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2024年11月30日 (土)

コンサートの記(872) 鈴木雅明指揮 京都市交響楽団第695回定期演奏会

2024年11月16日 京都コンサートホールにて

午後2時30分から、京都市交響楽団の第695回定期演奏会を聴く。指揮は鈴木一族の長である鈴木雅明。
本来は京響の11月定期は、常任指揮者である沖澤のどかが指揮する予定だったのだが、出産の予定があるということで、かなり早い時点でキャンセルが決まり、代役も大物の鈴木が務めることになった。

今日の演目は、モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏:ジョシュア・ブラウン)、ドヴォルザークの交響曲第6番。


日本古楽界の中心的人物である鈴木雅明。古楽器の指揮や鍵盤楽器演奏に関しては世界的な大家である。神戸市生まれ。1990年にバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)を創設。以降、バッハ作品の演奏や録音で高い評価を得ている。なお、レコーディングは神戸松蔭女子学院大学の講堂で行われ、鈴木も神戸松蔭女子学院大学の客員教授を務めているが、神戸松蔭女子学院大学は共学化が決定している。難関大学ではないが、良家のお嬢さんが通う外国語教育に強い女子大学として知られた神戸松蔭女子学院大学も定員割れが続いており、来年度からの共学化に踏み切った。
モダンオーケストラにも客演しており、ベルリン・ドイツ交響楽団、ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、フランクフルト放送交響楽団(hr交響楽団)、ニューヨーク・フィルハーモニック、サンフランシスコ交響楽団といった世界各国の名門オーケストラを指揮している。
東京藝術大学作曲科およびオルガン科出身(二度入ったのだろうか?)。古楽の本場、オランダにあるアムステルダム・スウェーリンク音楽院にも学ぶ。藝大の教員として、同校に古楽科を創設してもいる。現在は東京藝術大学名誉教授。


午後2時頃より、鈴木雅明によるプレトークがある。「今日の指揮者である鈴木雅明です。というわけで、今日の指揮者は沖澤のどかではありません。期待されていた方、残念でした」に始まり、楽曲解説などを行う。
歌劇「ドン・ジョヴァンニ」については、「おどろおどろしい。お化け屋敷のような」ところが魅力でありと語り、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲については、「モーツァルトの次にベートーヴェンという王道。最も有名なヴァイオリン協奏曲の一つなのですが」ティンパニの奏でる音が全曲のモチーフとなること、またベートーヴェン自身はカデンツァを書き残していないと説明。ただベートーヴェンはヴァイオリン協奏曲をピアノ協奏曲に編曲してあり、ピアノ向けにはカデンツァを書いているので、それをヴァイオリン用にアレンジして弾くこともあると紹介していた。
ヨーロッパなどでは王道の曲は「飽きた」というので、プログラムに載ることが少なくなったそうだが、その分、ドヴォルザークの交響曲第6番のような知られざる曲が取り上げられることも増えているようだ。ドヴォルザークの初期交響曲は出版されるのが遅れており、私の小学校時代の音楽の教科書にも「新世界」交響曲は第5番と記されていた。後期三大交響曲(その中でも交響曲第7番は知名度は低めだが)以外は演奏される機会は少ないドヴォルザークの交響曲。今日を機会にまた演奏出来るといいなと鈴木は語った。
鈴木が京都コンサートホールを訪れるのは久しぶりだそうで、リハーサルの時に「あれ、こんな音の良いホールだったっけ?」と驚いたそうだが(ステージを擂り鉢状にするなど色々工夫して音響は良くなっている)、パイプオルガンに中央にないのが不思議とも語ってた。一応であるが、演奏台は中央にある。


今日はヴァイオリン両翼の古典配置での演奏。モーツァルトとベートーヴェンでは中山航介がバロックティンパニを叩く。
コンサートマスターは、京響特別客演コンサートマスターの「組長」こと石田泰尚。フォアシュピーラーに泉原隆志。今日はソロ首席ヴィオラ奏者の店村眞積が乗り番。一方で、管楽器の首席奏者はドヴォルザークのみの出演となる人が大半であった。
首席奏者の決まらないトロンボーンは、京響を定年退職した岡本哲が客演首席として入る。
京響は様々なパートの首席が決まらず、募集を行っている状態である。


モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲。全面的に、H.I.P.を用いた演奏である。
鈴木雅明は音を丁寧に積み上げる指揮。音響が立体的であり、建築物を築き上げるような構築力が特徴である。息子の鈴木優人は流れ重視の爽やかな音楽を奏でるタイプなので、親子とはいえ、音楽性は異なる。
総譜を見ながらノンタクトでの指揮。総譜は置くが暗譜していてほとんど目をやらない指揮者も多いが、鈴木は要所を確認しながら指揮していた。


ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。
ヴァイオリン独奏のジョシュア・ブラウンは、アメリカ出身の若手。シカゴ音楽院を経て、現在はニューイングランド音楽院で、学士号修士号獲得後のアーティスト・ディプロマを目指す課程に在籍している。今年ブリュッセルで開催されたエリザベート王妃国際コンクール・ヴァイオリン部門で2位に入賞し、聴衆賞も獲得している。
北京で開催された2023年グローバル音楽教育連盟国際ヴァイオリンコンクール第1位、レオポルト・モーツァルト国際ヴァイオリンコンクールでも第1位と聴衆賞を得ている。

ブラウンは美音家で、スケールを拡げすぎず、内省的な部分も感じさせつつ伸びやかなヴァイオリンを奏でる。ベートーヴェンということで情熱的な演奏をするヴァイオリニストもいるが、ブラウンは音そのもので勝負するタイプで、大言壮語しない小粋さを感じさせる。
鈴木雅明の指揮する京響はベートーヴェンの構築力の堅固さを明らかにする伴奏で、ブラウンのソロをしっかり支える。重層的な伴奏である。

ブラウンのアンコール演奏は、J・S・バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番よりラルゴ。生まれたばかりの朝のようなイノセントな演奏であった。


ドヴォルザークの交響曲第6番。演奏会で取り上げられることは少ないが、スラヴ的な味わいのある独特の交響曲である。ドヴォルザークの傑作として「スラヴ舞曲」を挙げる人は多いと思われるが、そのスラヴ舞曲の交響曲版ともいうべきメロディーの美しい交響曲である。ただ構築や構造において交響曲的要素が薄いということが知名度が低い理由になっていると思われる。
旋律において、マーラーとの共通点を見出すことも出来る。第1楽章の終結部などは、マーラーの交響曲第1番「巨人」第2楽章のリズムを想起させる。マーラーはボヘミア生まれのユダヤ人で主にオーストリアで活躍という人で、自身のアイデンティティに悩んでいたが、幼い頃に触れたボヘミアの旋律が原風景になっている可能性は高いと思われる。
鈴木と京響は歌心に満ちた演奏を展開。音色は渋く、密度も濃い。かなり情熱的な演奏でもある。意外だったのはブラスの強烈さ。ティンパニと共にかなりの力強さである。通常ならここまでブラスを強く吹かせると全体のバランスが大きく崩れるところだが、そこは鈴木雅明。うるさくもなければフォルムが揺らぐこともない。結果として堂々たる演奏となった。

鈴木は、オーケストラを3度立たせようとしたが、京響の楽団員は鈴木を讃えて立たず、鈴木は指揮台に上って、一人喝采を浴びていた。

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