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2024年9月29日 (日)

コンサートの記(857) 大友直人指揮 第13回関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル IN 京都コンサートホール

2024年9月15日 京都コンサートホールにて

午後3時から、京都コンサートホールで、第13回関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル IN 京都コンサートホールを聴く。

大阪音楽大学、大阪教育大学、大阪芸術大学、京都市立芸術大学、神戸女学院大学、相愛大学、同志社女子大学、武庫川女子大学の8つの音楽大学や音楽学部を持つ大学が合同で行う演奏会である。指揮は、大阪芸術大学教授、京都市立芸術大学客員教授でもある大友直人。大友は他に東邦音楽大学特任教授、洗足学園音楽大学客員教授も務めている。

大阪音楽大学は大阪府豊中市にある音楽学部のみの単科大学で、大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウスを持っていることから、声楽に特に強いが器楽も多くの奏者が輩出している。朝比奈隆がこの大学でドイツ語などの一般教養を教えており(大阪音楽大学には指揮科はない)、目に付いた優秀な演奏家を自身の手兵である大阪フィルハーモニー交響楽団にスカウトすることが度々であった。

大阪教育大学は、大阪府柏原(かしわら)市にあるのだが、大阪府の東端にある柏原市の中でも更に東端にあり、ほぼ奈良県との県境に位置している。教育大学なので音楽の先生になる課程もあるが、音楽を専門に学ぶコース(芸術表現専攻音楽表現コース)も存在する。このコースの校舎は奈良との県境が目の前のようだ。

大阪芸術大学は、大阪府南河内郡河南町にある総合芸術大学で、音楽よりも演劇、ミュージカル、文芸、映画などに強いが、音楽学科も教員に大友直人、川井郁子(ヴァイオリン)、小林沙羅(ソプラノ歌手)などを迎えており、充実している。

京都市立芸術大学は、音楽学部と美術学部からなる公立芸術大学で、西日本ナンバーワン芸術大学と見なされている。これまでは西京区の沓掛(くつかけ)という町外れにあったが、このたび、JR京都駅の東側にある崇仁地区に移転し、都会派の公立芸術大学に生まれ変わった。有名OBに佐渡裕がいるが、彼は指揮科ではなくフルート科の出身である。少数精鋭を旨としている。

神戸女学院大学は、神戸を名乗っているが、西宮市にメインキャンパスがあるミッションスクールである。以前は西日本ナンバーワン私立女子大学であった神戸女学院大学であるが、女子大不人気により、最近は定員割れするなど苦しい状況にある。音楽学部を持つ。キャンパスにはウィリアム・メレル・ヴォーリズ設計の建物(多くが重要文化財に指定)が並ぶ。

相愛大学は、浄土真宗本願寺派の大学で、人文学部と音楽学部と人間発達学部を持ち、キャンパスは大阪市の南港と、北御堂(浄土真宗本願寺派津村別院)に近い本町(ほんまち)の2カ所にある。

新島八重が創設したミッション系の同志社女子大学は、京都市上京区の今出川、同志社大学の東隣にもキャンパスがあるが、本部のある京都府京田辺市に設置された学芸学部に音楽学科を持つ。京田辺キャンパスのある場所は田舎である。京都市内で活躍する女性音楽家には、同女(どうじょ)こと、この大学の出身者が割と多い。

武庫川女子大学は、日本最大の女子大学であり、西宮市にメインキャンパスがある。総合大学であり、音楽学部を持つ。


曲目は、千住明のオペラ「万葉集~二上山挽歌編~」(大津皇子・大伯皇女レクイエム)より抜粋(オーケストラバージョン,2013。台本:黛まどか)とベルリオーズの幻想交響曲。


開演前にウェルカムコンサートがあり、ホワイエで、大阪教育大学の学生と、大阪芸術大学の学生が演奏を行う。

大阪教育大学は、全員が打楽器奏者で、木製のスツールにバチを当ててリズム音楽を奏でる。ジュリー・ダビラの「スツール・ビジョン」という曲である。リズミカルに躍動感を持って音を出す大阪教育大学の学生。互いのバチ同士を当てて音を出す場面もあり、仲の良さが伝わってくる。

大阪芸術大学は、レイモンド・プレムルの5つの楽章「ディヴェルティメント」よりを演奏。トランペットとトロンボーンが4、ホルンとチューバが1人ずつという編成。ちょっと音が大きめの気もするが、快活な演奏を聴かせてくれた。


千住明のオペラ「万葉集~二上山挽歌~」(大津皇子・大伯皇女レクイエム)より抜粋(オーケストラバージョン)。
千住明のオペラ「万葉集」は2009年に作曲され、2011年に改訂されて「明日香風編」と「二上山挽歌編」の二部構成になった。初演は東京文化会館小ホールで行われており、オペラではあるが、音楽劇、オラトリオ的な性質を持っており、「二上山挽歌編」は挽歌とあることからも分かる通り、レクイエム的性格が強い。

独唱者は、伊吹日向子(ソプラノ。京都市立大学大学院修士課程声楽専攻1回生)、吉岡七海(メゾソプラノ。大阪音楽大学大学院声楽研究室に在籍)、向井洋輔(テノール。京都市立芸術大学大学院修士課程2回生)、芳賀拓郎(大阪芸術大学大学院在学中)。
合唱は、各大学からの選抜。大阪音楽大学、大阪芸術大学、武庫川女子大学(当然ながら女声パートのみ)の学生が比較的多めであり、これらの大学は声楽が強いことが分かる。

