楽興の時(49) 新内弥栄派家元 師籍四十五周年記念 新内浄瑠璃と舞踊の祭典「新内枝幸太夫の会」
2025年4月8日 左京区岡崎のロームシアター京都サウスホール
午前11時から、左京区岡崎のロームシアター京都サウスホールで、新内弥栄派家元 師籍四十五周年記念 新内浄瑠璃と舞踊の祭典「新内枝幸太夫の会」を聴く。私の年の離れた友人である新内枝幸太夫師匠とその一門、日本の伝統芸能者を多く集めた祭典である。
とはいえ、日本の伝統芸能はそれほど愛好者の広がりはないため、多くは枝幸太夫の身内や知り合い、友人である。
五部形式で、一部終了後に15分の休憩があるが、その後は、二部から五部までぶっ通し。終演時間は午後6時前で、実に7時間近くも上演が続いたことになる。
最初から最後まで付き合う人も勿論いたが、途中退席、途中抜けだし、遅れてくる人などもいる。余り劇場に慣れていない人が多いことも分かる。
「新内枝幸太夫の会」は、これまでは街中にあるが、レセプショニストなどはいないウイングス京都などで公演を行ってきたが、今年は京都で最も格式の高い京都会館ことロームシアター京都のサウスホールでの公演となった。大規模ホールであるメインホールでこそないが、多くの一流ミュージシャン(細野晴臣や原田知世)が立ったサウスホールも、新内が公演を行えるホールとしては最上級であろう。集客的にメインホールでの公演は無理なので、サウスホールで頂点に立ったと言える。
鳴物は、望月太津寿郎連中。
演目であるが、出演者の体調不良のためにカットされたものもあれば、枝幸太夫が予定になかった歌を付け加えたケースもある。
第1部が、「広重八景」、新内小唄「花合わせ」、「丸山甚句」、新内小唄「月天心」、新内小唄「蘭蝶」、新内小唄「別れてから」、「更けゆく鐘」、蘭蝶(上)四谷、口上「新名取披露」
「広重八景」(弾き語り:新内枝幸太夫)では、芳宗航が見事な舞を見せる。
「月天心」は、与謝蕪村の俳句が出てくるが、「貧しき街を通」ったのは大工ということになっている(語り:堤内裕)。
第2部が、新内流しと前弾き三味線、「古都春秋」、「むじな」、「忍冬(すいかずら)」、「葛の葉」
新内流しと前弾き三味線では、枝幸太夫師匠が三味線を弾きながら中央通路を歩き、おひねりを貰ったりする。師匠が私を見つけて、「本保ちゃんや。久しぶり」と挨拶したりした。
「古都春秋」は、その名の通り京都の名物が歌われるのだが、春は祇園甲部の都をどりが採用されており、「コンチキチン」の響きが流れる。
「むじな」は、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンがまとめた『怪談』からの話で、のっぺらぼうが出てくる(枝幸太夫の弾き語り。立方:紀乃元瑛右)。
「葛の葉」は、安倍晴明の母親である信太の森の葛葉狐の話である。立方は芝千桜。影絵で狐を浮かび上がらせたり、凝った演出である。
葛葉狐の和歌、「恋しくばたずね来てみよ泉なる信田の森のうらみ葛の葉」は、その場で障子に墨で書かれる。
3部では、枝幸太夫が日本コロムビアからCDを出している楽曲の歌唱。「青海波」、「綾子舞の女」、「約束橋」、「眠れない夜は」、「龍馬ありて」が歌われ、立方が舞を披露する。「約束橋」では何度か顔を合わせている藤和弘扇さんが舞を披露した。また「龍馬ありて」では、龍馬ゆかりの高知県から美穂川圭輔がやって来て舞を披露した。高知-京都間の最もポピュラーな移動手段は高速バスだが、8時間近く掛かる。
カラオケによる歌唱だが、「龍馬ありて」はいつもに比べて走り気味。仮に指揮者がいたとしたら一拍目を振る前に歌い始めている。ステージ上の音響も影響したのだろう。
4部では、物語性のある曲が奏でられる。「明烏夢泡雪」(下)雪責め、「蘭蝶」(下)縁切り、「帰咲名残命毛(かえりざきなごりのいのちげ)」尾上伊太八(おのええだはち)、「梅雨衣酸月情話(つゆころもすいげつじょうわ)」、「日高川」渡し場。「日高川」は、ご存じ安珍・清姫の話だが、清姫が日高川を泳ぎ切り、鬼の顔をした蛇になるところで終わる。
第5部は、枝幸太夫の「勧進帳」に始まる。立方は若柳吉翔。枝幸太夫の弾き語り。歌舞伎などでお馴染みの「勧進帳」をほぼアレンジすることなく歌と踊りでの表現に変えている。立方は、一貫して武蔵坊弁慶だけを舞で演じる。
「蘇一陽来復(よみがえりまたはるがくる)」巳では、道成寺に至り、鐘に巻き付いて焼き殺す清姫の話なども語られるが、それとは関係のない話も歌われる。立方は、花柳與桂。枝幸太夫の弾き語り。
ラストは「子宝三番叟」。立方は、藤三智栄と藤三智愛。優雅でキリリとした舞が行われた。弾き語りは枝幸太夫だが、ほかにも語りと三味線、上調子がいる。
一度幕が下りてから、再び上がって、千穐楽のおひねりとして手ぬぐいがまかれた。
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