これまでに観た映画より(358) 「BACK TO BLACK エイミーのすべて」
2024年11月27日 京都シネマにて
京都シネマで、イギリス・フランス・アメリカ合作映画「BACK TO BLACK エイミーのすべて」を観る。27クラブのメンバーとなってしまったイギリスのシンガーソングライター、エイミー・ワインハウスの人生を描いた作品である。監督:サム・テイラー=ジョンソン。脚本:マット・グリーンハルシュ、出演:マリア・アベラ、ジャック・オコンネル、エディ・マーサン、ジュリエット・コーワン、サム・ブキャナン、レスリー・マンヴィルほか。
27クラブの説明から行いたい。英語圏では27歳で早逝するミュージシャンが多く、この不吉な年齢で亡くなった場合、「27クラブに入った」と見なされる。27歳は若いので、自然死や病死の人は少なく、オーバードーズや自殺など、世間から見て「良くない」とされる死に方をしている人が大半である。エイミー・ワインハウスも急性アルコール中毒で、一応、病気の範疇には入るが、つまりは酒の飲み過ぎで、自ら死を招いている。
27クラブの主なメンバーには、ジミ・ヘンドリックス(変死)、ジャニス・ジョプリン(オーバードーズ)、ジム・モリソン(心臓発作であるがオーバードーズの可能性が高い)、カート・コバーン(自殺)がいる。
「私の歌を聴くことで現実を5分だけでも忘れることが出来たら」との思いで歌い続けるエイミー・ワインハウス(マリア・アベラ)。音楽好きの一家の生まれ、に見えるのだが、すでに両親は別居していることが分かる。演劇学校に合格し、入学当初は「ジュディ・ガーランドの再来」などと期待されるも素行不良で退学に。煙草と酒が好きでドラッグにも手を出すなど、かなりだらしない人という印象も受ける。特にアルコールには目がなかったようで、酒を飲みながらライブを行うシーンがある。
この映画では描かれていないが、エイミーは、酩酊したまま舞台に上がり、ほとんどまともに歌えないまま本番を終えて、「史上最悪のコンサート」とこき下ろされたライブを行っている。これを「笑っていいとも」でタモリが紹介しており、「エイミー・ワインハウスという名前で、ワインが入っているから」と笑い話にしていたが、結果的にこの「史上最悪のコンサート」がエイミーのラストライブとなったようである。
若い頃にジャズシンガーをしていて、音楽に理解のあった祖母のシンシア(レスリー・マンヴィル)と仲が良かったエイミーだが、この祖母にすでに癌に侵されていることを告げられ、彼女が他界するといよいよ歯止めが利かなくなっていったようである。
歌手としてデビュー後に出会ったブレイク(ジャック・オコンネル)と恋仲になり、胸にブレイクの名のタトゥーを入れるエイミー。しかし、その後、ブレイクとは別れることになる。祖母のシンシアが他界した時も、エイミーは腕にシンシアのタトゥーを入れている。
ブレイクとの別れを歌った曲が、映画のタイトルにもなっている「BACK TO BLACK」である。この曲での成功により、エイミーとブレイクはよりを戻す。コンサートで、結婚したことを発表するエミリー。しかし、どうにも駄目なところのある二人は上手くいかず、ブレイクは暴行罪で逮捕。スターとなっていたエイミーはパパラッチに追い回されることになる。更にブレイクからは、「共依存の状態にあるのは良くない」と別れを切り出される。
ダイアナ妃が事故死した際も問題になったが、英国のパパラッチは相当に悪質でエイミーを精神的に追い詰めていく。そしてエイミーもそれほど強い女性には見えない。何かにつけ、依存する傾向がある。エイミーはリハビリのための施設に入ることを選択する。
そんな中でグラミー賞において6部門においてノミネートされ、5部門で受賞するという快挙を達成。しかしそれが最高にして最後の輝きとなった。
以後もリハビリを続けたエイミーだが、映画では描かれなかった「史上最悪のコンサート」などを経て、同じ年にロンドンの自宅で遺体となって発見される。享年27。27クラブへの仲間入りだった。生前、エイミーは27クラブに入ることを恐れていたと言われている。自堕落な生活に不安もあったのだろう。
才能がありながらいい加減な生活を送って身を滅ぼした愚かな女で済ませることも出来なくはない。だが彼女の人生には人間が本来抱えている弱さと、周囲の容赦のなさが反映されているように思える。あそこまでされると生きる気力をなくす人も多いだろう。親族と親密な関係を築けたのがせめてもの幸いだろうか。
ライブシーンなども多く、マリサ・アベラ本人によると思われる歌唱も臨場感があって、イギリスの一時代を彩った歌姫の世界を間接的にではあるが味わうことが出来る。
エイミーの姿が悲惨なので、好まない人もいるかも知れないが、音楽映画として優れているように思う。
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