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2024年12月 8日 (日)

これまでに観た映画より(357) National Theatre Live 「プライマ・フェイシィ」

2024年11月11日 大阪の扇町キネマにて

大阪の扇町キネマで、National Theatre Live「プライマ・フェイシィ」を観る。イギリスのナショナル・シアターが上演された演劇作品を映画館で上映するシリーズ作品。今回は、2022年4月15日から6月18日まで、ロンドン・ウエストエンドのハロルド・ピンター劇場で行われたジョディ・カマーの一人芝居「プライマ・フェイシィ」が上映される。作:スージー・ミラー、演出:ジャスティン・マーティン。ジャスティン・マーティンは、「ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~」などを手掛けたスティーブン・ダルドリーと長年に渡ってコラボレーションを組んできた人だという。

初の扇町キネマ。京都市内にも映画館は多く、大抵は京都の映画館で済んでしまうため、大阪市内の映画館には入ること自体が二度目である。

作者のスージー・ミラーは、オーストラリアのメルボルン出身で、オーストラリアの弁護士からイギリスの劇作家に転身したという異例の人である。この「プライマ・フェイシィ」も女性弁護士が主人公となっている。「プライマ・フェイシィ」の初演は2019年、オーストラリア・シドニーのグリフィン・シアターで行われている。

非常にセリフの量が多く、上演時間は休憩なしの2時間ほどだが、その間、ずっと喋りっぱなしのような状態である。物語は全てセリフで説明される。

女性弁護士のテッサ(ジョディ・カマー)は、性的暴行を受けた若い女性の弁護を法廷で行っている。テッサはわざと隙を作って、そこに相手を誘い込むという手法を得意としているようだ。テッサはリヴァプールで清掃業を営む労働者階級の出身であり(初演時はオーストラリアが舞台だったが、演じるジョディ・カマーがリヴァプール出身ということで設定が変わった)、公立のハイスクールを出たが、ケンブリッジ大学法学部の法科大学院(ロースクール)に進んでいる。オックスフォード大学と並ぶ世界最高峰の名門であるケンブリッジ大学の法科大学院といえど、イギリスの法曹資格を得るのは容易ではないようで、合格するのは10人に1人程度の狭き門であるようだ。ちなみに同級生にはやはり育ちの良い子が多かったようで、知り合いの多くは私立高校やパブリックスクール出身である。

テッサは、小さな弁護士事務所に勤めているのだが、大手の弁護士事務所からも誘いがある。

弁護士仲間とも上手くやっていたが、ある日、やはり弁護士のジュリアン・ブルックスと事務所内で情事に及ぶ。その後、ジュリアンとは親しくなり、日本食レストランで食事をし、日本酒(「サキ」と発音される)を飲み、テッサのアパートに移ってワインなどを空け、この日も情事に及ぶのだが、テッサはその後、吐き気がしてトイレでもどしていた。そこにジュリアンがやってきてテッサをベッドまで抱え、テッサが望まぬ二度目のことに及ぶ。テッサは「これはレイプだ」と傷つき、自身のアパートを飛び出す。雨の日でずぶ濡れになったテッサはタクシーを拾い、最寄りの警察署に言って欲しいと告げる。

それから782日が経過した。ジュリアンはその後、婦女暴行で逮捕され、審判の日を迎えることになったのだ。だが、その間、テッサが失ったものは余りに多かった。

刑事法院に原告として証言台に立ったテッサは、不快な記憶を辿る必要がある上に、様々な矛盾を指摘される。俗に言う「セカンドレイプ」である。「両手を抑えられていたのに、口も塞がれたなんてどうやったんだ?」と痛いところを突かれる。テッサは、ジュリアンが片手でテッサの両手を抑えて、片手で口を塞いだことを思い出すのだが、レイプ体験の証言ということで、どうしても頭が混乱してしまい、その場では上手く証言出来ない。法律は全て家父長的な精神の下で男性が作ったものであり、男性に有利に出来ているとテッサは告発する。「法への信念」を抱いてきたテッサの失望である。
更に、テッサがスカウトされ、現在所属している大手弁護士事務所は、ジュリアンなど複数の弁護士に誘いを掛けており、最終候補に残ったのがテッサとジュリアンの二人だった。テッサはそれを知らなかったのだが、「ジュリアンを追い落とそうとしたのでは」との疑いを掛けられる。

「魂の殺人」とも言われる強姦。女性の3人に1人が被害に遭っているという統計もあるが、被害者が基本的に混乱に陥っているということもあって立証は難しく、この劇での被告であるジュリアンも無罪となっている。
敗れたテッサだが、被害者の一人としていずれ法が変わり、多くの女性が救われる日が来ることを願う。そして、この芝居のためにセルフ・エステーム(レベッカ・ルーシー・テイラー)が書き下ろした「私が私でいられる完全な自由」を求める歌によって締められる。

1993年生まれと若いジョディ・カマーは、普段はテレビドラマを主戦場としている人のようだが、膨大な量のセリフを機関銃のように吐き出すという迫力のある演技を見せる。彼女は「プライマ・フェイシィ」で、イブニング・スタンダード演劇賞と、権威あるローレンス・オリヴィエ賞最優秀主演女優賞を獲得している。ニューヨーク・ブロードウェイ公演ではトニー賞最優秀主演女優賞にも輝いた。
作品自体もローレンス・オリヴィエ賞の最優秀新作プレイ賞を受賞している。

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