コンサートの記(863) 安達真理(ヴィオラ)&江崎萌子(ピアノ) 「月の引用」@カフェ・モンタージュ
2024年10月4日 京都市中京区 柳馬場通夷川東入ルのカフェ・モンタージュにて
午後8時から、柳馬場(やなぎのばんば)通夷川(えびすがわ)東入ルにあるカフェ・モンタージュで、ヴィオラの安達真理とピアノの江崎萌子によるコンサート「月の引用」を聴く。
曲目は、ブラームスのヴィオラ・ソナタ第1番とショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタ。ブラームスのヴィオラ・ソナタ第1番は、ブラームス最後の室内楽曲。ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタは、ショスタコーヴィチの最後の作品で、死の5日前に完成している。
人気ヴィオリストの安達真理。関西で実演に接する機会も多い。国内ではソリストや室内楽での活動が多かったが、2021年に日本フィルハーモニー交響楽団の客演首席ヴィオラ奏者に就任している。
桐朋学園大学、ウィーン国立音楽大学室内楽科、ローザンヌ高等音楽院ソリスト修士課程を修了。若手奏者との共演の他、坂本龍一との共演経験もあり、6月に行われた日本フィルの坂本龍一追悼演奏会でも客演首席ヴィオラ奏者として乗り番であった。指揮者のパーヴォ・ヤルヴィとはエストニア・フェスティバル管弦楽団のメンバーとして、ヨーロッパ各地で共演を重ねている。コロナの時期にはインスタライブなども行っていて、私も見たことがあるのだが、かなり性格が良さそうで、彼女のことを嫌いという人は余りいないのではないだろか。笑顔がとてもチャーミングな人である。
ロングヘアがトレードマークであるが、今日はポニーテールで登場した。
ピアノの江崎萌子は、東京出身。桐朋女子高校音楽科を首席で卒業後、パリのスコラ・カントルム(エリック・サティが年を取ってから入学し、優秀な成績で卒業したことでも知られる音楽院である)とパリ国立高等音楽院修士課程に学び、ライプツィッヒ・メンデルスゾーン音楽大学演奏家課程で国家演奏家資格を取得している(日本と違って資格がないとプロの演奏家として活動出来ない)。ヴェローナ国際コンクールで2位獲得、東京ピアノコンクールでも2位に入っている。
ブラームスのヴィオラ・ソナタ第1番。カフェ・モンタージュは空間が小さいので音がダイレクトに届く。ブラームスらしい仄暗い憂いの中に渋さと甘さの感じられる曲だが、憧れを求める第2楽章、そして第3楽章などは清澄な趣で、穏やかな魂の流れのようなものが感じられる。
間近で聴いているので迫力が感じられ、二人のしなやかな音楽性も伝わってくる。
演奏終了後に安達真理のトーク。マイクがないので、地声で話す。空間が小さいので十分に聞こえる。ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタが彼の最後の作品であり、もう右手が使えず左で記譜したこと、死の直前まで奥さんにチェーホフの小説「グーセフ」を読み聞かせて貰っていたことなどを話す。
今回のタイトルは、「月の引用」であるが、ショスタコーヴィチはヴィオラ・ソナタの第3楽章でベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「月光」第1楽章の旋律を引用しており、そこからタイトルがつけられたことを明かす。第1楽章には「ノベル(小説)」、第2楽章には「スケルツォ」、第3楽章には「偉大な作曲家の思い出に」という副題が付いていたようだ。
休憩後に演奏開始。ヴィオラはピッチカートで始まる。深遠さと諧謔の精神を合わせ持ついつものショスタコーヴィチであるが、背後に何か得体の知れないものが感じられる。
第2楽章は、流麗な舞曲風の曲調。再びピッチカートの歩みが始まり、悲歌のようなものが歌い上げられて、再びピッチカートが姿を現す。
第3楽章には、「月光」ソナタからの引用と共に、自身の交響曲全15曲からの引用がさりげなくちりばめられてるのだが、それが発見されたのは、作曲者が亡くなってから大分経ってからであった。それほど巧妙に隠されていたということになる。ベートーヴェンをカモフラージュにして意識をそちらに向かわせるよう仕向けたのであろう。
「月光」からの引用はまずピアノに現れ、すぐにヴィオラが歌い交わす。
次第にピアノが叩きつけるような音に変わり、その上をヴィオラの月光の旋律が滑る。
ベートーヴェンの「月光」は、「神の歩み」「十字架」「ゴルゴダの丘」などを描写しているという説があるが、ショスタコーヴィチがそうしたことを知っていたのかどうかは不明である。
二人ともショスタコーヴィチの鋭さの中に優しさを含ませたかのような演奏。
アンコール演奏は1曲。聴いたことのない曲だったが、安達真理は、「なんの曲かは私のXをご覧下さい」と告げていた。確認すると、平野一郎の「あまねうた」という曲だったようだ。
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