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2025年3月30日 (日)

観劇感想精選(487) 令和七年 京都四條南座「三月花形歌舞伎」松プログラム 「妹背山婦女庭訓」より三笠山御殿&「於染久松色讀販」 令和七年三月二十二日

2025年3月22日 京都四條南座にて

午後3時30分から、京都四條南座で、「三月花形歌舞伎」を視る。
毎年3月に、若手歌舞伎俳優達が競演を行う南座の「三月花形歌舞伎」。若手ということでチケット料金も安めで、実力者が多く出るというので人気の公演。南座のホワイエなどを見ると、どうもイケメン枠で売り出そうとしている人達もいるようだ。悪いことではないと思う。番付も若い女性を意識した可愛らしいデザインである。客席には男女ともにお年を召した方が目立つので、若者達を客席に呼び込みたいという意思が感じられる。

人気とは言え、大物歌舞伎俳優は出演しないため、満員からは遠い。ただ知名度の低い人が多いのにこれだけ入るのはたいしたものとも言える。

今回は、松プログラムと桜プログラムの2種類を用意。約20日ほどの公演だが、前半は午前の部が松プログラムで午後の部が桜プログラム。これが折り返し地点で逆になる。明日で公演は終わるので、今日の午後の部は松プログラムの上演である。

松プログラムは、「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」より三笠山御殿と、中村壱太郎(かずたろう。成駒家)が早替わりで5役を演じる「於染久松色讀販(おそめひさまつうきなのよみうり)」の2本が上演される。なお、桜プログラムの2作目もやはり中村壱太郎早替わり5役の「御染久松色讀販」が上演されるが、後半の筋書きと演出、更に壱太郎の演じる役が異なるようである。

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開演前に、中村虎之介(成駒屋)による前説があり、作品解説が行われたほか(「『妹背山婦女庭訓』で藤原鎌足の息子である藤原淡海をやるのは、シュッとして色白でいい男、私がやります」と紹介していた。また「『於染久松色讀販』は、壱太郎さんが5役早替えでやります。あれ、『これ壱太郎さんじゃないかな?』と思っても壱太郎さんです」)、恒例の写真撮影会を南座のゆるキャラである、みなみーなと共に行った。

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「妹背山婦女庭訓」より三笠山御殿。蘇我入鹿(市川猿弥)が悪役である。飛鳥時代が舞台ということになっている。当時、政権をほしいままにしていた蘇我入鹿とその父の蘇我蝦夷が住んでいたのは飛鳥の甘樫丘ということになっているが、本作では奈良の三笠山に御殿があるということになっている。入鹿と敵対しているのは藤原鎌足(中臣鎌足)であり、その子の烏帽子折求女実は藤原淡海(中村虎之介)である。淡海は、入鹿の娘の橘姫(上村吉太朗)と恋仲であり、糸をつけて苧環(おだまき)で彼女のことを追っている。そんな淡海の袖に糸をつけてこれまた追いかけている若い女性が一人、お三輪(中村米吉。播磨屋)である。三輪という名前と苧環、大和国が舞台であることから、「三輪山伝説」が掛けられていることが分かる。
求女は、仇敵である入鹿の娘に取り入ることで、入鹿を討つ機会を狙っている。
そんな求女の正体も知らずに惚れて三笠御殿まで来てしまったお三輪。身分が低いので貴族達のしきたりなど何も知らない。御殿に上がろうとするが、女官達に行く手を遮られる。女官達はこの場では男の声で話し、お三輪を馬鹿にし、もてあそび、散々に苛める。いつの時代も女だけの世界は怖いようである。そうした冷遇に必死に耐えるお三輪が愛らしいが、よく考えるとこのお三輪もかなりやばめの女である。女官達に帰るように言われても、「求女様の顔が見たい」、求女の祝言の声が聞こえてもまだ「求女様の顔が見たい」。当時はそんな言葉は当然ながらなかったが、ストーカー気質であり、かなりの粘着質である。
最後は、お三輪も鬼の形相に変わり、ここで鎌足配下の鱶七(ふかしち。中村福之助)に討ち取られる。蘇我入鹿は、母親が白い牝鹿の生き血を飲んだことで生まれた。そのため入鹿と名付けられ、不死身だが、黒い鹿と疑着の相の女の血を混ぜて笛に入れ、吹くと入鹿は正体をなくすという。
お三輪は、自身が求女の役に立てることを喜んで死んでいくのだが、死に方はかなり悲惨であり、現代人の思考ではついて行けない部分も多いと思われる。

お三輪を演じた中村米吉の繊細な演技と、憤怒の際(疑着の相)のエネルギー量の多さが印象的であった。

 

「於染久松色讀販」。中村壱太郎が、早替わりで、お染、久松、お光、鬼門の喜兵衛、土手のお六の5役を演じる。
ちょっとした小芝居があった後で、久松で現れた壱太郎。茂みの中に引っ込むと、花道を駕籠が通る。丁度、セリの上に駕籠が置かれ、駕籠かき達が話している間にセリから駕籠の中に移ってお染として姿を現す。その後も駕籠は駕籠かき達が話していて動かないが、その間にセリから下に出て舞台に戻り、久松となって現れる。
その後、舞台上でくるりと入れ替わったり、ゴザの後ろにいるときに衣装を変えたりと、次々と早替えを披露。
最後は土手のお六となり、「なりこまや」と書かれた番傘が踊る中、正座して、「本日はこれにて終演といたしまする」と終演を告げた。
単に衣装を変えるだけでなく、キャラクターも一瞬で変える。歌舞伎俳優の凄みを見せた演目であった。

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