« コンサートの記(894) アルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)&坂本龍一 「insen」2006@大阪厚生年金会館芸術ホール | トップページ | これまでに観た映画より(381) 「その街のこども 劇場版」 »

2025年3月10日 (月)

これまでに観た映画より(380) 「事実無根」

2025年3月5日 京都シネマにて

京都シネマで、日本映画「事実無根」を観る。原案・監督:柳裕章、脚本:松下隆一。出演:近藤芳正、村田雄浩、東茉凜(あずま・まりん)、西園寺章雄、和泉敬子ほか。

京都の女性と結婚してからは京都市在住となった俳優の近藤芳正。彼が京都の映画人に呼びかけて作った京都を舞台とする映画である。低予算映画ということもあって、お披露目公開をしてからしばらく眠っており、今年の2月21日から3月6日まで、京都シネマにおいて2週間のみの公開が行われている。今後はクラウドファンディングなどで全国での公開を目指すようである。なお、海外ではすでに多くの賞を受賞している。
ご当地映画ということで、京都シネマで2番目に大きいCinema2(定員90名)はほぼ満員の盛況である。

「そのうちcafe」という実在の喫茶店が舞台となっている。ヒロインの東茉凜はオーディションで選ばれた新人である。

京都駅前。京都駅ビルと京都タワーが映る。東本願寺(真宗本廟)の御影堂門と噴水の間、お東さん広場を北に向かって歩く若い女性がいる。大林沙耶(東茉凜)である。現在、18歳。彼女が向かっているのは、五条高倉の六條院公園に面した「そのうちcafe」である。一方、路地を歩く男性。彼も「そのうちcafe」に向かっている。「そのうちcafe」の店主である星孝史(近藤芳正)である。星は長く太秦で映画の助監督を務めていたのだが、監督には上がれないことが確実になって退社。たまたま入ったカフェの店員となり、そのうちに「良いカフェがある」との紹介を受けて「そのうちcafe」のマスターとなったのだった。「そのうちcafe」の前では子どもたちが遊んでいる。沙耶が戸惑っているところに星がやって来る。店を開ける星。星は子ども達に人気があり、一緒に遊んだりしているが、缶蹴りをしていた時に転んで右手を負傷してしまっていた。そのためアシスタントとしてアルバイトを募集したのだが、それに応募してきたのが沙耶だった。
高校を卒業したばかりだという沙耶。星は「高校を卒業したばかりならアルバイトよりも就職した方が良いんじゃないの?」と聞くが、沙耶は、「就職する前に体を慣らしておいた方が良いと思いまして」などと答える。高卒直後に就職しないと不利になるが、星は沙耶を雇うことにする。慣れていないということもあって、ちょっとドジなところのある沙耶。「京都が好きなので京都で働けるだけで嬉しい」と言うが、大阪府高槻市在住で、京都市内からは少しだけ遠い。ということで交通費も全額は出ない。JR京都駅を使っているため、阪急高槻市駅などではなく、JR高槻駅などから京都に来ていると思われる。だが、この沙耶。名前も学歴も全て嘘だったことが後に分かる。住所についても判然としないが、JR京都駅を使っていることは間違いないので、高槻に住んでいるというのは本当かも知れない。

その沙耶(偽名だが)を六條院公園内から見つめるホームレス風の男(村田雄浩)がいることに星は気付く。夜、男に近づいて話しかける星。「これ以上、彼女につきまとったら警察呼ぶぞ!」と警告する。ホームレス風の男は「自分で警察に連絡する」と言ってスマホを取り出し、ボタンを押す。星がスマホを取り上げるが、男が掛けたのは「110番」ではなく、「117番」つまり時報だった(ちなみにホームレスなのにスマホを充電できるのか、であるが、屋外型の有料充電サービスが今はあるので、そこで充電している、のかと思いきや、スーパーで勝手に充電していた。立派な窃盗罪である)。男はあの子は義理の娘で、自分は義理の娘の父親だと打ち明ける(星に、「だったら義理の父親でいいだろ!」と突っ込まれる)。男は元々は大学教授をしていたのだが(その後に話す内容からフランス文学の教授らしいことが分かる)、学内においてセクハラで訴えられ、「事実無根」として無実を訴えた裁判にも負けて、最終的には離婚して家を追い出されたようで、義理の娘にも会えなくなった。男の名は大林明彦。
星はバツイチで、娘の親権は相手が取り、「月に1回、娘に会わせる」という約束も反故にされて娘とは長い間顔を合わせていない。離婚調停において妻から「DVを受けた」と、「事実無根」の証言をされていた。大林の気持ちが分かった星は、星が勤めていた大学(岩倉木野にある京都精華大学がロケ地となっており、精華大学に通う際に多くの学生が使う叡山電車の車両と京都精華大前駅のホームも映る。ただ、京都精華大学にはフランス文学系の専攻は存在しないため、あくまでも架空の大学である)を訪れ、セクハラの被害者を名乗っていた助教の女性に新聞記者だと身分を偽って会う。女性は大林の証言を否定するが、星は直感で彼女は嘘をついていると確信した。

星は、大林を沙耶に会わせることにする。だまし討ちに近い形で沙耶を大林に会わせた星だが、大林が「沙耶」ではなく「悠美(ゆうみ)」と呼びかけるのを見て驚く。沙耶は偽名で本名は悠美。大林が離婚したので、現在は大林ではなく中野姓になっている。つまり中野悠美が本名である。大林が裁判に負けてからは4~5年ほど引き籠もりを続けており、高校も中退していた。そしてなんといっても、悠美は星の娘の名前だった。星の元妻は大林と再婚。悠美は大林の義理の娘であり、星の実の娘でもあったのだ。実父が京都でカフェを経営していることを知り、会いたくて正体を偽り、アルバイト店員として実父と過ごしていたのだった。

少し複雑な親子関係を描いた作品で、描き方にはよってはドロドロ系になってもおかしくないのだが、京都という時間の流れがゆったりした街で繰り広げられるということもあって、まったり系の話になっている。

正直、傑出した映画ではないかも知れないが、東京的なせわしない程の劇的な展開とは異なった映画となっており、東京を中心とした大手の映画製作会社の作品とは違った「手作り」的な味わいがある。京都という日本最大の観光地を舞台にしながら、それほど観光色を表に出さず、京都で暮らす人々の日常を主軸にしているのも良いと感じた。

映画デビュー作だと思われる東茉凜は、初々しい演技が好印象だが、正直、容姿で勝負出来るタイプではないため、これからも女優を続けるのなら演技をもっともっと磨く必要があるように思う。幸い、日本の芸能界はルッキズムがやわらぐ傾向にあり、絶世の美女でなくても主役やヒロインになれる場合も多く、この傾向は当分続くだろうから、チャンスはあるだろう。

なお、元刑事の城田を演じた西園寺章雄が今年の1月14日に他界しており、この映画は彼に捧げられている。

Dsc_3601

| |

« コンサートの記(894) アルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)&坂本龍一 「insen」2006@大阪厚生年金会館芸術ホール | トップページ | これまでに観た映画より(381) 「その街のこども 劇場版」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« コンサートの記(894) アルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)&坂本龍一 「insen」2006@大阪厚生年金会館芸術ホール | トップページ | これまでに観た映画より(381) 「その街のこども 劇場版」 »