観劇感想精選(472) シス・カンパニー公演 日本文学シアター Vol.7 [織田作之助] 「夫婦パラダイス~街の灯はそこに~」
2024年9月26日 大阪の森ノ宮ピロティホールにて観劇
午後2時から、大阪の森ノ宮ピロティホールで、シス・カンパニー公演 日本文学シアターVol.7[織田作之助] 「夫婦(めおと)パラダイス ~街の灯はそこに~」を観る。作:北村想、演出:寺十吾(じつなし・さとる)。出演:尾上松也、瀧内公美、高田聖子(たかだ・しょうこ)、福地桃子、鈴木浩介、段田安則。なかなか魅力的な俳優が揃っているのだが、大阪公演は平日のマチネーのみでもったいない。ちなみにナレーターは劇中では明かされなかったが、上演終了後に「高橋克実でした」と正体が明かされた。
一応、織田作之助の『夫婦善哉』を題材にしているのだが、内容は全くといっていいほど重なっていない。有名な折檻のシーンなどもない。川島雄三の映画「洲崎パラダイス 赤信号」の要素も入れているようである。
名古屋を代表する演劇人である北村想。滋賀県大津市の出身であるが、滋賀県立石山高校卒業後は進学しなかったものの、友人がいた名古屋の中京大学の演劇サークルなどに加わり、演劇活動を始めている。鬱病持ちであるため、活動に波のある人でもある。
名古屋の演劇界は、北村想と天野天街が二枚看板だったのだが、天野天街は今年死去。名古屋の大物演劇人は北村想だけとなった。
そんな北村さんであるが、ホワイエにいて、自身の戯曲を買ってくれた人にその場でサインを入れている。戯曲は他の場所で買うよりも安めの価格設定だったので、私も買って北村さんにサインして貰った。買うと同時にサインしてくれるシステムである。呼び込みのおじさんは、「1500円で戯曲を買うと北村先生のサインが貰えます」と呼びかけていたのだが、何度も同じ言葉を繰り返していたためか、途中、「1500円でサインが貰えます」と間違えて言ってしまい、自身でも周囲の人々も笑っていた。
実のところ、天野天街の演劇は触れる機会が比較的多かったが、北村想の演劇は思ったよりも接していない。「寿歌(ほぎうた)」、「十一人の少年」などいくつかに限られ、いずれも北村さん本人は関与していない上演である。北村さんの本は読んでいるし、私は参加はしなかったが、北村さんは伊丹AIホールで、「想流私塾」という戯曲講座を行っており、また出身が滋賀県ということで関西にゆかりのある人だけに自分でも意外である。北村想が原作を手掛けた映画「K-20 怪人二十面相・伝」(出演:金城武、松たか子ほか)などは観ている。
時代物であるが、現代が鏡に映った像のように反映され、鋭い指摘がなされている。
今回の舞台は大阪の東部にある河内地方である。大阪市は北摂地方に当たるため、直接的な舞台ではないが、同じ大阪府内ということでご当地ものと言って良いだろう(大阪市の人は言葉の荒い河内の人と一緒にされるのを嫌がるようだが)。
お蝶(蝶子。瀧内公美)が、欄干にもたれて、鞄の中から色々と取りだしている場面で芝居は始まる。滋賀県野洲(やす)市の出身である是野洲柳吉(これやす・りゅうきち。尾上松也)が下手の客席入り口から登場。客席通路を通って舞台に上がる。
お蝶は元コンパニオンガール。年を取ったので、今はその仕事は出来ない。一時期は三味線芸者をしていたこともある。柳吉は商人の息子であるが放蕩が過ぎたため勘当され、今では浄瑠璃パンク・ロックという特殊なジャンルの芸人をしているが、ほとんど相手にされていない。
金がなくなった二人は、蝶子の腹違いの姉である信子(高田聖子)が営む居酒屋「河童」に転がり込んだ。川を挟んで向かいには公営カジノ「パラダイス」の看板が浮かんでいる。
「河童」のなじみ客に馬淵牛太郎(段田安則)という社長がいる。牛太郎は「パラダイス」でも遊んでいるようだ。
信子には藤吉(鈴木浩介)という亭主がいたのだが、藤吉はある日、「煙草を買いに行ってくる」と言ったきり帰ってこなかった。
なお、福地桃子演じる静子は、出前持ちの女性として登場する。彼女は夢と現実の間で翻弄されることになる。
信子は神棚に胡瓜を供えていた。やがて、居酒屋「河童」に河童が訪れる。藤吉だった。
藤吉は、エクセルが出来るのを見込まれて経理の仕事を始めていたのだった。
江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」、田端義夫の「十九の春」(尾上松也が客席に、「田端義夫を知ってます? 知っている人は結構なお年の人」と振っていた)など、文学や音楽の要素がちりばめられており、照明の転換の仕方などは天野天街の作品に似ていて、名古屋のローカル色が感じられる。歌舞伎の影響を受けて、だんまりの場面があるなど、多ジャンルを横断する形で描かれているのも特徴。フィクションや物語の力も肯定されている。
物質の瞬間移動も用いられている。役者が手にしたものをすっと引っ込めると同時に、別の役者が、同じ種類のものを袖などから引き出して、物体が瞬間移動したように見える技である。これは実は私もやったことがある。私の役目は投げられた振りをした鼓を、投げた俳優の背後で受け取り、体の影に隠すというもので、その間に、向こう側では隠し持っていた鼓を出して、あたかも受け取ったかのように見せかけていた。
また、アドリブが多く、特に尾上松也は段田安則によく突っ込んでいた。
「リバーシブルオーケストラ」、「Amazon」のCM、NHK大河ドラマ「光る君へ」の源明子役で注目を集めている瀧内公美。独特の色気のある女優さんだが、今日はそのスタイルの良さが特に目立っていた。
ベテランの段田安則、実力派の鈴木浩介、関西出身レジェンドの高田聖子らが、楽しみながらの演技を披露し、東京や大阪のそれとは異なる独自のエンターテインメントとして上質の仕上がりとなっていた。
| 固定リンク | 0
« コンサートの記(863) 安達真理(ヴィオラ)&江崎萌子(ピアノ) 「月の引用」@カフェ・モンタージュ | トップページ | コンサートの記(864) デイヴィッド・レイランド指揮 京都市交響楽団第694回定期演奏会 フライデー・ナイト・スペシャル »
コメント