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2024年11月26日 (火)

コンサートの記(871) カーチュン・ウォン指揮 兵庫芸術文化センター管弦楽団第155回定期演奏会 マーラー 交響曲第6番「悲劇的」

2024年11月9日 西宮北口の兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールにて

午後3時から、西宮北口の兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールで、兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオーケストラ)の第155回定期演奏会を聴く。指揮は、シンガポール出身の俊英、カーチュン・ウォン。

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日本フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者を務めるカーチュン・ウォン。日本各地のオーケストラに客演した後で、日フィルが彼を射止めた。今年の9月からはイギリスのマンチェスターに本拠地を置く名門、ハレ管弦楽団(歴代のシェフに、サー・ジョン・バルビローリ、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ、ケント・ナガノ、サー・マーク・エルダーら名を連ねる)の首席指揮者及びアーティスティック・アドバイザーにも就任し、更にヘルベルト・ケーゲルやミシェル・プラッソンとのコンビで知られたドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者も務めている。

1986年生まれ。若い頃にシンガポールのユースオーケストラや軍楽隊でトランペット奏者として活躍し、渡独してハンス・アイスラー音楽大学ベルリンのオーケストラ及びオペラ指揮の修士号を獲得。2016年に第5回マーラー指揮者コンクールで優勝し、以後、様々な国のオーケストラと共演を重ねている。私もこれまで、京都市交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団との実演に接している。

今日はマーラーの交響曲第6番「悲劇的」1曲勝負。演奏時間約80分という大作だが、格好いい上に、特殊な楽器の使用が視覚的にも面白さを生むため、比較的プログラムに載る回数は多めである。1990年代にプロゴルファーの丸山茂樹が出演した栄養ドリンクのCMに冒頭が使われていた。

兵庫芸術文化センター管弦楽団は、毎年世界各地で行われるオーディションで選ばれた比較的若めの演奏家が、最大3年間在籍してトレーニングを積み、羽ばたいていくという人材輩出型のオーケストラである。京都市交響楽団首席トランペット奏者のハラルド・ナエス、NHK交響楽団首席オーボエ奏者の吉村結実、大阪交響楽団首席フルート奏者の三原萌など、国内のオーケストラに多くの人材を送り出しているほか、海外のオーケストラで活躍するOBやOGも多い。海外で行われたオーディションに合格して入団する外国人プレーヤーも多く、「日本人しか在籍していないのが問題。多様な音楽が奏でられない」とされる日本のオーケストラに外国人演奏家を送り込む役割も担っている。

ただ、若い人達だけでは心許ないので、毎回、トップにはベテランを配する。今日のコンサートマスターは田野倉雅秋。おそらく第2ヴァイオリンの首席にゲスト・トップ・プレーヤーとして戸上眞理(京都市立芸術大学准教授、元東京フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)。ヴィオラのゲスト・トップ・プレーヤーに、関西フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席、神戸市立室内管弦楽団奏者の中嶋悦子。チェロのゲスト・トップ・プレーヤーに京都市立芸術大学准教授で神奈川フィルハーモニー管弦楽団特別首席の上森祥平(うわもり・しょうへい)。コントラバスのゲスト・トップ・プレーヤーに京都市交響楽団首席の黒川冬貴。オーボエのスペシャル・プレーヤーに新日本フォルハーモニー交響楽団首席の神農広樹(しんの・ひろき)。クラリネットのスペシャル・プレーヤーにロバート・ボルショス(名古屋フィルハーモニー交響楽団首席)。ホルンのスペシャル・プレーヤーに五十畑勉(いそはた・つとむ。東京交響楽団奏者)。トランペットのスペシャル・プレーヤーにオッタビアーノ・クリストーフォリ(日本フィルハーモニー交響楽団ソロ・トランペット奏者)。ティンパニのエキストラ・プレーヤーに京都市交響楽団打楽器首席の中山航介らが加わっている。この中にはPAC出身者も多く含まれる。


ヴァイオリン両翼の古典配置での演奏。第4楽章でハンマーで叩かれる台は下手の高いところに置かれているのだが、私は今日は下手寄りの最前列であったため、コントラバス奏者達の陰に隠れて、台やハンマーを見ることは出来なかった。


才気溢れる音楽作りが特徴のカーチュン・ウォン。今日は指揮棒の動きも鋭く、オーケストラから上手く音を掬い上げる。オーケストラの団員もかなり演奏しやすいはずである。

明るく輝かしい音色をカーチュンはPACから引き出すが、そのため却って悲劇的な要素(悲劇の音型ともいえる、「タンタタン、タタンタンタン」など)との対比が鮮やかになる。今日は最前列で聴いていたので、マスとして響きは分かりにくかったのだが、特に弦楽はキレキレであり、マーラーが音に込めた細やかな機微まではっきりと伝わってきた。
なお、「悲劇的」は第2楽章と第3楽章をどうするかという問題がある。マーラー自身も「スケルツォ」と「アンダンテ」のどちらを先に演奏するかの結論は出せなかったが、慣例としては1963年に出版されたスコアの、「スケルツォ」→「アンダンテ」の順番で演奏されていたが、今回は2003年版の「アンダンテ」→「スケルツォ」の順に則って演奏が行われた。
楽章の順番によって印象が異なるわけだが、個人的には「アンダンテ」→「スケルツォ」の方がしっくり来るように思う。あくまで好みの問題である。

PACオーケストラは長年在籍する楽団員が存在しないため、オーケストラとしての個性はほとんどないが、その分、指揮者の個性が反映されやすい。やはりカーチュンの指揮ということで、明晰さや鋭さ、細やかさやしなやかさ、巧みなオーケストラ捌きが目立つ。おそらく、カーチュンはマーラーよりもブルックナーの方が似合う指揮者だと思われるが、マーラーも作曲者の戦きや失意などを的確に表現していたように思う。オーケストラにもっとパワーがあればそうした要素も更にはっきりと出たと思われるのだが、PACも好演だった。
なお、この曲はコントラバスが重要な役割を果たすのだが、今日は古典配置ということでコントラバスは目の前。音の動きをはっきりと追うことが出来た。

ハンマーの回数は2回。ということで希望が残ったような印象であった。

 

今日は、カーテンコールのみ写真撮影可。ただ余り良い写真は撮れなかった。

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