には同楽団の音楽監督に就任する予定である。その他、新日本フィルハーモニー交響楽団 Music Partner、作曲家としてロンドンのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のComposer in Associationを務めている。海外のオーケストラも指揮しており、ウィーン交響楽団、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、メルボルン交響楽団、アメリカ交響楽団、シカゴ交響楽団、トロント交響楽団、ロサンゼルス・フィルハーモニックなどの指揮台に立っている。
国立(くにたち)音楽大学で作曲を学び、現在は同音大の招聘教授となっているが、指揮法に関してはおそらく誰かに本格的に師事したことはなく、ほぼ我流であると思われる。
曲目は、ブリテンの歌劇「ピーター・グライムス」より4つの海の前奏曲、久石譲の「Links」、久石譲の「DA・MA・SHI・絵」、ヴォーン・ウィリアムズの「グリーン・スリーヴス」による幻想曲、久石譲の交響組曲「魔女の宅急便」
久石譲の自作とイギリスものからなるプログラムである。
全曲、20世紀以降の新しい時代の作品であるが、ヴァイオリン両翼の古典配置を採用。無料パンフレットには楽団員表などは載っていないため、詳しい情報は分からない。
なお、久石譲の指揮ということで、チケット料金は高めに設定されているが、久石作曲・指揮のジブリ音楽が聴けるということもあり、完売となっている。
ブリテンの歌劇「ピーター・グライムス」より4つの海の間奏曲。
イギリスが久しぶりに生んだ天才作曲家、ベンジャミン・ブリテン。近年、再評価が進んでいる作曲家であるが、指揮者としても活動しており、録音も残されていて一部の演奏は評価も高い。
歌劇「ピーター・グライムス」より4つの海の間奏曲も、ブリテンの才気が溢れ出ており、瑞々しくも神秘的且つ不穏な音楽が展開されていく。様々な要素が高い次元で統一された音楽である。
センチュリー響は、第1ヴァイオリン12という編成。元々、フォルムの造形美に定評のあるオーケストラだが、この曲でもキレのある音と丁寧な音色の積み重ねで聴かせる。
弦の艶やかさが目立つが、管楽器も透明感があり、音の抜けが良い。
歌劇「ピーター・グライムス」より4つの海の間奏曲は、レナード・バーンスタインが生涯最後のコンサートで取り上げた曲目の一つとしても知られており、それにより知名度も高くなっている。
久石の指揮は拍をきっちりと刻むオーソドックスなもので、専業の指揮者のような派手さはないが、よくツボを心得た指揮を行っている。
久石譲の「Links」と「DA・MA・SHI・絵」。いずれも久石お得意のミニマルミュージックである。「Links」は2007年の作曲。「DA・MA・SHI・絵」はやや古く1985年の作曲であるが、2009年にロンドン交響楽団と録音を行う際に大編成用に再構成されている。エッシャーのだまし絵にインスピレーションを得た作品である。
「Links」は愛すべき小品ともいうべき作品。甘くて楽しい「久石メロディー」とは一線を画したシャープな音響である。
「DA・MA・SHI・絵」は、冒頭はミニマルミュージックの創始者とされるマイケル・ナイマンの作風に似ているが、徐々にスケールが大きくなり、迫力も増していく。
ヴォーン・ウィリアムズの「グリーン・スリーヴス」による幻想曲。
ヴォーン・ウィリアムズも徐々にではあるが人気が高まっている作曲家。特に日本には、尾高忠明、藤岡幸夫、大友直人といったイギリスものを得意とする指揮者が多く、ヴォーン・ウィリアムズの作品がプログラムに載る確率も思いのほか高い。
イギリスも近年では指揮者大国になりつつあり、ヴォーン・ウィリアムズやエルガーといった英国を代表する作曲家の作品が演奏される機会が世界中で多くなっている。先頃亡くなったが、サー・アンドルー・デイヴィスが「ヴォーン・ウィリアムズ交響曲全集」を作成しており、またアメリカ人指揮者であるがイギリスでも活躍したレナード・スラットキンも交響曲全集を完成させている。
「グリーン・スリーヴス」による幻想曲は、日本でもお馴染みの「グリーン・スリーヴス」のメロディーを取り入れた分かりやすい曲で、おそらくドビュッシーの影響なども受けていると思われているが、音の透明度の高さや高雅な雰囲気などが魅力的な楽曲となっている。以前は、ヴォーン・ウィリアムズというと、この「グリーン・スリーヴス」による幻想曲の作曲家として知名度が高かったが、時代は変わり、今は交響曲作曲家として評価されるようになってきている。
久石譲はノンタクトで指揮。この曲が持つ美しさとそこはかとない哀愁、神秘性、ノーブルで繊細な雰囲気などを巧みに浮かび上がらせてみせた。
久石譲の交響組曲「魔女の宅急便」。スタジオジブリの映画の中でもテレビ放映される機会も多く、人気作品となっている「魔女の宅急便」の音楽をオーケストラコンサート用にアレンジしたものである。初演は2019年に作曲者指揮の新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラによって行われている。アコーディオン独奏は大阪を拠点に活動する、かとうかなこ。マンドリン独奏は青山忠。
チャーミングでノスタルジックで親しみやすいメロディーが次から次へと登場する楽曲で、久石の表現も自作だけに手慣れたもの。センチュリー響の技術も高い。
この曲では打楽器の活躍も目立っており、木琴、鉄琴が2台ずつ使われる他、チューブラーベルズなども活用される。アコーディオンとマンドリンの独奏も愛らしさを倍加させ、トランペット奏者やトロンボーン奏者、クラリネット奏者が立ち上がって演奏したり、フルート奏者がオカリナを奏でるなど、とても楽しい時が流れていく。
ラストはコンサートマスターのソロ(自分で譜面台を移動させ、立ち上がってソリストの位置に立って演奏)を伴う楽曲で閉じられた。
アンコール演奏は、久石譲の組曲「World Dreams」よりⅠ.World Dreams。チェロの活躍が目立つメロディアスで構築のしっかりした曲である。
演奏終了後、多くの「ブラボー!」が久石とセンチュリー響を讃え、1階席はほぼ総立ち、2階席3階席もスタンディングオベーションを行う人の姿が目立ち、大いに盛り上がった。
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