« コンサートの記(857) 大友直人指揮 第13回関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル IN 京都コンサートホール | トップページ | 我最喜欢的女演员 »

2024年9月30日 (月)

美術回廊(86) 大丸ミュージアム京都 「写真展 星野道夫 悠久の時を旅する」

2024年9月19日 大丸京都店6階 大丸ミュージアム京都にて

大丸京都店6階にある大丸ミュージアム京都で、「写真展 星野道夫 悠久の時を旅する」を観る。
カムチャツカ半島で、熊害(ゆうがい)に遭うという壮絶な最期を遂げた写真家、探検家、詩人、エッセイストの星野道夫が、アラスカの風景を写真に収めた展覧会。

Dsc_4538

星野がアラスカに目覚めたのは二十歳の時。当時、彼は慶應義塾大学経済学部に学ぶ学生だった。神田神保町の洋書専門古書店でアラスカの写真集を見つけた星野は、アラスカに魅せられ、アラスカのシシュマレフを訪れるべく、現地の村長に英文による手紙を送った「Mayer」という宛名になっている。そして返事が来る。「歓迎する」とのことだった(両名の英文による手紙が展示されている)。「こちらには漁業などの仕事もある」と記されており、星野はアラスカに向かい、3ヶ月ほど現地に滞在した。
慶大卒業後、カメラマンのアシスタントなった星野だが、アラスカ留学を決意。英語の勉強に励む。
アラスカ大学フェアバンクス校野生動物管理学部に入学。合格点には足りなかったが、何とか頼み込んで入れて貰ったようである。その後、アラスカ全土に渡る撮影旅行を繰り返し、動物を中心に風景や人物を被写体に選ぶ。アラスカ大学は最終的には中退した。

動物を撮った写真は、被写体をアップで撮ったものも勿論あるが、引きのアングルで撮り、大自然の中に動物が点のようにポツンと存在しているものも多い。大いなる自然の中で、動物たちも自然の一部として存在しているという解釈だろう。日本人らしい発想とも言える。動物の被写体としては、カリブーやグリズリーを収めたものが多い。
ホッキョクグマなどを収めたものもあり、今回の展覧会のメインビジュアルにはホッキョクグマが採用されている。ホッキョクグマ2頭がじゃれている写真などもあり、動物の意外な可愛らしさが切り抜かれている。また、アザラシなど、純粋に見た目が可愛らしい動物の姿も記録されている。

Dsc_4543

Dsc_4548

狩りを行う人物達も収めており、動物を解体する様も冷静に捉えている。逞しく生きている人達であり、動物愛護などとは言っていられない。同じく、冒険家として活躍してきたC・W・ニコルのエッセイを読んだことがあるが、「動物が可哀相などという人は残念ながらこの世界(北極圏)では生きていけない」というようなことが書いてあったことを覚えている。
アラスカの長老の写真もあるが、102歳という高齢。彼もまた猟師として生きてきた人であり、顔に自信が表れている。
アラスカの人々を撮影した集合写真もあるが、皆、いい顔をしている。

風景写真もやはり高い場所から引きのアングルで撮られたものが多く、広大な自然への畏敬の念が感じられる作品となっている。同じ冒険家の植村直己が消息を絶ったマッキンレーの写真も展示されている。夕陽を受けて真っ赤に染まるマッキンレー。湖に映った逆さマッキンレーも捉えた二重構図になっている。星野もおそらく植村のことを思ったであろう。
ちなみに星野の奥さんであった直子さんの講演も大丸ミュージアム京都で予定されているのだが、平日の昼間なので行くことは出来ない。


1996年8月8日。星野はカムチャツカ半島にて死去。テレビ番組のクルーが同行していた。
撮影班一行はコテージに泊まるが、星野は一人離れてテントを張った。夜、ヒグマがコテージの食料庫を襲う。撮影班は星野にコテージに移るよう告げるが、星野は、「今の時期は鮭が豊富に取れるからヒグマが人を襲うことはない」と断言。そのままテントに泊まり続けたが、ヒグマの襲撃を受け、帰らぬ人となった。43歳没。遺体は見るも無惨な状態だったという。実はこの年は鮭の遡上が遅れており、不作だった。鮭が捕れないヒグマは腹を空かせていた。また星野を襲った個体は純粋な野生種ではなかった。
ヒグマの生態と現地の情報に詳しかったことが却って徒になったといえる。なお、この証言は撮影班からのものであり、星野は亡くなっているので、真相がこの通りなのかどうかは分からない。

星野が遭った熊害に関する記事は、熊害を集めた『慟哭の谷』(文春文庫)に、「三毛別羆事件」、「福岡大学ワンダーフォーゲル同好会ヒグマ襲撃事件」などと共に収められている。

映像のコーナーもあり、星野が収めた写真と、それにまつわる言葉が浮かんでは消えていく。上映時間は10分ちょっと。いずれもこの展覧会に出展されている写真であり、言葉も壁に並べられた写真の下に書かれているものがほとんどなので、目新しさはないが、写真と言葉を重ねることで分かりやすくなった部分もあるように思う。

| |

« コンサートの記(857) 大友直人指揮 第13回関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル IN 京都コンサートホール | トップページ | 我最喜欢的女演员 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« コンサートの記(857) 大友直人指揮 第13回関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル IN 京都コンサートホール | トップページ | 我最喜欢的女演员 »