この曲のコンサートミストレスは、原田凜奏(京都市立芸術大学)。メンバーは弦楽器は京都市立芸術大学在籍者が圧倒的に多く、管楽器や打楽器は各大学がばらけている。

大津皇子と草壁皇子による皇位継承問題を題材とした作品であり、讒言により失脚した大津皇子は自害して果て、亡骸は二上山に葬られた。姉である大伯皇女(大来皇女。おおくのひめみこ。日本初の伊勢斎宮)が弟を思って詠んだ「うつそみの人なる我や明日よりは二上山(ふたかみやま)を弟(いろせ)と我(あ)が見む」(現世の人である私は明日よりは二上山を弟と見なして生きていきます)がよく知られており、この作品でも歌われている。

大津皇子も草壁皇子も、天武天皇の子であるが、大津皇子と大伯皇女の母親は大田皇女の子、一方の草壁皇子の母親は神田うのの名前の由来として有名な(でもないか)鸕野讃良皇女(うののさららのこうじょ/ひめみこ)、後の持統天皇である。大田皇女は鸕野讃良皇女の姉であるが若くして亡くなっており、息子の後ろ盾にはなれなかった。そこで草壁皇子が立太子するが、草壁皇子は病弱であった上に、異母兄の大津皇子は文武両道の「人物」であり、鸕野讃良皇女は危機感を持ち、大津皇子に謀反の疑いを掛け、死へと追い込んだとされる。時に24歳。
しかし鸕野讃良皇女の願いも空しく、草壁皇子は即位することなく28歳の若さで病死。そこで鸕野讃良皇女は、草壁皇子の息子を次の天皇に就けることにするが、その軽皇子は8歳と幼かったため、繋ぎとして自らが女帝として即位。持統天皇が誕生する。軽皇子はその後、文武天皇として即位している。

今回の黛まどかの台本は、石川女郎(いらつめ)と大津皇子の問答歌、草壁皇子の歌で始まる。草壁皇子は石川女郎に恋心を寄せているのだが、石川女郎は大津皇子に惚れている。

その後、初代の伊勢斎宮に選ばれ、神宮に赴いた大伯皇女の下に、弟の大津皇子がやって来る。この頃はまだ皇室では近親婚もそれほどタブー視されておらず、大津と大伯の間には姉弟を超えた愛があることが仄めかされる。

飛鳥浄御原宮(あすかきよみはらのみや)では、草壁皇子が「大津皇子が謀反を企てている」と母親に讒言(史実では讒言を行ったのは川島皇子であるとされる)。大津皇子に死を賜ることが決まる。大津皇子は死ぬ前に姉に一目会いたいと伊勢までやって来たのだった。当時、意味なく伊勢神宮に参拝するのは禁止されていたようで、これが大津が死を賜る直接の原因となったという説もある。
大和へと帰る大津皇子を大伯皇女がなすすべもなく見送り、和歌のみを詠んだ。
鸕野讃良皇女と息子の草壁皇子は、大津を排し、新たな国を作る決意をする。

フィナーレは、大伯皇女の「うつそみの人なる我や明日よりは二上山を弟と我が見む」の和歌に始まり、天武天皇(合唱のバスのメンバーの一人が歌う)、大伯皇女、持統天皇、草壁皇子、大津皇子、民の合唱が、大津皇子の御霊がシリウス(天狼)として青い炎を身に纏い、大和で輝き続けることを願う歌詞となって終わる。

大友直人は今日は全編ノンタクトで指揮。この曲は4拍子系が基本なので振りやすいはずである。
いかにもレクイエム的な清浄な響きが特徴であり、分かりやすくバランスの良い楽曲となっている。メロディーも覚えやすい。

独唱は学生で京都コンサートホールの音響に慣れてないということもあってか、声量が小さめで、発声ももっと明瞭なものを求めたくなるが、まだ大学院生なので多くを望むのは酷であろう。合唱もバラツキがあったが、臨時編成でもあり、これも許容範囲である。

大友は若い頃はしなやかな感性を生かした音楽作りをしていた。最近は押しの強い演奏が目立っていたが、パワーがそれほど望めない学生オーケストラということもあってか、歌心と造形美の両方を意識した音楽作りとなっていた。大友は声楽付きの作品には強いようである。
オーケストラは、弱音の美しさに限界があるが、なかなかの好演だったように思う。


後半、ベルリオーズの幻想交響曲。大友は譜面台を置かず、暗譜での指揮となる。
幻想交響曲のコンサートミストレスは、日下部心優(京都市立芸術大学)。
大友は比較的遅めのテンポで開始。じっくりと妖しい音を愛でていく。オーケストラも輝きと艶やかさがあり、臨時編成の団体としてはレベルが高めである。アンサンブルの精度も高く、金管や打楽器にも迫力がある。

第2楽章は、コルネット不採用。典雅なワルツが奏でられ、やがて哀しきとなり、最後は強引に盛り上げて切り上げる。ベルリオーズの意図通り。

第3楽章でのオーボエのバンダは、上手袖すぐの場所で吹かれるため音が大きい。寂寥感が自然に表出されている。

第4楽章「断頭台への行進」。大友さんなので狂気の表出まではいかないが、力強い金管と蠢くような弦楽のやり取りや対比が鮮やかである。

第5楽章「最初のワルプルギスの夜」も、弦楽のおどろおどろしさ、クラリネットなどが奏でる「恋人の主題」の不気味さなど、よく表れた演奏である。鐘は下手袖で叩かれた。明るめの音色である。大友のオケ捌きは万全であり、学生のみの演奏としては十分に納得のいく出来に達していた。

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