これまでに観た映画より(352) 「グレース」
2024年11月6日 京都シネマにて
京都シネマで、ロシア映画「グレース(grace)」を観る。イリヤ・ポヴォロツキー監督作品。ウクライナ侵攻が始まる前の2021年秋に撮影されている。出演:マリア・ルキャノヴァ、ゲラ・チタヴァ、エルダル・サフィカノフ、クセニャ・クテポワほか。ロシア語の他に、バイカル語、ジョージア語が用いられている。なお、固有名詞を持った人物は登場しない、というより登場人物の名前は一人も明かされないと書いた方が分かりやすいだろか。
コーカサスの荒涼とした風景。中国映画でよくあるような冒頭付近のシーンである。赤いバンに乗って旅をする父娘。野外で映画の上映会を行ったり(多分、非合法)、裏ビデオをコピーして売りさばいたりして資金を稼いでいる(日本の商品はモザイクばかりで人気がないそうだ)。母親は他界しているが、それがいつのことなのかは分からない。チラシには娘(マリア・ルキャノヴァ)が16歳であることが書かれているが、映画では年齢は明かされない(娘が中年の女性から「あなた美人ね。何歳?」と聞かれる場面があるが答えない)。二人がいつからそんな生活をしているのかも示されない。娘は「海に行きたい」というがその理由はラストで明かされる。ただそれがどこの海なのかははっきりしない。この海と遠ざかる娘を捉えたラストシーンは印象的である。
映画の上映会で、娘は、「盗んだバイクで走」っている尾崎豊の歌の主人公のような同世代の少年(エルダル・サフィカノフ)と出会う。ちなみにバイクは父親が日本で盗んだものだそうだ。少年は設営を手伝っているが映画には興味を示さない。そしてどうやってなのかは分からないが、娘の後を追ってくる。
ポラロイドカメラでの撮影が趣味の娘。少年の後ろ姿もカメラに収める。
父親(ゲラ・チタヴァ)は観測所で仕事をしている中年女性(クセニャ・クテポワ)の家に泊めてくれるよう頼む。父親と中年女性が親しくなりつつあることに気づいた娘は、バンのフロントガラスにものをぶつけて飛び出してしまう。
ロードムービーである。特に目的地もなく彷徨う父娘は人生に迷っているようにも見える。セリフは少なく、説明もほとんどなく、様々な理由が明かされることもなく、淡々と時間の流れる映画である。ロシアの空は常に曇っており、映像にも明るさはほとんどない。
ドラマティックなこともほとんど起こらないが、流浪する父娘の「二人ぼっち」の孤独感がしんみり伝わってくる映画である。
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