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2025年2月15日 (土)

コンサートの記(887) 下野竜也指揮 第20回 京都市ジュニアオーケストラコンサート

2025年1月25日 京都コンサートホールにて

午後2時から、京都コンサートホールで、第20回 京都市ジュニアオーケストラコンサートを聴く。今回の指揮者は下野竜也。

ジュニアオーケストラとしては日本屈指の実力を誇る京都市ジュニアオーケストラ。2005年に創設され、2008年から2021年までは広上淳一がスーパーヴァイザーを務めたが、現在はそれに相当する肩書きを持つ人物は存在しない。10歳から22歳までの京都市在住また通学の青少年の中からオーディションで選ばれたメンバーによって結成されているが、全員が必ずしも音楽家志望という訳ではないようである。今年は小学生のメンバーは6年生が一人いるだけ。一番上なのは大学院1回生であると思われるが、「大卒」という肩書きのメンバーも何人かいて、同年代である可能性が高い。専攻科在籍者も院在籍者と同年代であろう。また「高卒」となっている団員もいるが、大学浪人中なのか、正社員として働いているのかフリーターなどをしているのか、あるいはすでに音楽の仕事に就いているのかは不明である。またOBやOGが何人か参加。彼らは少し年上のはずである。パート指導は京都市交響楽団のメンバーが行っている。

 

曲目は、前半が、バッハ=エルガーの「幻想曲とフーガ」ハ短調 BWV537、アルチュニアンのトランペット協奏曲(トランペット独奏:ハラルド・ナエス)。後半がフランクの交響曲ニ短調。アルチュニアンのトランペット協奏曲もフランクの交響曲も主題が回帰するという同じ特性を持っているため、プログラムに選ばれたのだと思われる。

今回のコンサートマスターは、前半が森川光、後半が嶋元葵。共に男女共用の名前の二人だが、森川光は男性、嶋元葵は女性である。嶋元葵は前半に、森川光は後半にそれぞれ第2ヴァイオリン首席奏者を務める。

 

ここ数年は毎年のようにNHK大河ドラマのテーマ曲の指揮を手掛けている下野竜也。今年の「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」のテーマ音楽も指揮している(昨年の大河である「光る君へ」のテーマ音楽は広上淳一が指揮)。現在は、NHK交響楽団正指揮者、札幌交響楽団首席客演指揮者、広島ウインドオーケストラ音楽監督の地位にあり、音楽総監督を務めていた広島交響楽団からは桂冠指揮者の称号を得ている。京都市交響楽団でも師の一人である広上淳一の時代に常任客演指揮者を経て常任首席客演指揮者として活躍していた。京都市立芸術大学音楽学部の教授を経て、現在は東京藝術大学音楽学部と東京音楽大学で後進の指導に当たっている。

 

午後1時10分頃からロビーコンサートがあり、ジョルジュ・オーリックやヘンデル、モーツァルトなどの曲が演奏された。

 

バッハ=エルガーの「幻想曲とフーガ」ハ短調 BWV。J・S・バッハの曲をエルガーが20世紀風に編曲したものである。
京都市ジュニアオーケストラは、音の厚みこそないが、輝きや透明感に溢れ、アンサンブルの精度も高い。バッハの格調高さとエルガーのノーブルさが合わさったこの曲を巧みに聴かせた。

 

アルチュニアンのトランペット協奏曲。
アレクサンドル・アルチュニアン(1920-2012)は、アルメニアの作曲家。自国の民族音楽を取り入れた親しみやすい作風で知られているという。
トランペット独奏のハラルド・ナエスは、ノルウェー出身。ノルウェー国立音楽院を卒業し、母国や北欧のオーケストラ、軍楽隊などで活躍した後に兵庫芸術文化センター管弦楽団に入団。京都市交響楽団のオーディションに合格して、現在は同楽団の首席トランペット奏者を務めている。日本に長く滞在しているため、日本語も達者で、自己紹介の時は「ナエス・ハラルド」と日本風に姓・名の順で名乗っている。
アルメニア出身のアルチュニアンであるが、作風はアルメニアを代表する作曲家であるハチャトゥリアンよりもショスタコーヴィチに似ている。諧謔性と才気に満ちた音楽である。ハラルド・ナエスは、輝かしい音によるソロを披露した。
下野指揮する京都市ジュニアオーケストラの伴奏もしっかりしたものである。

 

後半。フランクの交響曲ニ短調。ベルギーを代表する作曲家であるセザール・フランク。ベルギー・フランス語圏の中心都市であるリエージュに生まれ、パリに出てオルガニストとして活躍。オルガンの特性をオーケストラで生かしたのが交響曲ニ短調である。初演時にはこの曲の特徴である循環形式などが不評で、失敗とされたが、フランクはよそからの評判を余り気にしない人で、「自分が思うような音が鳴っていた」と満足げであったという話が伝わっている。その後、この曲の評判は高まり、フランスを代表する交響曲との評価を勝ち得るまでになっている。
下野の指揮する京都市ジュニアオーケストラは、この曲に必要とされる音の潤沢さと色彩感を見事に表す。音の厚みもプロオーケストラほどではないが生み出す。下野の音楽設計もしっかりしたもので、フォルムをきっちりと築き上げる。フランス音楽の肝であるエスプリ・クルトワも十分に感じられた。

 

演奏終了後、拍手を受けてから何度か引っ込んだ後で、下野はマイクを片手に登場。「本日はご来場ありがとうございます」とスピーチを行う。「ジュニアオーケストラのものとは思えない曲目が並びましたが、敢えて挑ませました」「京都市ジュニアオーケストラからは、多くの人材が、それこそ数えられないくらい輩出しているのですが」とこのオーケストラの意義を讃えた上で、合奏指導を行った二人を紹介することにする。
下野「指導は人に任せて私はいいとこ取り。極悪指揮者なので」

一人目は、井出奏(いで・かな)。彼女も漢字だけ見ると男性なのか女性なのか分からない名前である。東京都出身で、現在は東京藝術大学指揮科に在学中であり、下野の指導も受けている。なお、藝大に入る前には桐朋学園大学でヴァイオリンを専攻しており、藝大には学士入学となるようである。
井出奏の指揮によるアンコール演奏、ビゼーの「アルルの女」より“ファランドール”。メンバーを増やしての演奏である。
やや遅めのテンポによる堂々とした音楽作りなのだが、京都コンサートホールは天井が高く、残響が留まりやすい上に音が広がる傾向があり、スケールが野放図になって音が飽和し、全体像のぼやけた演奏になってしまっていた。やはりホールの音響特性を事前に把握しておくことは重要なようである。東京の人なので、十分に下調べを行うことが出来なかったのだろう。

二人目は、東尾多聞。京都市立芸術大学指揮専攻の学生である。奈良県出身。下野も京都市立芸大を退任するまでの2年間だけ直接指導したことがあるという。
演奏するのはヨハン・シュトラウスⅠ世の「ラデツキー行進曲」。
東尾はおそらく京都コンサートホールでの演奏経験が何度かあり、厄介な音響だということを知っていたため、音を抑えめにして輪郭を形作っていた。
演奏途中に下野と井出がステージ上に現れ、聴衆の手拍子の誘導などを行っていた。

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