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2024年11月 4日 (月)

観劇感想精選(474) NODA・MAP第27回公演「正三角関係」

2024年9月19日 JR大阪駅西口のSkyシアターMBSにて観劇

午後7時から、JR大阪駅西口のSkyシアターMBSで、NODA・MAP第27回公演「正三角関係」を観る。SkyシアターMBSオープニングシリーズの1つとして上演されるもの。
作・演出・出演:野田秀樹。出演:松本潤、長澤まさみ、永山瑛太、村岡希美、池谷のぶえ、小松和重、竹中直人ほか。松本潤の大河ドラマ「どうする家康」主演以降、初の舞台としても注目されている。
衣装:ひびのこずえ、音楽:原摩利彦。

1945年の長崎市を舞台とした作品で、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』と、長崎原爆が交錯する。「欲望という名の電車」も長崎に路面電車が走っているということで登場するが、それほど重要ではない。

元花火師の唐松富太郎(からまつ・とみたろう。『カラマーゾフの兄弟』のドミートリイに相当。松本潤)は、父親の唐松兵頭(ひょうどう。『カラマーゾフの兄弟』のフョードルに相当。竹中直人)殺しの罪で法廷に掛けられる。主舞台は長崎市浦上にある法廷が中心だが、様々な場所に飛ぶ。戦中の法廷ということで、法曹達はNHK連続テレビ小説「虎に翼」(伊藤沙莉主演)のような法服(ピンク色で現実感はないが)を着ている。
検察(盟神探湯検事。竹中直人二役)と、弁護士(不知火弁護士。野田秀樹)が争う。富太郎の弟である唐松威蕃(いわん。『カラマーゾフの兄弟』のイワン=イヴァンに相当。永山瑛太)は物理学者を、同じく唐松在良(ありよし。『カラマーゾフの兄弟』のアレクセイ=アリョーシャに相当。長澤まさみ)は、神父を目指しているが今は教会の料理人である。
富太郎は、兵頭殺害の動機としてグルーシェニカという女性(元々は『カラマーゾフの兄弟』に登場する悪女)の名前を挙げる。しかし、グルーシェニカは女性ではないことが後に分かる(グルーシェニカ自体は登場し、長澤まさみが二役、それも早替わりで演じている)。

『カラマーゾフの兄弟』がベースにあるということで、ロシア人も登場。ロシア領事官ウワサスキー夫人という噂好きの女性(池谷のぶえ)が実物と録音機の両方の役でたびたび登場する。また1945年8月8日のソビエトによる満州侵攻を告げるのもウワサスキー夫人である。

戦時中ということで、長崎市の上空を何度もB29が通過し、空襲警報が発令されるが、長崎が空襲を受けることはない。これには重大な理由があり、原爆の威力を確認したいがために、原爆投下候補地の空襲はなるべく抑えられていたのだ。原爆投下の第一候補地は実は京都市だった。三方を山に囲まれ、原爆の威力が確認しやすい。また今はそうではないが、この頃はかつての首都ということで、東京の会社が本社を京都に移すケースが多く見られ、経済面での打撃も与えられるとの考えからであった。しかし京都に原爆を落とすと、日本からの反発も強くなり、戦後処理においてアメリカが絶対的優位に立てないということから候補から外れた(3発目の原爆が8月18日に京都に落とされる予定だったとする資料もある)。この話は芝居の中にも登場する。残ったのは、広島、小倉、佐世保、長崎、横浜、新潟などである。

NODA・MAPということで、歌舞伎を意識した幕を多用した演出が行われる。長澤まさみが早替わりを行うが、幕が覆っている間に着替えたり、人々が周りを取り囲んでいる間に衣装替えを行ったりしている。どのタイミングで衣装を変えたのかはよく分からないが、歌舞伎並みとはいえないもののかなりの早替わりである。

物理学者となった威蕃は、ある計画を立てた。ロシア(ソ連)と共同で原爆を作り上げるというものである。8月6日に広島にウランを使った原爆が落とされ、先を越されたが、すぐさま報復としてニューヨークのマンハッタンにウランよりも強力なプルトニウムを使った原爆を落とす計画を立てる。しかしこれは8月8日のソビエト参戦もあり、上手くいかなかった。そしてナガサキは1945年8月9日を迎えることになる……。

キャストが実力派揃いであるため、演技を見ているだけで実に楽しい。ストーリー展開としては、野田秀樹の近年の作品としては良い部類には入らないと思われるが、俳優にも恵まれ、何とか野田らしさは保たれたように思う。

NODA・MAP初参加となる松潤。思ったよりも貫禄があり、芝居も安定している。大河の時はかなりの不評を買っていたが、少なくとも悪い印象は受けない。

野心家の威蕃を演じた永山瑛太は、いつもながらの瑛太だが、その分、安心感もある。

長澤まさみは、今は違うが若い頃は、長台詞を言うときに目を細めたり閉じたりするという癖があり、気になっていたが、分かりやすい癖なので誰かが注意してくれたのだろう。あの癖は、いかにも「台詞を思い出しています」といった風なので、本来はそれまでに仕事をした演出家が指摘してあげないといけないはずである。主演女優(それまでに出た舞台は2作とも主演であった)に恥をかかせているようなものなのだから避けないといけなかった。ただそんな長澤まさみも舞台映えのする良い女優になったと思う。女優としては、どちらかというと不器用な人であり、正直、好きなタイプの女優でもないのだが、評価は別である。大河ドラマ「真田丸」では、かなり叩かれていたが、主人公の真田信繁(堺雅人)が入れない場所の視点を担う役として頑張っていたし、何故叩かれるのかよく分からなかった。

竹中直人も存在感はあったが、重要な役割は今回は若手に譲っているようである。
たびたび怪演を行うことで知られるようになった池谷のぶえも、自分の印を確かに刻んでいた。


カーテンコールは4度。3度目には野田秀樹が舞台上に正座して頭を下げたのだが、拍手は鳴り止まず、4回目の登場。ここで松潤が一人早く頭を下げ、隣にいた永山瑛太と長澤まさみから突っ込まれる。
最後は、野田秀樹に加え、松本潤、長澤まさみ、永山瑛太の4人が舞台上に正座してお辞儀。ユーモアを見せていた。

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