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2025年2月16日 (日)

これまでに観た映画より(377) 松たか子&松村北斗「ファーストキス 1ST KISS」

2025年2月13日 TOHOシネマズ二条にて

TOHOシネマズ二条で、日本映画「ファーストキス 1ST KISS」を観る。松たか子主演作だが、実質的には松たか子&松村北斗の松&松コンビW主演作である。出演は他に、吉岡里帆、リリー・フランキー、森七菜、YOU、鈴木慶一、神野美鈴(かんの・みすず)ほか。脚本:坂元裕二、監督:塚原あゆ子。

坂元裕二脚本で、松たか子と吉岡里帆が出演というと、吉岡の出世作ともなった連続ドラマ「カルテット」を思い出すが、今回は絡みは少ない。基本的に主役二人のみが主軸となった作品である。特に松たか子演じる硯カンナが物語の全ての鍵を握っていると行っても過言ではない。

2024年7月10日。東京都三鷹市内の駅で、硯駈(すずり・かける。松村北斗)がプラットホームから落ちたベビーカーを救おうとして、救出には成功したものの命を落とした。その日、駈は早めに仕事を終え、妻のカンナ(松たか子)との離婚届を役所に提出するつもりであった。

硯カンナは、演劇の舞台スタッフをしている。仕込みやバラシだけではなく、本番中に俳優が小道具のピストルを忘れたとなると、キャットウォークを伝って届けに行くという何でも屋だ。以前はデザインの仕事をしていたようだが、舞台美術などには携わっていないようである。

硯とカンナ(旧姓は高畑=「たかばたけ」)が出会ったのは、2009年の8月1日である。具体的な場所は詳しくは分からないが、山梨県内のホテルであることは確かだ。それ以来、愛を育み、結婚し、しばらくは上手くやっていたのだが、次第にすれ違いが増え、最近は、朝食も各々準備をして別の部屋で食べるという有り様(駈は和食、カンナはトースト)。遂に離婚を決意したのだった。
しかし、駈が亡くなってもカンナは左手薬指の指輪を外していない。

駈は自らの命と引き換えにベビーカーの子を守った英雄だとしてテレビドラマ化の話なども舞い込むが、カンナは「赤の他人を助けるのと身内を助けるのとどちらが大切なんでしょう? 赤の他人を助けるのが英雄なんですか?」と相手にしない。

ある日、深夜に仕事の依頼があり、首都高を走っていたカンナは三宅坂付近で事故を起こし、2009年8月1日にタイムスリップする。
その日、高畑カンナは、自らがデザインを手掛けた鐘の披露のために山梨県内のホテルを訪れていた。学会で同じホテルにいた駈とはそこで出会うこととなる。
駈は古生物が専門で、大学で助手をしており、天馬教授(リリー・フランキー)のお供としてやって来ていたのだ。天馬には里津という妙齢の娘(吉岡里帆)がいる。
この後、駈はカンナと結婚するために実入りの少ない大学助手を辞して、ハードなことで知られるが給料は高い不動産会社に入社することになる。カンナも売れないデザイナーから舞台スタッフに転身した。

車で三宅坂に行くとタイムスリップするようで、「ハリー・ポッター」シリーズや、浅田次郎の小説『地下鉄(メトロ)に乗って』(堤真一主演で映画化済み)を連想させるような作品。藤子・F・不二雄の「未来の想い出」も思い起こされるなど、ありがちな設定ではある。

カンナは、駈が死なないように、何とか未来を変えようと何度も何度も奔走。時には自分を魅力的に見せるために不似合いな場所でわざと露出の多いドレスを着たり、逆に自分を嫌いになるように仕向けたりと、あらゆる手段を用いる。その過程が笑えたりもする。

自分と結婚しなければ駈は死なないと悟ったカンナは、里津と駈を結婚させようとする。大学教授の娘である里津と結婚すれば駈も研究をやめる必要もなくなるし、若くして死ななくても済む。もはや自己犠牲だが、小さな女の子からも見抜かれるほど、駈はカンナに惹かれている(「おばさん、違うよ、その人が好きなのおばさんだよ。教授の小娘なんて相手にしてないよ」)。
最終手段に出るが、結局のところ別の惨事が起こることが分かり……。

しかし、目の前にいる人が15年間付き合うことになる女性だと知った駈は、カンナが想像していない選択を行うのだった。


ファンタジーとしてはまあまあ合格点のレベルで、十分に楽しめると思う。かなり都合の良い話のようにも思えるが、エンターテインメントなので多くを求めても仕方がない。
ラストも他の多くのファンタジーと同じようなものだが、「人間のなせることなどたかが知れている」という点においては納得がいく。ただ二度目の結婚生活が一度目よりも上手くいったのは、駈が45歳のカンナに会って学んだからだろう。駈がカンナに残したラブレターも感謝の気持ちに溢れていて良い。どんな形であったにせよ、二人は幸せな日々を過ごしたのだ。

ストーリーよりも驚かされたのは、松たか子の変身ぶり。二十代の頃のカンナを演じるための若作りを行うのだが、本当に若く見える。「ロングバケーション」の奥沢涼子(密かにピアニストの深沢亮子が名前の由来ではないかとにらんでいるのだが)が蘇ったかのようだ。ロングヘアにし、眉を細くして、声も少し高め(上の歯の裏に息を当てるようにして発音すると声は高くなる)にし、仕草も変えているのだが、それだけで15歳も若返って見えるのは不思議である。おそらく順撮りではなく、45歳のカンナのシーンを全部撮ってから、眉毛を細く整えて、若い頃のカンナの場面を撮影したのだと思われるのだが、それにしても見事な化けっぷりである。
2024年のカンナと2009年の駈が夜道を歩くシーンがあり、「15年後には、なんでも『ヤバイ』で表現するようになっている」とカンナは駈に語るのだが、松たか子の変身ぶりが一番「ヤバイ」と思う。

演技であるが、出演者は皆達者。安心して楽しめる。松村北斗は旧ジャニーズ出身者であり、今もSixTONESのメンバーとして後継事務所に所属しているのだが、良い意味で素朴さがあり、ジャニーズらしさがない。
吉岡里帆もいい年だし、映画でもテレビドラマでも舞台でもいいから、そろそろ誰もが知るような代表作と言える作品が欲しくなるが。演技は安定感があるし、彼女ならではの個性にも欠けてはいない。出演作は目白押しのようなので期待したい。

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