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2024年10月25日 (金)

コンサートの記(864) デイヴィッド・レイランド指揮 京都市交響楽団第694回定期演奏会 フライデー・ナイト・スペシャル

2024年10月11日 京都コンサートホールにて

午後7時30分から、京都コンサートホールで、京都市交響楽団の第694回定期演奏会 フライデー・ナイト・スペシャルを聴く。指揮は、デイヴィッド・レイランド。京響には2度目の登場である。

休憩時間なし、上演時間約1時間のフライデー・ナイト・スペシャル。今回は、アンドリュー・フォン・オーエンのピアノソロ演奏の後に京響が登場。京響は1曲勝負である。


曲目は、アンドリュー・フォン・オーエンのピアノソロで、ラフマニノフの前奏曲作品23から、第4番ニ長調、第2番変ロ長調、第6番変ホ長調、第5番ト短調。デイヴィッド・レイランド指揮京都市交響楽団の演奏で、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)。


アンドリュー・フォン・オーエンは、ドイツとオランダにルーツを持つアメリカのピアニスト。5歳でピアノを始め、10歳でオーケストラと共演という神童系である。名門コロンビア大学に学び、ジュリアード音楽院でピアノを修めた。アルフレッド・ブレンデルやレオン・フライシャーからも薫陶を受けている。1999年にギルモア・ヤング・アーティスト賞を受賞。レニ・フェ・ブランド財団ナショナル・ピアノ・コンペティションで第1位を獲得。アメリカとフランスの二重国籍で、ロサンゼルスとパリを拠点としている。

午後7時頃からのデイヴィッド・レイランドによるプレトーク(通訳:小松みゆき)でも、オーエンが、ロサンゼルスとパリを拠点とするピアニストであることが紹介されている。
プレトークでは他に作品の解説。共にロシアの作品で、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」はラヴェルの編曲なのでフランスの要素も入ってくるということを語る。組曲「展覧会の絵」は、ムソルグスキーが、若くして亡くなった友人のヴィクトル・ハルトマン(ガルトマン)の遺作の展覧会を見て回るという趣向の作品だが、ハルトマンの絵は今では見られなくなってしまったものが多いと語る(いくつかは分かっていて、ずっと前にNHKで特集が組まれたことがあった。その際、「ビィドロ」は牛が引く荷車ではなく、「虐げられた人々」という意味でつけられたことが判明していたりする)。最後の曲は「キエフの大門」(今回は、「キエフ(キーウ)の大門」という併記表現になっている)で、これは今演奏することに意味があるとレイランドは語る。キエフ(キーウ)は、現在、ロシアと交戦中のウクライナの首都。更に、レイランドは知らないかも知れないが、京都市の姉妹都市である。ロシアはそもそもキエフ公国から始まっており、ロシアにとっても特別な場所だ。「キエフ(キーウ)の大門」の絵は現物が残っている。その名の通り、キエフに建てられる予定だった大門のデザインのコンペティションに応募した時の作品なのだが、不採用となっている。

アンドリュー・フォン・オーエンのピアノは、音がクリアで、構築もしっかりしている。全曲ラフマニノフを並べていることからメカニックに自信があることが分かるが、難曲のラフマニノフを軽々と弾いていく感じだ。

第4番のロマンティシズム、第2番のスケールの豊かさ、第6番のリリシズム、第5番のリズム感といかにもラフマニノフらしい甘い旋律などを的確に表現していく。ロシアものにかなり合っているし、おそらくフランスものを弾いても出来は良いだろう。

アンコール演奏は、ラフマニノフの前奏曲作品32-12 嬰ト短調であった。これも好演。


デイヴィッド・レイランド指揮京都市交響楽団によるムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)。ピアノをはけさせるなど舞台転換があるため、まず管楽器や打楽器の奏者が登場し、最後に弦楽器の奏者が現れる。通常は一斉に登場して客席からの拍手を受けるのだが、今日は拍手をするタイミングはなかった。

デイヴィッド・レイランドは、ベルギー出身。ブリュッセル音楽院、パリのエコール・ノルマル音楽院、ザルツブルク・モーツァルティウム大学で学び、ピエール・ブーレーズ、デイヴィッド・ジンマン、ベルナルト・ハイティンク、ヨルマ・パヌラ、マリス・ヤンソンスに師事。イギリスの古楽器オーケストラであるエイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団の副指揮者として、サー・マーク・エルダー、ウラディーミル・ユロフスキ、サー・ロジャー・ノリントン、サー・サイモン・ラトルと活動している。ウラディーミル・ユロフスキだけはイギリス人ではなくロシア出身のドイツ国籍の指揮者だが、長年に渡ってロンドン・フィルの指揮者を務めており、名誉イギリス人的存在である。
ルクセンブルク室内管弦楽団の音楽監督を経て、現在はフランス国立メス管弦楽団(旧フランス国立ロレーヌ管弦楽団)と韓国国立交響楽団の音楽監督を務めるほか、スイスのローザンヌ・シンフォニエッタ首席客演指揮者としても活動している。

今日のコンサートマスターは、京響特別客演コンサートマスターの会田莉凡(りぼん)。フォアシュピーラーに泉原隆志。ドイツ式の現代配置での演奏。ヴィオラの客演首席に東条慧(とうじょう・けい。女性)が入る。サクソフォンの客演は崔勝貴(さい・しょうき)。
ハープの客演は朝川朋之。朝川は以前にも京響に客演していたが、日本では男性のハーピストは比較的珍しい。ヨーロッパではそもそも女性が楽団員になれないオーケストラも多かったので、男性ハーピストは普通である。今は指揮者として活躍している元NHK交響楽団の茂木大輔氏が、エッセイで、「ハープは女性には運搬が大変なので、男性にやらせたらどうか」という内容を書いており、その後なぜかハープ演奏がヤクザのしのぎの話になって、「ハープの演奏をする」が「しばいてくる」になったりしていた。
トランペットは首席のハラルド・ナエス、副首席の稲垣路子が揃い、曲はナエスの輝かしいトランペットソロで始まる。
京響は音に艶と輝きがあり、音のグラデーションが絶妙な変化を見せる。まさに虹色のオーケストラである。京響も本当に魅力的なオーケストラになった。

レイランドの指揮は簡潔にして明瞭。指揮の動きに合わせれば演奏出来る安心感があり、オーケストラの捌き方も抜群。どちらかというと音の美しさで聴かせるタイプで、ムソルグスキーというよりラヴェル寄りであるが、十二分に満足出来る水準に達していた。

演奏終了後、京響の楽団員はレイランドに敬意を表して立たず、レイランドはコンサートマスターの会田莉凡の手を取って立たせて、全楽団員にも立つよう命じていた。

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